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不妊やがんに直面した社員を支える!ソニーが導入する「シンフォニープラン」

仕事

2020.10.20

共働き時代に見合った自分らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

今回紹介するのは、ソニーが導入している「シンフォニープラン」です。不妊治療やがん治療に取り組むことになっても、仕事も家庭生活も充実させたい。そんな願いをかなえるために、2020年に拡充されました。

 

前回から引き続き人事担当の竹田さんと、現在不妊治療への支援制度を利用している小林さん夫妻(仮名)にお話を伺いました。

 

ソニー株式会社・エレクトロニクス人事部門に所属する竹田恭子さん。ダイバーシティ&インクルージョンの推進を中心に、働き方改革、両立支援を行い、制度企画からセミナー運営まで幅広く担当。4歳の女の子の母として仕事と家庭の両立にも奔走中。

  

本音ベースで仕事と家庭生活が両立できる制度を

——まず「シンフォニープラン」というネーミングがユニークですね。名前の由来は何だったのでしょうか?

 

竹田さん:

シンフォニーは交響曲や調和という意味を持っており、ソニーの事業の原点である「音」にもつながる言葉です。ソニーは、多岐にわたる事業とそれを支える多様な人材こそが価値創造の重要な基盤であると考えています。そんな多様なバックグラウンドを持つ社員が、さまざまなライフイベントと仕事を調和させながら両立できるようにと願って、「シンフォニープラン」と名付けました。

 

 「社員の多様なチャレンジを支えたい」というソニー。会社側の柔軟な姿勢が働く人の意識の高さに繋がっている。

 

——夢のある素敵な名前ですね。その「シンフォニープラン」の中に、不妊治療とがんの治療を入れた背景について教えてください。

 

竹田さん:

今回取り上げている「不妊治療」「育児」「介護」「がんの治療」は、誰の人生にも起こりうるライフイベントですが、いつ起こるのか予測がつきません。社員がそれらにいつ直面しても仕事と家庭生活の両立ができるよう、シンフォニープランと名付けた両立支援制度を設けて環境を整えています。

 

シンフォニープランでは、以前から「育児」と「介護」に関する施策を中心に拡充を行っていました。ただ、両立支援担当としては、「育児」と「介護」以外の両立を行う社員の声に対応できていない部分があると感じていました。また、他社が行った「年度別卒就職・採用活動に関する調査」の結果から、もっと一人ひとりに合った柔軟な働き方をサポートする必要があると痛感しました。これは「給与の高さ」「仕事の内容」「働きやすさ」のうち何を重視するかについてのアンケートです。2015年では「仕事の内容」がトップでしたが、2018年には「働きやすさ」がトップに。働く上で重要視されることが変わってきているんだと実感しました。そこで2020年4月からは、社会問題にもなっている「がん治療」と「不妊治療」を新たに加え、より働きやすい環境づくりを目指しています。  

 

——日本人の2人に1人がかかると言われる「がん」は特に関心が高いのではないでしょうか。制度内容について詳しく教えてください。珍しい制度ゆえに、制度化するうえで大変だったことはありますか?

 

竹田さん:

働きながらがん治療するという環境が当たり前になるよう、柔軟な働き方を選択できる仕組みにしました。精密検査時に利用可能な休暇をはじめ、短時間勤務やフレックス勤務を導入しました。

 

大変だった点は、専門知識が問われる部分が多く、わからないことが多かったことですね。なので、産業保健部の医師と看護師に何度も相談をしながら、どういう治療のときにどんな働き方が可能なのかを細かく検討していきました。

  

妊活をがんばる人をサポートしたい!

 ——「不妊治療」を受ける人も年々増加していると聞きます。支援制度の内容について教えてください。

 

竹田さん:

12回の有給休暇(基本給の70%支給)をはじめ、1年間の休職(無給)や治療期間中の短時間(6時間)勤務、年20万円(上限100万円)の支援金を用意し、自由に選べるようにしています。対象者の性別は問いません。支援金は社員のパートナーも利用できます。

  

——「不妊治療」の支援を制度化した例は少ないように思います。どうして制度化に踏み切ったのでしょうか?

 

竹田さん:

ソニーには、ママ社員のネットワーク活動である「ソニーママ繋がりの会」や、「DIVISonyDiversity Initiative for Value Innovation at Sony」という、各職場から選出された社員が、社員目線でダイバーシティ&インクルージョンへの理解を広めるため、さまざまな活動を、自ら企画して実行している社員活動があります。私はその事務局でも活動しているのですが、活動を通じて何人かから不妊治療について相談を受けたんです。また、毎年行う意識調査の中で、多くの人が大変な思いをして不妊治療されていると知りました。社会問題になっていることですし、実際、社内でも当事者が多い。その状況を受けて制度化に踏み切りました。 

 

——社員の生の声を聞く場に積極的に参加されているのは素晴らしいことですね。小林さんは「不妊治療」支援のうち、どの制度を利用されていますか?

 

小林さん: 

今は支援金がメインです。2017年の秋から妊活を開始し自然妊娠を望んでいましたが、なかなか子宝に恵まれなかったこと、自然妊娠が難しくなるといわれている35歳を過ぎていたこともあり、2018年から不妊治療専門の病院に通い始めました。

 

初めはタイミング法、人工授精を行いましたが妊娠に至らず、今は体外受精に挑戦しています。これまで採卵を4回、移植を6回行いましたが、体外受精にかかる費用はとても高額なうえ、自由診療のため保険適用外。実際、わが家では下記のように、今年に入ってからの7か月間だけで約170万円かかっています。費用は病院や治療法によって幅があるため、あくまで一例ですが、どの病院であっても決して少額ではありません。

 

「私たちはその都度できることはできるだけやろうとオプションの検査をつけたり、鍼灸に通ったりしているので、費用はかさんでいるほうだと思います」(小林さん)

 

不妊治療を国や地方自治体が経済的にサポートする特定不妊治療費助成制度がありますが、所得制限があり私たちは利用することができません。なので、会社から20万円の支援を受けられるのは本当にありがたいです。

 

 ——会社が経済的にフォローしてくれると、安心できる部分は大きいでしょうね。

 

小林さん:

本当にそのとおりですね。不妊治療を始めたころは、すぐに子どもができるだろうと楽観視していて…。これほどゴールが見えないトンネルの中にいるような、苦しい状態を経験するのは初めてでした。毎回ベストを尽くしているけど結果が出なくて落ち込む、の繰り返しですし。精神的にも身体的にも経済的にもしんどいことは多いですが、「もうちょっと頑張ってみよう」と前向きに続けられるのも、こういった制度で会社が支えてくれているからかもしれません。

 

まわりに理解される環境づくりも大切に

——不妊治療中は通院の回数がかなり多いと聞きます。制度があるとはいえ、休みづらいと感じることはありませんか?

 

小林さん:

おっしゃるとおり、高度不妊治療といわれる体外受精の場合は、通院回数は多くなりますし、身体の状態によって急に通院が決まるので、仕事のスケジュールを調整する必要があります。でも、部署内で不妊治療のことを思い切って話したら、上司をはじめ同僚がすごく理解してくれて。通院日で出勤できないときは、同僚が快く仕事を代わってくれ、おかげで後ろめたい気持ちで休まずに済んでいます。まわりの環境に恵まれているなと感じますね。

 

体外受精で受精卵を移植し、妊娠判定が出るまでのスケジュール表。数種類の薬を飲むタイミングまでが詳細に決められ、厳しい自己管理が求められる。

 

——いろいろな負担がある状況ですから、周囲の理解が得られているのはありがたいですね。上司の理解を得やすくするために、会社側が何らかの働きかけをしているのでしょうか?

 

竹田さん:

ソニーでは、事業を支える多様なバックグランドを持つ人材こそが、価値創造の重要な基盤であると考えています。その考えは管理職の方にも浸透しているので、こちらから特に働きかけなくても理解がある人が多いように思います。

 

とはいえ、全員そうとは言い切れないので、社員に向けて不妊治療を学ぶ場をつくり、関心を深めてもらう取り組みを行っています。職場の理解というのは一番大事な要素ですから。制度を作るだけでなく、周知を高めてさらに推進し、誰もが制度を利用しやすくなる環境づくりは今後も続けていきたいと思っています。

 

小林さん:

若い社員に向けた、家族計画を含む人生設計について知り、考える場がもっとあるといいと思います。私自身、働くことが大好きで仕事に邁進していました。結婚していざ子どもが欲しいとなったときに、まさかの“不妊の壁”にぶち当たった感じでしたから…。若いときに正しい知識を持っていたら別の選択もできたかもしれない、と思うことは多々あります。

 

ですから、妊娠適齢期と言われる20代から30代前半の方には、妊活や不妊治療の実態を知っておいてほしくて。知ればきっと、その後の人生設計の選択肢が広がると思うんです。

 

——確かにそれは重要なことですね。小林さんご自身がシンフォニープランを利用する前と後で変わったことはありますか?

 

小林さん:

会社が育児や介護と同じように不妊治療への支援を制度化してくれたおかげで、自分だけじゃない、と思えるようになりました。今までは不妊治療は特殊なもので、職場に言わずに治療していた人もたくさんいると思うんです。でも、制度があれば、誰もが直面する可能性があると捉えられるようになりますよね。

 

不妊治療に取り組んでいることは決して特殊でも恥ずかしいことでもない。以前と比べて、仕事も治療も前向きに取り組めるようになった気がします。

 

 

精神的にも経済的にも負担がかかる不妊治療やがん治療。それらを支援する会社の制度が、治療に取り組む人の心の支えになっているのがひしひしと伝わってきました。社員にとって必要な制度をつくるには、働き手の意識の変化や悩みを敏感にキャッチすることが最も大切なのではないでしょうか。

 

取材・文/小松﨑裕夏 撮影/林 ひろし

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