コンソメ

家族といえども他人、すべてを分かり合うことは難しい…そんな大仰なことを言わずとも、細かな行き違いや違和感、あえて口に出すほどではない小さな小さな問題が、家庭生活にはつきものです。

 

わが家の嫁姑の間で長年くすぶる「コンソメの素」問題とは?

「コンソメは顆粒派」の同居嫁

わが家になくてはならない調味料のひとつに、チキンコンソメの素があります。義母も私も愛用しているので、常に台所に固形のものがストックされているのですが、今回はこの「コンソメの素」についてのお話です。

 

そもそも私は、コンソメの素については、固形のものがあまり好きではありません。

 

実家が飲食店で、ずっと大きな業務用の缶に入った顆粒のコンソメの素を使い慣れていた私は、結婚して初めて、義母の買った固形のコンソメを使う機会がありました。

 

同居を始めてもしばらくは、しおらしく、何事も義母の流儀に合わせていたのですが、これがどうも私の性に合わないのです。

 

わが家は6人の大所帯、しかもスープ類はみんな大好きなので大鍋いっぱいに作ります。そんなとき、いちいちキューブ状のコンソメの包装紙を何個も剥がして入れるのは面倒だし、細かな量の調節もできません。

 

わが家の場合はどう考えても顆粒のコンソメのほうが使い勝手がいいよな?と思い至り、顆粒のコンソメを義母にも使うように促したことがありました。

「固形がいい」という義母の言い分

しかし、義母は頑なに、「固形のコンソメがもうない!固形のほうがいいから買ってきて!」と言うのです。わけを聞いても「なんとなく固形がいいの!使い慣れてるから!」の一点張り。

 

何か理由があるなら説得のしようもあるのですが、なんとなく、慣れてるから、ならば仕方ありません。

 

説得を諦めた私は、当初は自分用に顆粒のもの、義母用に固形のもの、と2種類のコンソメの素を常備していました。

 

そのうちに買い物が面倒くさくなってきて、最近では私のほうが妥協して固形コンソメを使っています。毎回ほのかな面倒くささに苛まれながら…。

袋から出されてしまう固形コンソメ

というわけでわが家は不本意ながら固形コンソメ、となっているのですが、もうひとつコンソメの素についての問題があるのです。コンソメの素ひとつでよくそんなに問題が生まれるな?と自分でも思うのですが…。

 

固形コンソメが、チャック袋から何度も取り出されるのです。

 

何を言っているんだ、とお思いでしょう。私もひと言ではこの事態をうまく説明することができません。

 

そもそもわが家で使っている固形コンソメは、密閉チャック式のアルミパウチの丈夫なパッケージに入って売られています。使うたびにチャックを閉めれば品質劣化が防げるという大変便利なものです。

 

その便利なパッケージから、なぜか固形コンソメが取り出され、密閉の「み」の字もない容器に移されているのです。義母の手によって、いつの間にか…。

 

当然ですが、台所の湿気にさらされた固形コンソメは、数週間と経たずにベトベトに柔らかくなり、風味も格段に落ちてきます。

 

最初のうち私はてっきり、義母が間違えてパッケージを捨ててしまったか、ハサミでチャック部分を切ってしまったりしたのかと思っていました。

 

しかしコンソメを使い切り、新しいものを買ってくるたび、すぐに固形コンソメは袋から容器に移され、そしてベトベトじくじくに崩れていくのです。一体なぜ…。

固形コンソメをめぐる無言の攻防

しかし私は、顆粒から固形へと一度は妥協を許した身です。湿気たコンソメまでは到底許すことはできません。

 

ここで、固形コンソメをパッケージから容器に移す義母、そしてそれを乾燥剤と共にパッケージに入れ直す同居嫁、の冷戦の構造が生まれました。

 

もはや何度、義母が容器に移したコンソメを私がチャック式のパッケージに入れ直し、義母がまたそれを容器に出し、パッケージが捨てられていれば、私がまた新たなチャック式の袋を用意し入れ直し…という無言の攻防を繰り返したか、数えきれません。

 

いや、ひと言話し合えばいいことでは?と思われることでしょう。私もそう思います。

 

しかし、あまりに些細な問題すぎて、容器に移された固形コンソメを見る瞬間以外、忘れてしまっているのです。ゆえに、改めて話し合うのも難しいのです。

 

わざわざ口に出すまでもないこのささやかな戦い、終結するのはいつの日でしょうか…。

文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ