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ダウン症の我が子との出会いで一変した「幸せの価値感」と「比べない育児」

子育て

2021.12.26

龍円さん取材写真1−1

東京都議会議員として活動する龍円あいりさんは、ダウン症のある子を育てるシングルマザー。息子のニコくんは現在、都内の小学校の通常学級に通っている。

 

「ゆっくり時間をかけて、子育てしている感覚。なかなか手を離れていかないもどかしさもあるけど、彼はとてもハッピー。幸せの価値観を一変させてくれました」

 

子育てを通して、自分の価値観が根本から変わったという龍円さん。「幸せに生きること」をより本質的に感じられるようになったという、ニコくんとの出会い、価値観の変化とは——。

命の儚さに直面した産後、生かすために必死だった

大学卒業後、テレビ朝日のアナウンサーとして活躍していた龍円さん。退職後、アメリカへ移住し現地のコミュニティーカレッジに留学。

 

そんななか、当時のパートナーとの間に授かったのが、現在は小学2年生のニコくん。彼には、ダウン症という遺伝子疾患がある。知的発達に遅れがあり、身体的発達もゆっくり、心疾患などの合併症があることも多い疾患だ。

 

アメリカという異国の地で、スペシャルニーズ(障害)のある子どもを育てる。日本で育てるよりも何倍も大変そうな印象を受けるが、龍円さんが産後すぐに体験したのは「生かしておけるかどうかの恐怖」だったという。

龍円さん取材写真1−2

「ダウン症のある子は身体的な特徴や合併症などから、多くの場合、出産後すぐに医師らが気がつきます。

 

でも、私の場合は、アメリカで出産したこともあったのか、産後すぐはダウン症があることを見逃されてしまい、『健康な赤ちゃんですよ』との言葉とともに、退院してしまいました。

 

帰宅した翌日には、ニコに何かしらの異常があることはすぐに分かりました。特に必死だったのは、ミルクを飲ませること。

 

1日8回、1回あたり40ミリは飲ませないと脱水症状を起こすと言われているのに、たった5ミリ飲んだら寝てしまう。

生後7日目のニコくん(写真提供/龍円さん)

 

今思えば起きている体力さえなかったのだと思いますが、とにかく泣かないし、起きない。医師らからは、無理やり起こしてでもミルクをあげるよう言われましたが、うっすらと目を開けるくらいで、すぐにまた寝てしまう。

 

生きているかどうかが不安で、自分自身は心配でほとんど寝られない日々でした。

 

退院後9日間で11か所のクリニックや母乳外来などを回りましたが、『大丈夫』と言われるばかりで助けが得られず、何が原因なのか、この子に何が起こっているのかわからなくて…。

 

命のもろさに直面し、今にもいなくなってしまいそうで、怖くて不安で、生かしておくことに必死でした」

生後21日目を迎えたニコくん(写真提供/龍円さん)

 

ニコくんがダウン症の診断を受けたのは、生後1か月が過ぎてからだったという。

 

「診断がついたときは、原因がわかって安心した半面、告知した医師の深刻な表情から、ニコからすべての未来が奪い去られた気がして泣き崩れました。でも泣いたのは、その1日だけでした」

何も失っても、奪われてもいない

子どもの障害を告知されたとき、受け入れられずに苦しむ親御さんは少なくないはず。龍円さんが1日で考えを切り替えられたのには、どんな理由があるのだろうか。

 

「いちばん大きかったのは、母の言葉です。電話で伝えるとき、泣かれるかなと思っていたのですが、

 

『ダウン症だから何?ニコちゃんを見てごらん?昨日となにか違う?ニコちゃんはニコちゃんのままでしょう』と言われました。

 

母の言う通り、ニコは昨日と変わらず可愛いし、何も変わっていない。母の言葉を受けて、私は何も失っていないし、奪われてもいないことに気づきました」

龍円さん取材写真1−3

その後も毎日のように電話で「ニコちゃんは可愛いね」と言い続けてくれたことも、龍円さんを勇気づけたという。

 

もうひとつ大きく影響しているのは、龍円さん自身がアナウンサー時代から考えていた「幸せの価値観」だ。

 

「アナウンサー時代、警視庁記者クラブで生死にかかわる場面を毎日見ているうちに、『幸せって何だろう』と考えるようになりました。

 

人の幸せは、お金や地位、名誉や成功など『何を持っているか』ではなく、『幸せを感じる心』が大切だと思い始めていたとき、ニコを授かりました。

妊娠中の龍円さん(写真提供/龍円さん)

 

我が子には、ニコニコ笑顔で幸せな人生を歩んでほしい。だから、名前が『ニコ』なんです。

 

調べてみたら、ダウン症のある方々は懐っこい笑顔が印象的で、人との交流が好き、音楽や絵、楽しいことが大好きという特徴があることを知りました。

 

彼らに実施した『幸せだと感じるか』のアンケートでは、9割以上の方が『幸せ』と答えているんです。

 

人はみんな『幸せになりたい』と思いながら生きているけれど、健常者と言われる人の9割もが幸せだと答えるかどうかは、ちょっと疑問です。

 

ダウン症を障害としてマイナスに捉えるのは、あくまで健常者の価値観に過ぎません。『幸せに生きる』の視点からみたら、ダウン症のある人たちは幸せの可能性をたっぷり持って生まれてくるわけですから。

 

ニコは、ニコニコ笑顔の人生を歩める可能性に溢れていると知り、未来に明るく希望を持てたのをおぼえています。

龍円さん取材写真1−4

もちろん、近所に頼れる家族や友人はひとりもいなかったし、育児に不安がなかったわけではありません。

 

でも、家族も当時のパートナーもポジティブに受け入れてくれたことと、アメリカの優れたサポートシステムのおかげで、育児をネガティブに感じることはありませんでした」

ニコに出会って、幸せの価値が広がった

龍円さんはニコくんが誕生して、それまで持っていた価値観やモノを一旦手放し、「幸せとは何か」という問いをもとに、新たな価値観を作り変えていった。

 

「ニコのおかげで人生がシンプルになりました。認めてもらいたい、自分らしく生きたい、もっと努力しなきゃ、もっとダイエットしなきゃといった、雑念や欲望が色褪せていった。

 

それまで葛藤だらけだった私の人生から痛みや苦痛が減って、精神的に穏やかに過ごせるようになりました。ニコのおかげで、ぶれない軸が自分の中にできたんです。

 

多くのスペシャルニーズのある子の親にとって、お子さんの誕生は、自分が人生で培ってきた価値観を一から見直し、新たな価値観に作り直していくきっかけになります。

龍円さん取材写真1−5

私の友人たちを見ていると、新しい価値観は人生をより豊かにしているように感じますし、私は今もなお、ニコとともに、新しい価値観を作り続けています」

比較のない世界で、心を育てる

ニコくんは今年、8歳になった。命の危機を生き抜いた彼は、毎日を元気に、ニコニコ過ごしているという。

 

「言語の発達がゆっくりなので、今は三語文を話し始めたところです。コミュニケーションを取るにはコツが必要ですが、人が大好きで、小学校でもたくさんお友達ができました。

 

日常生活では、自発的にトイレに行かないので促したり、付き添いも必要です。食事も、空腹時以外は食べさせてあげないといけない。

 

スペシャルニーズのないお子さんと同じ発達段階を、ゆっくり辿っているので、長く時間をかけて丁寧に子育てしている感覚です。

 

可愛い時間が長くて楽しい一方、いつになったら手を離れていくのかな、と思うことはあります。ただ、ダウン症がなかったらいいのにと思ったことは一度もありませんし、これからもゆっくり見守っていきたい。

龍円さん取材写真1−6

私の教育の主軸は、心を育てること。

 

ニコが幸せに生きることを考えると、『少しでも能力を早く開発して、より健常に近づけること』は、幸せに生きることに直結しているファクターではないと考えています。

 

大切なのは、『新しいことを発見したり知ることは楽しい』『何かできるようになるのは面白い』『学びたい・やりたい』『人と交流することは楽しい』という心を育てること。

 

その心があれば、時間はかかったとしても、生涯を通じて学びを続けていけると思うし、学びそのものが、人生の喜びや幸せになると思います。

 

でもこれって、もしニコに知的障害がなかったとしても、同じだったと思うんです。もっと自発的に学び考えられる力を伸ばしてあげたい。

 

人と比べることなく、ニコにあった教育や育児ができる。すごく幸せなことだと思っています」

 

龍円さんの子育ては、我が子の命の儚さと直面したところから始まった。子どもがダウン症であることを1日で受け入れ、障害を悲観しない彼女の考えにハッとさせられる。

 

笑顔で語っているけれど、ここまで考えを確立するまでに、どれくらいの苦労があったのだろう。

 

起こったことを否定せず受け入れる、ポジティブな要素を自ら集め前を向く。ニコくんとの出会いは、もともと持っていたポジティブな性格をさらに力強くしたように感じられた。

 

PROFILE 龍円あいり(りゅうえんあいり)さん

1977年生まれ。法政大学卒業後、1999年にテレビ朝日入社。2011年に退職しアメリカに移住。2013年にニコくんを出産し、2015年に帰国。2017年、東京都議会議員議員に。都民ファーストの会所属。

取材・文/副田聡美 撮影/桜木奈央子 撮影協力/NISHIann cafe

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