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個人別採算制度「個人Will」でガラリと変わった!ディスコ社員の意識と働き方

仕事

2020.10.28

共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

2020年の「働きがいのある会社」ランキング*、同女性ランキング*でも第2位に選ばれ、12年連続ランクインしているディスコ。高度な「切る」「削る」「磨く」の3種類の技術に特化し、半導体や電子部品といった微細な加工が要求される分野向けに製品を提供する老舗メーカーです。

 

社員が大きな働きがいを感じられるようになった背景には、個人別採算制度「個人Will」の開始があるといいます。特に、「個人Will」で具体的に何が変わったのか、個人Will本格スタートの翌年に入社した福井さん(仮名)にお聞きしました。

    *Great Place to Work® Institute Japan主催

 

 

PROFILE 福井真紀さん(仮名)


株式会社ディスコWill経営推進室所属。2012年に新卒で入社。新入社員が配属されるアプリケーション大学を経て、アプリケーション開発部に配属。2016年に結婚後、2017年に女児を出産。産休・育休を経て復帰する際、自分のライフスタイルに合う部署を探し、自らの意志でWill経営推進室に異動。社内結婚の夫は単身赴任で海外勤務中のため、ワンオペ子育て中。

上司の指示ではなく、自分の意志で仕事を決める

——創業80年を超える歴史を持つディスコが2011年に開始した「個人Will」は、社員の働きがいやモチベーションを向上させた画期的な制度として、国内だけではく海外からも注目されています。まずは個人Willとはどんなものなのかお聞かせください。

 

福井さん:

Willとは、従業員が自分自身の採算を管理する単位です。社内のあらゆる仕事や物事にWillを用いた金額設定がされているので、仕事をすればその分のWillが収入として入り、誰かに仕事を頼んだり、会議室や備品など社内設備を使った場合、さらには自分の人件費も支出となります。月ごとの個人Willの収支結果は一定割合で賞与にも影響します。

 

”Will”という名称には、社員の意志を持った活動を応援したいという思いが込められている一方、成功には報酬を、失敗には痛み(課金)をということで、結果だけではなく責任も権限移譲していく仕組みになっているんです。

 

——Will収支を通して、自分がどれだけ会社に貢献しているのかが明確にわかる仕組みですね。そもそも個人Willが始まった経緯を教えてください。


福井さん:

まず2003年に、部門ごとの採算を見える化する「部門Will」を開始しました。変動の激しい半導体業界に対応するため、部門別の採算に関する素早い意思決定を目指したものです。

 

その結果、部門長や特定の担当者の意識は変わったのですが、それ以上には浸透せず、ほとんどの社員は賞与の直前にしか部門採算を意識しない、という状態になってしまったんです。そこで、個人レベルで収支を見える化する個人Willを開始することで、全社員の採算への意識向上を図りました。同時に、すべての仕事を「案件掲示」することを基本とし、上司からの指示で仕事をするのではなく、やりたい人がオークションなどで案件を落札する仕組みも取り入れました。

 

仕事を個人のウィル(意志)で決めることができるので、得意分野での価値交換をしながら、働きがいやモチベーションを向上させることを目指しています。

 

——すべての仕事を自分で選ぶ仕組みはとても画期的ですが、実際にどのように運用されるているのか…想像がつかないです!

 

福井さん:

今回のこの取材も、広報室からWill経営推進室に案件掲示されたものです。それに対して「私がやります!」と手を挙げ、落札しました。案件が完了するとWillが私の収入として入ってくる仕組みです。

 

仕事によっては、他部署の者も手を挙げることができます。たとえば翻訳業務が発生した時、個人Willが始まる前はいつも決まった人に頼んでいたため、その人が忙しいと結果的に納期が遅れてしまうことがありました。


それが今は、「この翻訳をやってくれる人!」と案件掲示することで、最短で安く、しかも最適な人員に仕事が割り振れるようになったんです。

 

誰も手を挙げない不要な仕事は淘汰される

——オークションという仕組みだと、誰も手を挙げないこともありそうですね。そういった場合はどうなるのでしょうか。

 

福井さん:

手を挙げる人がいなかった場合は、当初の5倍か定価・相場の5倍のWillを支払って誰かを指名することもできます。とはいえ、そこで「そこまで高い金額を払ってまでやる必要があるのか」と再考を迫られるので、無意味な仕事は淘汰されていくことになります。

 

——なるほど。無駄なものがどんどん削ぎ落とされていくのですね。それにしても、仕事を依頼する時に「何Willで提示するか」という相場感を決めるのが難しそうです。目安となるような基準がありますか。

 

個人Willの収入や支出は、社有スマホのアプリで確認できる。上はある広報担当者の収入画面。「WFチェック料」は種々の承認申請内容をチェックする仕事のフィーのこと(WFはワークフローの略)。「シリーズ:家電とディスコ」という記載は、『家電とディスコ』というシリーズコラムの執筆フィーを指す。

 

福井さん:

これまでの事例を参考にしながら値付けする場合が多いとは思います。

 

ただ、参考事例がなく、ごく安い金額で請け負ってしまった時には「次回からはこんな金額では請け負えないな」となるでしょうし、同じように必要以上に高い金額で落札した人がいた場合には、依頼者側が「この人に頼むと高くつくから、次は他の人にお願いしよう」となるのが通例です。

 

——経験しながら値付け感をつかみ、それを次に生かしていく、ということですね。

 

福井さん:

実際、まだまだ値付け感には悩むことが多いです。私の所属するWill経営推進室は、値付けを推進する部署ではないので、部署や個人間のやりとりに関わることはありません。適正価格については、部署ごとに相場感の違いもあるので難しいところがあり、その点は課題だと感じています。

 

結局はお互いの納得感だと思います。成果物とその対価に双方が納得しているか、価値交換ができているか、ですね。

 

一方で、経営としては、提示する案件に高額の値付けをすることで、会社が何に力を入れているのかを社員に明確に示すという使い方もできていると思います。

 

Willがかかっているからこそ真摯に向き合う

——今でこそ社員の皆さんが個人Willの良さを実感し、うまく活用されていると思いますが、9年前に本格スタートした当初はどのような反応があったのでしょうか。

 

福井さん:

2011年末に一部の部署で開始され、徐々に本格スタートされることが社内中で噂になり、浮き足立っていた社員が多かったと聞いています。採用後は、やはり「個人Willって何?」と戸惑ってしまう人が多く、個人Willの思想が合わず会社を去った人も一定数いたそうです。

 

ですから、最初から上手に使いこなしている人の方が少なかったと思います。そういう状況でも、会社は一貫して、個人Willの良さや「こういうふうに活用してほしい」というメッセージを発信しつづけてきました。Will経営推進室としても、個人Willは個人の自由度を担保するための仕組みであるということを伝える活動にも力を入れてきましたし、Willの支払いツールの整備など運用時の負荷を軽減するための工夫も継続的に行っています。

 

社員に浸透したきっかけとして一番大きかった要素は、賞与と連動させたことだと思いますね。自分の賞与に個人Willの収支が関係してくる、しかも小さな額ではないので無視できない、というのが実際のところではないかと思います。

 

——自分の利害に直接絡んでくるからこそ、自分ごととして取り組めたのですね。個人Willはまた、業務改善活動でも効果を発揮していると聞きました。

 

福井さん:

PIM(パフォーマンス イノベーション マネージメント)のことですね。ディスコでは、本社を含む国内外全ての拠点で全社的に改善に取り組んでいます。

 

なかでも面白い仕組みが、各部門の改善事例の発表を「PIM対戦」と呼ぶ対戦形式で行うことです。赤コーナーと青コーナーに分かれて改善事例を発表し、観覧者は勝つと予想した側にWillを賭けます。勝った方が報酬としてWillをもらえ、負けた方はWillを支払うことになりますが、それだけでなく勝者に賭けた観覧者も配当をもらえるんです。

 

 

——賭けて配当までもらえるとは驚きました。

 

福井さん:

Willを賭けているので、観覧者側も発表内容をしっかりと聞きますよね。すると、この改善事例はうちでも取り入れられると思った部署はどんどん取り入れていきます。こういった改善事例の水平展開が狙いです。

 

また、対戦で勝った場合のWill報酬が高額に設定されているため、PIM活動そのものに真剣に取り組むという成果も出ています。

 

 

社員のモチベーションアップや業務改善につながっているだけでなく、個々人が「自分はどんな仕事をしたいのか」をしっかり考えざるを得ない——その意味でも、「個人Will」は非常によく考えられた制度です。不要な仕事が淘汰されていくという点でも、学ぶところが多いのではないでしょうか。

 

次回は、「個人Will」と働きやすさの相関関係について、さらに詳しくお話を伺います。

 

取材・文/平地紘子

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