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有給休暇とは違う「有給傷病休暇」 体調不良でも休める社会へ

仕事

2020.04.30

新型コロナウイルスの感染が拡大したこの数ヶ月の間、「発熱などの体調不良でも休めない」という声がSNSで多々発信されています。具合が悪くても無理をしなければならない日本の働き方に疑問を感じた方も多いかと思います。


そんな中で注目されているのが「有給傷病休暇」という制度。簡単に言うと年次有給休暇とは別に設けられる病気や通院のための有給休暇のことです。厚生労働省も特別な休暇制度として普及を呼びかけていますが、導入は企業の任意となっており認知度はまだまだ低い制度です。

 

有給傷病休暇制度を日本に定着させるべく法制化に向けた署名活動を行っている遠藤結万さんに、どのような制度なのか話を伺いました。

教えてくれたのは 遠藤結万さん


デジタルマーケティングのコンサルティングを行うCMO株式会社代表取締役。 グーグルに入社して2年後に起業。著書に「世界基準で学べる エッセンシャル・デジタルマーケティング」(技術評論社)。change.orgにて有給傷病休暇の法制化を目指す署名活動を行っている。 

 

「有給傷病休暇」は世界の常識。体調不良で出社することのリスクの高さ

──有給傷病休暇というのは、日本ではあまり聞き慣れない制度ですね。どういう制度なのか教えてください。

 

遠藤さん:

日本でも外資系の企業だとよくある制度なんですが、ヨーロッパやアメリカの一部の州など主な先進国では有給傷病休暇(Paid Sick Leave・ペイドシックリーブ)という制度が導入されています。

 

アメリカではカリフォルニアなど12州で法制化されており、福利厚生として一般的だったりします。ただ日本では非常に知名度が低い制度です。

 

──日本では19年にメルカリが導入したことが話題となっていましたね。

 

遠藤さん:

そうですね。メルカリさんはグローバル企業であるということで、世界に近い制度を取り入れていらっしゃいます。

 

──メルカリでは有給傷病休暇が年に10日付与されるそうですが、世界ではどういう形が一般的なのでしょうか。

 

遠藤さん:

国によって結構差がありまして、制度として一番多いのは年に3日や2週間など一定の期間、年次有給休暇と同じ形で休む期間を与えるものです。国によっては診断書や病院に行ったことを証明する書類を出すところもあります。

 

日本以外の先進国だと年次有給休暇を病気療養で使うというのは珍しくて、普通は病気は有給傷病休暇で治す、年次有給休暇はバケーションとして取るという形が多いんです。

 

──年次有給休暇は、労働者自身の休暇や楽しみのためにあるという考え方なのですね。遠藤さんがこの制度について活動を始められたきっかけはどういうところにあるのでしょうか?

 

遠藤さん:

私が新卒で入ったのがアメリカの企業だったので、シックリーブというのは当たり前の制度でした。なので、逆に日本の制度に慣れてなかったためびっくりした経験がまずありまして。知り合いに「遊びに行こうよ」って言っても「病気のために有給はとっておかなきゃならない」という話が出て驚いていました。そして、ちょうどそのタイミングでコロナウイルスが出てきたんです。

 

辛くてもどうしても休めない方がいらっしゃるのが社会的に大きなリスクになる中で、有給傷病休暇制度を知っている方が少ないのであれば、周知徹底するためになにかアクションを取る必要があると感じました。

 

──内閣府の働き方についてのレポートでも、年次有給休暇を取り残す理由について遠藤さんのお知り合いの方と同じく「病気や急な用事のために残しておく必要があるから」と回答した人が64.6%と一番高い割合になっていました。

 

一方で、休みたい時に休めないというのも問題としてありますね。新型コロナウイルスの感染者の方の中にも、発熱していている中でも出社せざるを得ない方がいたということも報じられていました。

 

遠藤さん:

そうですね。アメリカなどでは体調が悪いにもかかわらず出社してることによるリスクって非常に大きいと言われています。感染症を広めるリスクの他、生産性が低いというところもあります。アメリカだと約1800億ドルの経済損失があるというデータもあったりするんですね。病気の中でも働いているというのは企業にとっても大きなリスクであり、社会的には病気が悪化したり、感染症が広がる危険性がありますね。

 

──コロナウイルスだけに関わらず、毎年流行するインフルエンザなどもそうしたリスクのある感染症ですよね。

 

遠藤さん:

実はインフルエンザって、国が指定する休ませなきゃいけない感染症ではないんです。なので、現状だとインフルエンザで出勤することは可能になってしまう。

 

会社の就業規則とかに「インフルエンザの場合休んでください、その場合給料の何%のお金を払います」ということが書いてあるパターンが多いんですね。要は会社都合で休ませるから会社がお金が払うという立て付けです。

 

ただそれは法律じゃないので、インフルでも出社しろと言う会社もないとはいえない。でもそれはおかしくて、感染症なり風邪なりの病気が他の人にうつらないようにするためにも会社が短期の病気休暇を取らせるべきだと国がきっちり決めなければいけないのではないでしょうか。

 

▲遠藤さんは、有給傷病休暇について国会議員との意見交換も行っている

働く我々が労働者の権利について知ることが、日本の常識を変える

──なるほど。有給傷病休暇はとても魅力的ですが、「休みたいけど職場の人員に余裕がなくて休めない」という声も多くあります。

 

遠藤さん:

日本は中小企業が多い国なので、企業側の余裕のなさや切迫した状況などにより、過労死や残業などの問題が最終的に労働者にいってしまう部分が非常に多いんです。職場に3人しかいなくて1人休んだらどうするんだ、みたいな。

 

ただ、本来守るべきは個人であって、その生活を守るというのが行政の第一原則だと思うんです。まず会社側がきちっと対処をしたり、行政側が企業を補助をするなどの必要があるのではないでしょうか。

 

有給についても、国は全員有給休暇は取るべきなんだ、100%消化すべきなんだというのが決まってるんであればきちっと義務にするべきであって、逆にそれで回らない会社ってある意味ビジネスとして間違っているところもあると思うんですよね。まず第一に個人に負担がかかりすぎないように個人を救済して、もし仮に経営者がつらくなったとしても破綻しないような設計もセーフティネットとしても必要ですね。

 

──有給傷病休暇が法制化されることにより、企業側へのそうしたケアも厚くなることが期待されますね。

有給傷病休暇については、子どもや配偶者・両親の病気や通院でも有給傷病休暇を使えるという国があるようです。育児中だと子どもの発熱で急に休まなくてはならないケースがとても多いので、便利な制度だなと思いました。

 

遠藤さん:

そうですね。子育て中の方って、共働きの家庭もそうですし、特にシングルマザーとかの方は非常に制約もあって突然休まなきゃならないってこともあるかと思います。

 

例えば、アメリカだと他にファミリーメディカルリーブアクト(FMLA)という制度もあります。年間12週間まで家族の健康とか子育てとかで休んでもいいよっていう休暇です。これは無給なので問題もあるんですが、ある程度柔軟に働き方を選べるっていうのは重要なんですよね。

 

日本の法律にはノーワークノーペイの原則というのがあって、働けない人にはお金は払いませんよというのが基本なんですね。それはそれで止むを得ない側面もあるんですが、であれば柔軟にいつ働くかを労働者側がきちっと選べるようにするのも非常に意味があることなのかなと。そういうところに日本の企業がまだ対応していないのは行政や立法の責任として、制度を設計すべきだと思います。

 

──少しずつ働き方が多様化してきているとは思いますが、有給傷病休暇はじめ個人が尊重される働き方を選べる社会にするために私たち個人でできることはありますか?

 

遠藤さん:

有給傷病休暇についていうと、まだまだ知っている人が少ない制度です。なので、これが社会に広まることは常識を変えていくことだと思っています。

 

日本では有給傷病休暇だけでなく、働く人の権利っていうのはまだまだ認知が低いんですよね。個人として生活を維持しながら負担がかかりすぎないように働くことが、次の日本の何十年かに非常に大きく影響してきます。それがいい社会を作っていくことにつながると思うので、ひとりひとりの労働者の方にまずはそういった権利に気付いていただくというのが重要だと思っています。

 

──「病気でも頑張らなければならない」「仕事において犠牲を払うことが美徳である」など、個人の負担を強いる根性論のようなものは、日本の社会にいまだ根強く残っています。この機会に、そんな働き方が当たり前という私たちの認識も変えていくべきなのかもしれません。まずは、権利や制度について知見を広げていくことから始めたいですね。

 

参考:仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2017
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/report-17/zentai.html

取材・文/阿部祐子

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