一般的に、大都市を走る鉄道路線にはひっきりなしに電車がやって来るものです。ところが、大都市のど真ん中にありながら、日中時間帯に全く電車が来ない路線があります。一体、どんな路線でしょうか? 今回は少しミステリアスな路線を紹介します。
ミステリー!? 都会なのに日中まったく列車がこない路線
日中時間帯、まったく電車が来ない路線…正解は!?
「都会でありながら、日中時間帯にまったく電車が来ない路線」みなさん、わかったでしょうか。答えは兵庫県神戸市を走るJR和田岬線(兵庫~和田岬駅)です。
和田岬線は正式には山陽本線の一支線ですが、「和田岬線」という名称で人々に親しまれています。 和田岬線の起点駅である兵庫駅は神戸市の中心地、三ノ宮駅からわずか3駅。山陽新幹線が乗り入れる新神戸駅からも30分以内で着けます。和田岬線は全長2.7キロの短い路線で、兵庫駅と和田岬駅の間に駅はありません。所要時間はわずか3分です。終点の和田岬駅では神戸市営地下鉄海岸線に乗り換えることができます。
それでは、和田岬線のダイヤをチェックしてみましょう。平日ダイヤを見ますと、朝ラッシュ時(7時台~9時台)、夕ラッシュ時(17時台~21時台)は1時間に1本~4本の電車が走っています。ところが、兵庫駅9時10分発の電車が発車すると、夕方の17時16分まで兵庫駅発和田岬行きの電車はありません。休日ダイヤにいたっては1日2本のみです。なぜ都会の真ん中にありながら、このような路線があるのでしょうか。
その答えは、和田岬線の沿線環境にあります。終着駅の和田岬駅周辺には三菱重工業、三菱電機の工場があり、多くの中小企業が存在します。和田岬線はこれらの会社で働く人を支えるための路線なのです。そのため、朝・夕ラッシュ時間帯に走る和田岬線の車内はビジネスパーソンがほとんど。鉄道ファンを除いて、一般の乗客はあまり見かけません。
和田岬線を走る昭和レトロな電車、103系
このような個性的な和田岬線には個性的な列車が走ってきました。現在、和田岬線は電化されていますが、電化されたのは2001年のこと。それまでは走っていたのは客車や気動車(ディーゼルカー)です。
しかも、和田岬線を走った客車やディーゼルカーは和田岬線用に改造されたもの。たくさんの通勤客を乗せるために座席の一部は取り除かれ、扉は1つしかありませんでした。全国を見渡しても和田岬線しか走っていない車両でしたから、休日になると多くの鉄道ファンが和田岬線を訪れたものです。
現在、和田岬線には高度経済成長に活躍した103系が走っています。和田岬線の103系は和田岬線向けに改造はされていません。そのため、登場当初の雰囲気が残っており、年配の方は懐かしく感じることでしょう。
和田岬線の103系を見つけたら、まずは前面をチェックしたいところ。運転台は低く、103系の中でも初期タイプのものになっています。車内に入ると今では珍しくなった扇風機が目に飛び込んできます。夏になると、クーラーの風をかき回すために、扇風機が大活躍します。きっと、子供も首を振り続ける扇風機を興味深そうに見ると思います。
103系は北海道を除き、都市部を中心に活躍しました。しかし、老朽化が進み、現在はJR西日本とJR九州で活躍していますが、活躍している車両も姿を消すことが予想されます。大騒ぎにならないうちに和田岬線を訪れて、貴重な103系を乗り味わう旅をしてみましょう。
意外と見どころが多い、和田岬線沿線
「工場地帯を走る路線なら退屈では…」と考える方も多いでしょう。ご心配なく!和田岬線は意外と見どころの多い路線です。兵庫駅を発車し、直線区間に入ったら、右手にご注目!右側には川崎重工兵庫工場があり、新しい鉄道車両を製造しています。工場では地元を走る通勤型電車から海外の車両まで、実にいろいろな車両をつくっています。運がよければ新しい車両が見られるかもしれません。
なお、工場から列車を「出荷」するために、新しい車両が和田岬線を走ることがあります。このシーンが見られるのは和田岬線に電車が走らない日中時間帯のみ。日中時間帯、兵庫駅和田岬線ホームは閉鎖されているので、沿線から観察することをおすすめします。 やがて、電車は兵庫運河を渡ります。兵庫運河は明治時代にでき、多くの船が行き来していました。現在は運河としての役割を終え、「キャナルプロムナード」として整備されています。
そうこうしているうちに、電車は和田岬駅に停車しました。和田岬駅に着いたら、歩いて5分のところにある御崎公園を訪れてみましょう。御崎公園にはかつて和田岬を走っていた神戸市電の車両が展示されています。また、園内にはJリーグ「ヴィッセル神戸」の本拠地「ノエビアスタジアム神戸」があります。
最後に「和田岬線の帰りの電車を乗り過ごした」という場合でも慌てないように! JR和田岬駅には先ほど紹介した神戸市営地下鉄湾岸線「和田岬駅」があります。こちらは、10分間隔(日中)で運行され、三宮・花時計前駅まで乗り入れています。どうぞ、お気軽にJR和田岬線のプチ旅行をお楽しみください。
取材・文・撮影/新田浩之