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「優しさの視線、逸らさないで」ダウン症児の母が感じる「社会との分離」こえるには

子育て

2021.12.28

龍円さん取材写真2−1

「目を逸らした瞬間、理解は永遠に閉ざされてしまう。知ってもらわないと、何も進まないんです」

 

ダウン症のある息子、ニコくんを育てる都議会議員の龍円あいりさんは、ニコくんの小学校進学のタイミングで、社会との分離を経験した。

 

その理由と見えてきた課題、誰も孤立しないインクルーシブな社会のために大切にしていることについて話を聞いた。

小学校進学で体験した、社会からの拒絶

ニコくんは現在、小学2年生。地元である渋谷区の公立小学校の通常の学級に通っている。

 

アメリカで、障害のある子が健常児と同じ教室で学ぶインクルーシブ教育の良さを体験。都議会議員としてもインクルーシブ教育を推進する龍円さんにとって、ニコくんが通常の学級で学ぶことは、ごく自然な選択だった。

 

しかし、就学先を決定する過程では、当然のように特別支援学校を勧められたという。

龍円さん取材写真2−2

「インクルーシブ教育がすべてのお子さんにとって良い影響があることは明らかになっていて、この認識は世界共通です。

 

ただ、私の住む自治体では、知的障害児は通常の学級には存在しないことが大前提となっていたため、毎日すべての時間に保護者が付き添うことが求められました。

 

でも、私はシングルマザーなので、私が働かないと二人とも生きていけません。そもそも都議会議員は、都民のために働くのが仕事。仕事をしないで学校に付き添う選択は、絶対にできませんでした」

 

事情を説明し話し合いを重ねた結果、最初のうちは1時間目まで、1年生が終わる頃には2時間目まで付き添いなしで学校で過ごすことが許可された。

 

通常の学級に通う障害児に対して自治体からの公的な支援はなかった。学校としても拒絶せざるを得ない状況のなか、独自の対応方法を練ってくれたが、1年生の間は、8時半に登校し10時半に帰ってくる生活が続いたという。

 

「10時半には学校を終え、元気を持て余しているニコを連れて公園に行くと、近所の保育園のお子さんたちが遊んでいるんです。

 

その輪に加われるわけでもなく、楽しそうな園児たちを遠目に見ながら、親子二人きりで遊ぶ日々は、すごく孤独でした。

龍円さん取材写真2−3

公園から帰宅すると子育てしながらの在宅ワーク。家での仕事が認められない状況だったら、乗り越えられなかったと思います。

 

社会から拒絶されるって、こういうことなんだと。辛かったですね。目が腫れるほど泣くことも多くありました。

 

誰も差別する意図があるわけではないと分かっていても、これが社会構造的な差別なのだと思い知った出来事でした」

 

障害のある子の母親は働かないもの、子どもに付き添いサポートするものという考えが日本社会には定着している。それを前提に制度設計されていることを身をもって実感した。

 

「今の日本では、スペシャルニーズ児のお母さんの多くは、パートタイムに転職したり、仕事を辞めてしまう状況にあります。

 

そして、仕事を一度辞めると、復職は難しいという問題も存在しています。でも本当は、スペシャルニーズのあるお子さんの両親こそ共働きを続ける必要がある。

 

医療費や療育などの出費がありますし、お子さんを生涯に渡って支え続けていくことになる可能性もあるからです」

 

自身の経験から得た問題意識を都議会で訴えた結果、女性の活躍を支援する小池都知事の賛同を得て、東京都では令和3年4月から、障害のある子を育てる親の就労支援が始まっている。

加速的に進む、健常と障害の分離教育の課題

ニコくんが小学2年生になると、渋谷区では通常の学級に通う知的障害児にも支援が開始され、毎日フルタイムで通学できるようになった。

 

「毎日、とても楽しそうに過ごしています。周りの同級生と同じ学びができないときは、ニコ用にドリルを用意してくれたりと、学校も臨機応変に対応してくれています。

 

同級生は、ニコがどうやったら仲間として参加できるのか、子ども達自身で考え行動する姿も見かけ、ごく自然にできている様子に驚くことも多いです」

龍円さんとニコくん龍円さんとニコくん(写真提供/龍円さん)

 

インクルーシブ教育の良さをあらためて体感しながらも、学校現場での課題も見えてきた。

 

「日本は今、インクルーシブな社会への意識が高まっていて、実際に就学前の保育所や幼稚園では、スペシャルニーズのある子もない子も一緒に過ごせる環境になりつつあります。

 

その一方で、今のままだと小学校以降、スペシャルニーズのある子の多くが、特別支援学校などの通常の学級から分けられた場所で教育を受けている。

 

通常の学級の児童生徒と交わることがほとんどない『分離教育』が加速的に進んでしまう状況にあります。

 

年々、特別支援学校などで学ぶお子さんの数は増え続けています。日本の構造上、教育現場だとそれが顕著に現れてしまうのだと実感しています」

龍円さん取材写真2−4

インクルーシブな社会に向け、民間企業に定められている法定雇用率は2021年3月に引き上げられたばかり。

 

しかしながら、分離された環境では、ダイバーシティ&インクルージョン(共生)を体現する大人は育ちにくい実情もある。

 

「小中高と分離された環境で育ったのに、社会に出た途端、スペシャルニーズのある人と健常の人が、いきなり手を取り合って『今日から共に生きていきましょう!』と言われても、お互いに戸惑ってしまうのは容易に想像できますよね。

 

大人になるまでスペシャルニーズのある人に関る機会がないと、身構えてしまうと思うんです。『ちゃんと助けられるだろうか』と不安になったり、『よく分からないから怖い』と思ってしまうこともあるかもしれません。

 

スペシャルニーズのある人にとっても、分離されて育ったのに、いきなり『社会性を持って生きて』と言われても、簡単なことではありません。

 

本当のインクルーシブな社会の実現のためには、子ども時代からインクルーシブな環境で育ち、共生する心とノウハウを自然と身につけ育っていくことが重要なんです。

 

特別支援学校でも、支援学級でも、通常の学級でも、スペシャルニーズのある子たちが個々のニーズにあった支援を受けながら、同時にみんなが共に学び育つことができる仕組みを生み出していく必要があります」

東京都の特別支援教育は高い水準にあり、今後は日本を牽引していくような先進的な取り組みも進めていくと、龍円さんは話す。

 

実際、令和4年度から「東京都特別支援教育推進計画」の第二次実施計画案もスタートする。この計画案には、龍円さんの意見も多く盛り込まれているそう。

 

「東京都教育委員会はこの実施計画を通して『インクルーシブシティ東京の実現を目指す』と明確にメッセージを出しています。

 

分離教育から共生教育へと変わっていくことに、私は期待を寄せています。少しずつですが、これから学校現場は変わっていくと思います」

興味の視線は、理解が生まれるきっかけになる

分断のない社会の実現には、障害のある人々への理解も大切な要素になる。そのきっかけは、実は身近な場面に潜んでいるのに、文化がそれを阻んでいることにも気づいた。

 

「日本に帰ってきたとき、アメリカとすごく違うと感じたのが、日本独特の目を逸らす文化。スペシャルニーズのある人を外で見かけると、多くの人が目を逸らすんですよね。

 

それは、ジロジロ見たら可哀想、失礼になるという優しさだと思います。でも、目を逸らしてしまった瞬間、そこに理解が生まれる可能性は無くなります。

 

そうすると、スペシャルニーズのある人は、いつまで経っても可哀想なままになってしまう。

 

目が合えば、笑顔や会話が生まれるきっかけになるかもしれません。そこから相互の理解が深まり、スペシャルニーズがあるからといって可哀想ではないことも、きっと自然と感じていただけると思います。

龍円さん取材写真2−6

アメリカには、知らない人同士で会話をする文化があります。

 

多様な人たちが暮らす国なので、『人はみんな違う』ことが前提にあり、人と人は積極的に会話をして、お互いが暮らしやすい社会を作っていく習慣が根づいている。

 

当然、スペシャルニーズのある人もない人も、お互いの垣根が低く、共生が当たり前の社会が存在していました。

 

日本でも、子どもの視線はまっすぐです。

 

時にそういった視線がニコに注がれると、『なんて思われているんだろう』と親として少し戸惑うこともありますが、『なんで話せないの?』といったストレートな質問をされることが多いです。

 

『ゆっくり成長するからまだお話が上手じゃないだけだよ』と答えると、『ふーん』という感じ。納得したのか、そのあとは一緒に遊び始め、友達になっています。

 

子どものインクルーシブ力は、本当にすごい、と思いながら見守っています。

 

興味の視線を、私は『優しさの目』と受け止めていますし、目を逸らさないことこそが、健常者とスペシャルニーズのある人が共に生きていく一歩になるのだと思っています」

龍円さん取材写真2−7

気遣いよりも「知りたい」気持ちが嬉しい


実際に障害のある子やその親御さんと出会ったとき、目を合わせ笑顔は向けられても、そこからコミュニケーションへとつなげる方法に迷う方もいるかもしれない。

 

接し方について聞いてみると「わからないことは普通に聞いてもらうのがいちばん」という答えが返ってきた。

 

「傷つけてしまうのでは、と気遣って何を言えばいいのか悩んでくださったり、時に励まそうとしてくださる気持ちはありがたいのですが、あまり身構えずに、ただ単に話を聞いてくださったり、わからないことは聞いてもらうのがいちばんいいと思います。

 

スペシャルニーズのある人本人や、その家族は、かけられる言葉に対し、敏感に感じるときがあります。

 

たとえば、『ダウン症に見えないね』と励まされる人も少なくないのですが、親からすると『ダウン症であることはよくないこと』という話し手の考えを感じてしまうことも。良かれと思って言ったことが、逆に壁になってしまうこともあるからです。

 

ですからぜひ、いいことを言わなくては!と身構えずに、なんでも聞いてみてください。

 

『わからないから教えて』と言われたら『聞いてもらえるんだ』と話しやすくなりますし、『何か力になれることはある?』と素直な気持ちを伝えてくれると嬉しいです」

龍円さん取材写真2−8

ニコくんは現在、区立小学校の通常学級に通いながら、障害のあるお子さん向けの療育も受けている。障害のある友達もない友達もたくさんできて、良好な関係を築けているという。

 

「スペシャルニーズのないお子さんの親御さんたちも、ニコが友達であることを『自分の子にとってもいいことだと思う』と温かく見守ってくれている方が多くいます。

 

ニコの周りは確実に、インクルーシブな環境が育ち始めているのを実感しています」

 

自分との違いを違和感なく受け入れるために、実際に目を向け、理解するところから始めていく。子どもが向ける興味の視線も、そのひとつかもしれない。

 

大人になるとどうしても、複雑に考えてしまい行動に移せなくなることは増えていく。でも実は、目が合ったときに笑いかけるだけで、人と人との理解は始まっているのだろう。

 

PROFILE 龍円あいり(りゅうえんあいり)さん

1977年生まれ。法政大学卒業後、1999年にテレビ朝日入社。2011年に退職しアメリカに移住。2013年にニコくんを出産し、2015年に帰国。2017年、東京都議会議員議員に。都民ファーストの会所属。

取材・文/副田聡美 撮影/桜木奈央子 撮影協力/NISHIann cafe

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