去年11月に99歳でこの世を去った、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんの秘書を10年にわたって務めてきた秘書の瀬尾まなほさん。自身も作家として活動をしていますが、寂聴さんが勧めてくれたという「書くこと」へのきっかけと現在の心境について伺いました。

多忙だった日々と半年経って訪れた悲しみ

──瀬戸内さんが亡くなって半年が経ちましたが、瀬尾さんの心境に変化はありますか。

 

瀬尾さん:

瀬戸内が亡くなった頃に知人から、「悲しみって半年経ったくらいにくるよ」と言われていたのが、今になってすごくわかります。亡くなった直後は本当に忙しくて、葬儀や取材への対応など、ひとつひとつをこなすのみ。遺言がなかったので、どうしたらいいか考えながらすべて手探りでしてきました。

 

49日が終わって、ちょっと落ち着くかなと思う頃に第2子の出産があり、ずっとバタバタしていました。

寂聴さんの99歳の誕生日のお祝い

 

もちろん亡くなったということはわかっているつもりなのですが、どこかで「遠くの病院に入院していて、コロナだから会えないんだ」と思っているような自分もいます。生きているのが昨日のように感じることもあれば、遠い昔のように感じることもあって…。でも最近、育児も少し落ち着いてきて、改めて「もう会えないんだ」と、寂しさを感じることが増えてきました。

向かい合って微笑む2人

ひとりで「徹子の部屋」に出演

──これまで寂聴さんとお2人で出演したこともある「徹子の部屋」は、今回おひとりでの出演でした。

 

瀬尾さん:

これまではいつも瀬戸内がいるという安心感がありました。何かあったら話してくれるし、私は隣にいたらいいという気持ちがどこかであったので、今回はひとりだという寂しさがありましたし、徹子さんも瀬戸内と長く親交があったので、悲しんでいるのが伝わってきました。

 

でも「私ひとりでも徹子の部屋に出させてもらえたよ。先生、すごいでしょ」と瀬戸内に報告することができました。

 

──黒柳徹子さんとの印象深い会話はありますか。

 

瀬尾さん:

寂しいけれど、「瀬戸内が何もこの世に未練なく生ききったのが私にとって救いです」と言うと「そうですね」とおっしゃってくださいました。

 

私に対しても10年間よく頑張りましたねと労ってくださるひと言がありまして、瀬戸内自身が作家なのに、私にも「ものを書け」と言っていたことは器の大きさを感じるし、普通だったらそんなこと言わないよねとおっしゃっていました。

ツーショットはいつも笑顔で溢れている

作家へのきっかけは手紙

──瀬尾さんも数年前から連載を持ったり、本を出したりするなど「書く」仕事をされていますが、始めるきっかけはなんだったのでしょうか。

 

瀬尾さん:

私が瀬戸内に宛てて書いた手紙がすごくいいと誉めてくれて、書くことを勧めてくれました。私としてはまず、手紙が誉める対象になるんだという驚きがありました。思いを伝えようとして書いたけれど、プロである瀬戸内が誉めてくれるような文章だとは思っていませんでした。

 

──秘書として近くにいたかと思いますが、直接伝えるのではなく手紙にしたのはなぜですか。

 

瀬尾さん:

瀬戸内は耳が悪いこともあって、誤解されることもありましたし、話を盛られることもありました。それが悔しくて、本当はそうじゃないというのを言わないと気が済まなかったんです。でも、言葉ではうまく伝わらなくて。瀬戸内は読み書きのプロだから、きっと書いたら伝わるんじゃないかと思って手紙を書き始めました。

近くにいると「ありがとう」という感謝の気持ちもなかなか言えなかったりするので、そういうことも手紙に書いていました。何かある度にちょくちょく書いて、手渡しするか枕元に置いておくかしていました。

 

でも手紙に関してはまったくノーコメントでした。返事をもらったこともありません。でも読んだ形跡があったら、「伝わった」と思ってそれで満足していました。でもどこかで、いつかは返事が欲しいなと思っていました。

 

──昔から書くことに興味があったのですか。

 

瀬尾さん:

自分の中で思ったことを吐き出すためにノートに書き殴るとか、その程度です。思春期ならではだと思いますが、中学校で仲がよかった子たちからハブられたときに、辛くて苦しくて。色々な本を読んで印象に残っているフレーズを書き溜めて、それによって心を奮い立たせていました。

 

──書くことで心の整理をしていたのですね。

 

瀬尾さん:

溜め込むことがいちばん良くないと思っています。自分の考えって、他者から見たら偏っていたりするんです。でも、自分の限られた思考の中ではなかなか抜け出せません。

 

私は自分の考えが絶対とは思っていないので、誰かに相談したり、本を読んでみたりします。すると、自分の考えていたことが凝り固まっていたり、実は他の考えもあったりすることに気づくことができます。それに、意外と自分と同じ考えの方もいて、その人はこういうふうに解決したと知ることもできます。

 

──寂聴さんと出会って変わったことはありますか。

 

瀬尾さん:

ものの見方が変わりました。どちらかというとそれまでの人生はすべて受け身で、就職のときもこういう職業に就きたいとか、こうなりたいというものもありませんでしたし、それでいいと思っていました。瀬戸内と出会い、その情熱的な生き方に衝撃を受けました。のんびりしていた自分が、一度きりの人生なら好きなことをして情熱的に生きたいと思うようになったんです。ものの見方や女性としての強さを教えてもらった気がします。

寂聴さんとの出会いが瀬尾さんの生き方を変えた

 

原稿を書くときはパソコンを立ち上げますが、自分の気持ちや夫への愚痴(笑)は変わらずノートに書き殴っています。すごいことを書いていると思いますが、書くことで自分の気持ちが整理できますし、あとに残すこともできます。そうしないと日々をこなせません。ストレス発散のひとつですね。

 

気持ちはどんどん変わっていくので、書き残すことで、あとから読み返すとそのときの思いにも気づくことができます。そうやって書き残せる場所をいただけて良かったなと思いますし、瀬戸内が見つけてくれた「書くという仕事」を、今後も続けてできたらいいなと思っています。

 

 

PROFILE 瀬尾まなほさん

1988年兵庫県生まれ。京都外国語大学英米語学専攻。大学卒業と同時に寂庵に就職。著書に『寂聴さんに教わったこと』、『#寂聴さん 秘書がつぶやく2人のヒミツ』など。困難を抱えた若い女性や少女たちを支援する「若草プロジェクト」理事。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/瀬尾まなほ