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「地元ルール」の悪意なき押し付けがしんどい…その“当たり前”は本当に当たり前なの?

ライフスタイル

2021.04.30

4月オピニオンスライダー

親戚や地域の人との密なつきあい、周囲からの「女の子」扱いなど、地方出身の女性が感じるしがらみに注目し、Twitterでも話題になった漫画『帰郷』。前編「土地のしがらみ、家のしがらみ…地方の生きづらさの正体とは?」では、作者の冬虫カイコさんに、地方在住・出身の人の生きづらさの正体について伺いました。後編ではそうした生きづらさを解消するための意識の持ち方や、地方の魅力・メリットなどについて伺いました。

意見が違ったら、対立するのではなく認めてみる

── 地方出身者や地方で暮らす人が抱く生きづらさには「帰属意識」が関わっていそうです。帰属意識自体は悪いことではありませんが、それが暴走してしまうと生きづらさが生まれてしまうのかもしれませんね。

 

冬虫さん:

そうですね。地元から一人で出ていけば、「土地のしがらみ」や「家のしがらみ」からは解放されて楽になるかもしれません。とはいえ学校や会社、子どもの園など土地以外の単位でも何かに帰属することになると思います。人によって帰属意識の大小に差はあっても、帰属に関する一切のしがらみから解放されるのは難しいですよね。すべての所属から解放されるには、それこそ出家などして社会から離れるしかないと思います。

 

── すべてのしがらみから解放されたい!と思っても、現実的になかなかそこまでは踏み切れませんね…。自分だけならまだしも、家族のことを考えるとますます難しいです。

 

冬虫さん:

家族のいる方だとママ友づきあいや近所づきあいなど、自分だけでなく家族にも影響する「帰属」が増えるので、より悩みが深いかもしれませんね。とくに帰属意識が苦手な人にとっては、悪気はなくても「みんな一緒に」という感じの意見を押し付けられると、思わず「ひとりにしてくれ」という気持ちになるのかもしれません。

冬虫カイコ『帰郷』の一部

地方出身の女性が従姉妹の葬儀をきっかけに地元に戻り、土地や家のしがらみに悩む姿を描いた冬虫さんの漫画『帰郷』の一部。「ひとりにしてくれ」というセリフは、この話の元ネタとなった友人が地元に帰省したときに実際に漏らした一言。

 

── 悪気のなさというのがネックになりそうですね。特に地方はその土地で長く同じ人たちが生きていて、新しい人があまり入ってこないという閉じられた世界であるケースが多く、悪気のなくその土地のルールやしがらみが作られてしまっていることもあるのかもしれません。そういうものと上手に付き合いながらも、生きやすさを手に入れることができればいいのですが。

 

冬虫さん:

具体的な解決策はわかりませんが、自分の気持ちを整理しつつ、相手の気持ちも認めることで生きやすくなるのではないかと思います。私自身はどちらかというと何かに所属することが苦手な方なので、フリーランスという今の立場は楽に過ごせています。一方で所属がないと不安という人の気持ちもわからなくもないんですよね。

 

帰属意識が強い人、何かに所属することに違和感がある人、あるグループへの所属に関しては苦を感じないけれど、別のグループはストレスになる人などいろいろいて、どっちがいい、悪いもないと思うんです。それを理解した上で、自分はこう感じるという気持ちも大切にしつつ、相手の気持ちも大切にするといいのではないでしょうか。自分の中に、自分だけのよりどころを作っておくのもいいと思います。

 

── 自分と違う意見に出会うと、つい嫌悪感や批判で終わらせてしまいたくなりますが、相手の意見の背景にある状況や気持ちがあることを汲み取ろうとすれば、状況を客観視することができそうですね。自分のよりどころとなる趣味や楽しみ、気の合う人とのつきあいなどを増やすと、ストレスも解消できそうです。

マイルールを押し付ける「無意識の加害者」にならないために

── しがらみからの離れ方というのも難しいですよね。

 

冬虫さん:

誰も傷つけない方法というのはないのかもしれませんね。地元が窮屈だと思う人からすれば、地元から出て行ったり、地元の慣習を否定することはある意味救いになるかもしれませんが、地元の生き方に満足している人からすれば、そういう人は地元や家の破壊者のような側面があるかもしれません。どちらが悪者という話ではなく、視点を変えれば生きづらさを抱えてそれを打破しようとしている人が、誰かにとっては加害者になっているともいえます。

 

── はっきりとした悪者がいないことが、地方の生きづらさの問題を難しくしているのかもしれませんね。たとえば自分の家ではお墓を大切にしている場合、友人が「お墓なんてどうでもいいじゃん」と話しているのを聞くと「いやいや、お墓は大事なものでしょう!」と反論したくなったり。お墓を守りたいという気持ちも悪いことではないし、お墓なんて気にしないという考えも悪いことではないので、どちらかを「正義」と結論づけることができないというか…。

 

冬虫さん:

お墓とか跡継ぎとかもそうですが、あることに対してどうでもいいと感じている人もいるし、大切にしている人もいるので、意見が違うと思ったら反論するのではなく、「たしかにそういう考え方もあるよね」「でも自分はこう考えているんだよね」などあくまで自分の意見として発言するスタンスをとることも大切かもしれません。

 

── 人ぞれぞれいろいろな選択肢があるということを忘れずにいたいですね。普段は表に出さなくても、無意識に自分にしみついているマイルールのようなものはあると思いますが、それを人に強要しないように気をつけたいです。

 

冬虫さん:

所属意識に感じるきゅうくつさというのは、選択肢のなさから生まれるものだと私は感じています。考えや行動、進路などについて、1つの選択肢だけではなく、無限の選択肢があるということを理解すると、生きやすくなるのではないでしょうか。

無条件に自分を受け入れてくれる存在のありがたさ

── 生まれ育った場所や、長い間生活してきた場所の「当たり前」が、全ての人に当てはまるとつい考えてしまうことがありますが、いろいろな選択肢があって、人それぞれ選ぶものが違うということは改めて意識したいですね。

 

冬虫さん:

当たり前のことかもしれませんが、大事なことだと思います。今回は地方の生きづらさを中心に話をしましたが、地方ならではの生きやすさもありますよね。自然の豊かさや子育てのしやすさのような面ももちろんですが、「ふるさと」は精神的な支柱になってくれる場合も多いと思います。

 

例えば、家族や親戚、友達、知り合いなど、古くからそこに住んでいる人がいることで安心感を得られることはとても大きいと思います。何かで追い詰められた時に、そうした存在に頼ることができれば完全に崩れ落ちないですみますから。自分を無条件に受け入れてくれる場所があるということは、大きな心の支えになってくれるでしょう。

 

── たしかに、無条件に自分を受け止めてくれる場所や存在は、なかなか手に入れることができませんよね。冬虫さんは現在CHANTOWEBでも地方で生きる女性をテーマにした漫画『蝶よ花よ』を連載中です。閉じられた世界のきゅうくつさや、選択肢の少なさ、他人に敷かれた人生のレールなど、多くの女性が経験したことのあるテーマが印象的ですね。

「女の子は地元で幸せを見つけるもの」「女の子が都会に出て仕事をする必要なんてない」。CHANTO WEBで連載中の『蝶よ花よ』では、悪気のない「女性はこうあるべき」が描き出されている。

 

冬虫さん:

もともと閉じられた世界から外に出る・出ないといった話がしたいと思っていました。その最初のきっかけは進学かなと思って、第一話では大学進学を控えた高校生と、その母親や周囲の人の思惑を重ねて描いています。これから『蝶よ花よ』という作品を通して、いろいろな立場のいろいろいろ人間の姿を描いていけたらと思っています。

 

── 閉じられた世界で悪気なく「蝶よ花よ」と育てられた結果、大人になってから生きづらさを感じていたり、あるいは自分の子どもに同じように接してしまっている人もいるかもしれませんね。仮に地方という閉じられた環境であっても、無限の選択肢があるということを改めて考えていきたいです。

 

PROFILE 冬虫カイコさん

冬虫カイコさんプロフィール画像

漫画家。代表作に『君のくれるまずい飴』(KADOKAWA)web掲載『少女の繭(読み切り全3話)』『連載母と姉(全8話)』(スキマ)、『美術部のふたり』(COMICメテオ)、『帰郷』(祥伝社アキjam2020)など。

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地方にはたしかに生きづらさを感じる部分もあります。地元から離れたことで自分らしく生きられるようになったという人もいる一方で、地方にはもちろんいい面もあり、地方で暮らすことで生きやすさを手に入れることができたという人もいます。単純な良し悪しではなく、改めて多様な考え方が存在するということを理解することが、住む場所に関係なく生きやすい社会への第一歩なのではないでしょうか。
取材・文/野中真規子

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