2019.06.22
香取慎吾さん演じる主人公・郁男の恋人、亜弓を演じた西田尚美さん
『孤狼の血』の白石和彌監督と『人類資金』の香取慎吾さんがタッグを組み、ギャンブル依存症の男の“暴力と狂気”を描く衝撃作。恋人である郁男、恒松祐里さん演じる娘の美波とともに故郷・石巻に戻り、人生の再出発をしようとした矢先に起きた悲劇。
郁男の恋人・亜弓を演じる西田さんに、役作りや撮影現場の様子、初めて訪れた石巻について、お話を伺いました。さらに、私生活では小学生の娘さんを持つ母親でもある西田さんに、仕事と子育ての両立や、リラックス法、得意料理についても語っていただきました。
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
—— 主人公の恋人、亜弓を演じるうえで、意識したことや監督からのリクエストはありましたか?
西田さん 特に「こんな風に演じてください」という細かいリクエストはありませんでした。撮影場所の石巻に入って感じた空気とか、全体のバランスを見ながら演じるという感じでした。石巻で生まれ育ち、親を残して川崎に出て行った女性という役ですが、実家の雰囲気や、家を出て海が見えるという環境、土地柄などに助けられたと思います。
—— 石巻にはどんな印象を受けましたか?
西田さん 今回初めて訪れました。震災があったという生々しい部分と、復興に向かって再生している部分が共存していると感じました。郁男とドライブするシーンで「ここは昔こうだったんだよ」という会話があるのですが、自分自身でも「どんな場所だったのだろう」という思いを抱えながら演じていました。
—— 香取さんが演じた郁男は、これまでの香取さんのイメージとはだいぶかけ離れていましたが、いかがでしたか?
西田さん 普段思い描いている香取さんのイメージとは全然違っていました。でも、現場でお会いするときには、だいたい先にいらっしゃって無精髭で髪もボサボサで。そこに立っているだけで、香取さんというよりは“役の人”という感じで、自然とそこに佇んでいました。無理して役を演じていますという印象もなく、とても自然にいたという印象です。なので、そこに自分がすっと入り込めば、もう空気はできるなと思いながら演じていました。
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
—— とても自然だったのですね。映画全体がそういう雰囲気で作られていたのでしょうか?
西田さん リリー・フランキーさんも吉澤健さんもとてもナチュラルなお芝居をする方で、昔からそこに住んでいる雰囲気を感じました。実家に帰ったら吉澤さん演じる父親がいて、近所に住むリリーさんに会う。とても自然な空気感を放っていたので、頑張って役作りをするというよりは、その懐に入れていただくという感覚で演じていましたね。
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
—— 香取さん演じる郁男はギャンブル狂という治らない癖がありますが、静かだけど愛や優しさを感じるキャラクターです。そういう男性をどう思いますか?
西田さん なかなか治らない癖というのは許せない部分ではあると思うんです。でも、いつかやめてくれるって信じながら「しょうがないな」って許してズルズル一緒にいてしまうのが亜弓だと思います。好きだから信じているし、許している。切っても切れないような繋がりが郁男と亜弓との間にはあるから、希望を持っているような気がします。
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
—— あまり「好き」とか言わないタイプですが……
西田さん 私もあまり「好き好き」という人は好きではありません。あまり言われると、嘘ついているって思っちゃうし、疑っちゃいます(笑)
—— 小言を言いながらも、おにぎり作ってあげちゃうシーンはすごく自然で、亜弓の「好き」を感じました。
西田さん 甲斐甲斐しく握ってましたよね(笑)あのシーンは実は台本にはなかったんです。現場で白石監督が「握ってみましょう」とおっしゃって。おにぎり握りながらセリフちゃんと言えるかななんて思いながらやっていました。普通だし、日常感がありますよね。
—— おにぎりのお話が出たところで、西田さんの得意料理を教えてください。
西田さん 子どもがいるのでパパッとできる普通のごはんが多いです。土井先生(の番組)にすごく救われています。一汁一菜でいいんだっておっしゃっているので、白いご飯とお味噌汁、そこに焼き魚やサラダを添える。冷蔵庫にあるものでちゃちゃっと作ることが多いです。先日、ピーマンの肉詰めを作ったら美味しかったですね。もちろん、土井先生のレシピです(笑)
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
—— お子さんが一番好きなレシピはありますか?
西田さん サーモンのソテーとか好きって言いますね。今朝も土井先生のレシピで作った納豆トーストでした。時間があるときに娘と一緒に作ります。娘は11歳になるのですが、割と小さい頃から一緒にキッチンに立っていました。土日はパンケーキをよく作ります。リンゴやバナナを使ったりして。私が仕事でいないときには、自分で冷蔵庫にあるものを温めることもできます。パスタは自分で作りたいというので、「キャベツとソーセージがあるよ」とか言って、材料をさりげなく伝えて作ってもらいます(笑)
—— 娘さん、お料理が好きなんですね。
西田さん 後片付けはまだ上手にできないけれど、作る面白さを覚えてくれたと思っています。私も楽できちゃいますしね。先日も、私がロケでいないときにお弁当を作らなくちゃいけない日があって。おばあちゃんに来てもらっていたのですが「茶色いお弁当になるのはいや!」といって自分で作ったそうです。ピーマンを炒めて綺麗な彩りのお弁当ができたみたいです。失敗しても自分で作ったらちゃんと食べますしね。
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
—— 本作でも母親役を演じていますが、娘役の恒松さんとの共演はいかがでしたか?
西田さん 本当に美人さんで、「こんな娘がいたらいいな」なんて思っていました。撮影のときも一緒にご飯を食べに行ったりして、ずっと食べ物の話をしていました(笑)ちょうど仕事で仙台に行くことが多かった時期らしく、牛タンやずんだ餅、ずんだシェイクの美味しいお店を教えてくれました。
—— 撮影以外でも母娘のように自然に過ごされたのですね。西田さんご自身と亜弓との共通点はありますか?
西田さん そうだな……。放っておけないタイプという点は似ているかもしれません。ダメな人とかも小言を言いながらでも寄り添っちゃうと思います。分からなくはないです。うちも年下夫で娘もいるので、家族構成は一緒ですね。
「家族みんなで過ごすことも息抜き」と語る西田さん
—— 娘さんと言い争いをするシーンがありますが、そんな時期が実生活でも来るかもなんて思いましたか?
西田さん 思いました。時期的には反抗期なので。怖くもあり楽しみでもあるのですが、「いつか過ぎるだろう」って思っています。2、3歳のときもそうでしたからね。“魔の2歳”とかすごく怖かったけれど、過ぎてしまえばなんてことない。すごく大変だったけど可愛かったし、あの時期は戻ってこない。そう思うと悪くないなって思います。
—— とてもリラックスして子育てしている印象です。
西田さん 無理をしない、頑張らないっていっても、結果的には頑張ってしまってますよね。でも、みんなの協力あってこそと思っています。夜はゆっくりお風呂に入り、休日に映画や舞台を観に行ったり、家族でごはんを食べに行く。みんなで過ごすことも息抜きになっています。
—— 子育てを経てそういうスタンスになったのでしょうか?
西田さん 結婚する前からせかせかするのは得意ではありませんでした。ダラダラ過ごすのが好きな性分です(笑)結婚した頃は、他人と一緒に住むことで合わせなくちゃいけない部分があるし、慣れないこともあって無理もしていたと思います。若い頃の方が頑張っていたと思います。でも、だんだんなんとなく自然に(家族という)形になっていくものなんだと感じました。
娘も言えばわかる年齢になってきたので「しんどいから、これやってもらってもいい?」「今は無理」とか言えるようになったのも大きいですね。これが男の子だったら、いいところ見せようと思って頑張っていたかもしれません。女の子だから心を許しちゃうような部分もあるのかな、なんて思います。
—— CHANTO読者にメッセージをお願いします。
西田さん 私は、あの家族に幸せになってほしい、救われてほしいと思いました。観る人それぞれに感じることは違うと思いますが、自分たちの家族や愛の形、人を思う気持ちみたいなものを感じられる映画です。この映画で人間のかすかな揺らぎを感じていただけたらと思います。
西田尚美 / 女優
1970年生まれ。広島県出身。モデルを経て女優へ。映画『リバーズ・エッジ』『友罪』『美知の通勤電車』『生きてるだけで、愛。』、ドラマ『三匹のおっさん シリーズ』『監査役 野崎修平』、舞台『新世界ロマンスオーケストラ』『すべての四月のために』など、話題の映画、ドラマ、舞台に多数出演。本作『凪待ち』と同日公開映画『新聞記者』や7月20日公開『五億円のじんせい』なども待機中。
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
[作品情報]
映画『凪待ち』
◉公開日:6月28日(金)全国ロードショー
◉出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー
◉監督:白石和彌
◉脚本:加藤正人
◉配給:キノフィルムズ
◉©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
◉公式サイト:nagimachi.com
取材・文/タナカシノブ