TV番組や雑誌などでたびたび取り上げられる、食にまつわる問題の一つに「孤食(こしょく)」があります。「孤食」とは、自宅で一人きりで食卓につくこと。
メディアでは、おもに都市部で一人暮らしをしている若者や高齢者の孤食について特集されることが多いですが、基本的には家族と暮らしているはずの子どもにも年々「孤食」が増えているというデータもあり、体と心への影響が心配されています。
今回は、どうして子どもの「孤食」が増えているのか、何が問題なのか、ママやパパが何かできる対策は?などを考えていきます。
そもそも「孤食」ってどういう状態?
「孤食」というコトバは、平成12年(2000年)頃から使われ始めました。提唱したのは、食育研究家で医学博士の服部幸應氏だと言われています。
実は「孤食」も含め、現代の家庭の問題点を表すキーワードとして、次のような6つの「こ食(しょく)」があるとのこと。
- 孤食
- 個食
- 固食
- 粉食
- 小食
- 濃食
「個食」は、家族で食卓を囲んでいてもよく見るとそれぞれ違うものを食べている状態。大人と子どもの好みの違いなどから起こり、フードコートや、コンビニで各自買ったものを広げた時のような感覚だといわれています。
「小食」は、「少食」に通じる意味ですが、生まれつき少食というよりは、ダイエットのためにあえて食事量を制限することをいいます。
「固食」は「固定された食材」つまり毎日・毎食、同じものばかり食べること。
「濃食」は濃い味付けのものに偏って食べること。
「粉食」は「小麦粉」、つまりパンやパスタ・うどんなどの麺類ばかり食べることです。
そして、「孤食」とは、一人暮らしの人はもちろん、家族がいても、ひとりだけで食卓について食べることです。
子どもや高齢者などの場合は「本人の意思に反して一人で食べざるを得ない状況」で、「孤独やつらいと感じる状態」のことをいいます。
なお、子ども・大人ともに発達障害の特徴の一つとして「一人で食事した方が落ち着く」というものがありますが、この場合は本人が家族や誰かと一緒の食事を望んでいないため、ここでいう「孤食」には当てはまりません。
厚生労働省「児童環境調査」および「全国家庭児童調査」によると、昭和61年(1986年)には「毎日または週4日以上家族そろって夕食をとる」と答えた家庭が全体の60%近かったのに対し、平成21年(2009年)には45%以下に減っていることが分かります。
また、過去のNHK番組で、全国の児童2500人に食事風景の絵を描いてもらったところ、約3分の1の子たちが一人で夕食を食べているところを描いたといいます。
子どもの「孤食」がふえている原因・理由は?
いつも家族そろって手作りの食卓を囲むのが理想的かもしれませんが、それを実現するのはなかなか難しいのが実情。
仕事を減らせば家族の生活や子どもの将来にマイナスになる可能性がありますし、特にシングルマザーやワンオペのママはただでさえ限界まで仕事と家事と育児に時間を使っていて、これ以上がんばれというのは非常に厳しい要求です。
戦後の核家族化、単身赴任・長時間労働などの労働環境問題、夫婦の家事育児分担の偏り、外食産業や調理家電・加工食品の進化、ライフスタイルの多様化など、子どもの「孤食」にはさまざまな社会的背景があるというのが現状です。
「孤食」はなにが問題なの?きょうだいと一緒ならOK?
それでは、子どもの孤食にはどんな問題があるのでしょうか?
成長期の子どもには、エネルギーになる炭水化物・体を作るタンパク質・体調を整えるビタミンやミネラルなどの栄養をバランスよくとる必要があります。
しかし、親が仕事から帰るまでに塾に行かなければならないなどの理由で、子ども自身がコンビニなどで夕食を買う場合、どうしても内容が炭水化物や脂質に偏り野菜や良質なたんぱく質がとりにくくなってしまいます。
手作りの夕食を食べる場合でも、家族が一緒であれば「野菜も食べようね」など声をかけるところですが、子どもだけだと先に好きなものでおなかがいっぱいになってしまい、苦手なものを残してしまうことも。
結果、栄養の偏りのため、病気にかかりやすくなったり、成長発達に影響したりする懸念が出てきます。
「よく噛んで食べようね」と言われることもないので、肥満の原因となるおそれもあります。
食事は、お箸やお椀の持ち方、くちゃくちゃ音をたてないなどのマナーを身に付ける場でもありますが、子ども一人ではこれらには気付きにくいもの。
さらに、食事は家族のコミュニケーションの場でもあり、単にお腹を満たすだけでなく、その日の出来事を話したり、ママから見て「元気がないみたい」と気付いたり…といった役割も果たしています。
日常的にこれらが満たされないと、情緒不安定になる・トラブルを見逃すといった心配もあります。
ところで、「親は一緒に食事できていないけれど、きょうだいが一緒」という場合はどうでしょうか?
これは、上記の6つには入っていませんが「子食」呼ばれているそうです。一人きりの場合と比べると「孤独感」は薄れるかもしれませんが、食べ過ぎや栄養バランスが偏るなどのリスクは残ります。
ママたちが語る、わが家の「孤食」事情
最後に、「ウチの子は孤食」というママたちに、事情や心配なこと・気をつけていることなどを教えてもらいました。
「夫の転勤で、保育園から幼稚園に変わりました。幼稚園はお昼寝がないので、早くご飯を食べさせないと夕方に寝てしまうんです。そうなると夜8時や9時に起きて夕食→お風呂と、寝るのがかなり遅くなるので、5時ごろに夕食を食べさせています。私はその時間にはまだお腹もすいていないし、夫が帰って寝る12時ごろまでもたないので、子どもと一緒に食べてはいないんですよ」
と話すJさん(28歳・3歳の男の子のママ)。
「うちだけかと思ったら、意外とまわりに4時台・5時台に夕食の子がいて安心してます。ただ、これって孤食っていうんだよね。教育上良くないのかな?とは気になっているので、とりあえず一緒にテーブルには座り、お茶を飲んだり、お話したりしています」
Tさん(27歳・2歳の男の子のママ)の悩みは、
「息子は複数の食物アレルギーがあり、離乳食の頃は大人の食材を間違って口に入れるのが心配で、時間をずらして別々に食べていたんです。今はやや食べられるものが増えましたが、好き嫌いが激しく、大人と同じメニューをほとんど食べないうえ、日によって食べムラが激しいので、残したものを私が食べるという流れ。なかなか一緒に食事をすることができません」
というもの。そして、次のような工夫をしているそう。
「ただ、誕生日やクリスマス、七夕など、イベントがあった時は必ず息子の好物を作って大人も同じものを食べ、一緒に楽しむことを心がけています。」
「孤食」のまとめ
ここ最近は、「孤食」に対する社会的関心がますます高まっていて、小さなお人形(アンドロイド)が孤食を続ける人たちの食と心をサポートしてくれるという漫画「孤食ロボット」がヒットし、2016年にはドラマ化もされています。
子どもの孤食をできるだけ減らして家族で食卓を囲む日を増やすのは、子どもにとっても非常によいことですが、「そのために何をすればいいか」は、パパも含めた働き方改革にも関わってくる大きなテーマです。
一気に状況は変わらないかもしれませんが、一歩ずつでも前進するよう、問題意識を忘れずにいたいですね。
文/高谷みえこ