食事する親子

「子どもの自立に必要な力」をそれぞれの専門家に伺う「自立力の育て方」特集。

 

食への感謝や栄養バランス、マナーなどの知識を身につける「食育」は、子どもたちの食生活の乱れを防ぎ、生涯にわたって健康でいられることを目指す教育です。正しい食の知識は、将来子どもが自立するときの力になってくれるでしょう。

 

とはいえ「忙しいなか、食事を用意するだけでも精一杯なのに食育なんて…」とプレッシャーを感じてしまう人も少なくないはず。

 

フランス料理「モルソー」のシェフであり、現在4歳の娘を育てる秋元さくらさんは、「一番大切なのは楽しく食卓を囲むことだ」と話します。思うようにいかないことも、もちろんある、と笑う秋元さんに家庭の食卓で大事にしていることを聞きました。

食育のベースは「楽しい食卓」

── シェフであり、4歳の娘を育てる秋元さん。食育はされていますか。

 

秋元さん:

食育って大事ですよね。食べることは一生続きますし、身体を作っているのは食事ですから。

 

子どもはまだ4歳なので、難しい話はしませんが、バランスよく食べられる子になって欲しいので、いろいろな食材にチャレンジすることは意識しています。

 

でも、一番意識しているのは「楽しく食卓を囲む」こと。もうこれがベースと言ってもいいと思っています。

 

── 楽しく食卓を囲むことが食育のベースですか?

 

秋元さん:

楽しく食卓を囲んだ記憶は、「食」に対して好感や興味を持つきっかけになります。それがあって初めて「食育」の知識が定着していくんだと思います。

忙しくても「楽しい食卓」を実現する方法

── 忙しい日々においては、「楽しい食卓」もままならない…という読者もいそうです。

 

秋元さん:

確かに、仕事などの都合でゆっくり丁寧な食事をするのはなかなか難しい時代です。でも、特別なことをしなくても、そこに笑顔があれば「楽しい食卓」にはなると思います。

 

私の母は仕事をしていたので、祖母の手料理で育ちました。小さいうちから外食の機会も多かったですね。

 

母の手料理でなくても、子どものころの食卓は楽しかった記憶があるし、だからこそ母親の手料理が絶対だとは思っていません。

 

完璧じゃなくても大丈夫。多少手抜きがあっても、料理をする人が元気に笑ってキッチンに立っていることのほうが大事だと思います。

秋元さくらさん幼少時
幼少期の秋元さん

── あまり気にしすぎず「楽しく食卓」を囲めればいいですね。

 

秋元さん:

プロの料理は、いつも同じ美味しい味が求められますが、家庭料理は「今日はしょっぱい」「今日はすっぱい」があって、だから毎日食べても飽きないんだ、とよく言っています。

 

そう考えれば、食事作りに対するプレッシャーも少し和らぐのではないでしょうか。

「食べてくれない」は諦めるのではなく割り切る

── 「楽しい食卓」の次に実践されている食育が、「いろいろな食材にチャレンジすること」ですね。

 

秋元さん:

「子どもはこれが好きだから」という理由で同じ料理を繰り返して、新しい味に手を出さないのはもったいないと思うんです。

 

でも実際は偏ってばかり。娘が生まれるまでは「いろんなものを食べさせよう」と意気込んでいたんですけどね(笑)。

 

── 秋元さんの手料理でもそうなるんですね…!

 

秋元さん:

育児中は多忙ですし、その合間をぬって作った料理を食べてもらえないとがっかりしますよね。

 

そういうときは、「今はまだ難しかったね」と焦らず気持ちを切り替えるようにしています。

 

「せっかく作ったのに」とイライラするよりは、「いつか食べられるだろう」と割りきるほうが気持ちはラクになると思います。

 

育児は、思う通りにはいきませんから、諦めるのではなく割りきることで、初心を忘れないようにしています。

食事を通して子どもを観察する

── 食事を通じた子どもとのコミュニケーションも重視されているそうですね。

 

秋元さん:

食事を通じて、子どもの嗜好や変化に気づきたいと思っています。

 

食事中の会話や様子から、「柔らかいにんじんはダメだけど、固めにゆでれば食べられるんだ」とか「りんごはシャキシャキよりもしっとりが好きなんだ」ということがわかりますよね。

 

それだけじゃなく「量が食べられるようになったな」「今日は食欲ないけど体調が悪いのかな」など成長や体調に気づくこともできます。

秋元さくらさんと娘さん
秋元さんと娘さんの食事風景

私の場合、あとは単純に、子どもが喜んで食べられるものを作ってあげたいという気持ちがありますね。食事を通して子どもを観察しています。

子どもがジャンクな味にハマったら

── そうした姿勢は、子どもも嬉しいでしょうね。

 

秋元さん:

ありがとうございます。

 

子どもとの食事は大切にしていますが、忙しいのでレトルト食品などを活用することもあります。お湯をかけるだけのフリーズドライ製品もよく利用します。ただ味が強く感じてしまうので、そういうときは「水」をたすようにしていますね。

 

レトルトカレーには水を、即席の味噌汁には多めにお湯を入れて味を薄めるようにしています。塩味を抑えることは体にいいですし、素材そのものの味に近づけるので我が家では「水」が万能調味料です。

 

── 料理人ならではですね…!

 

秋元さん:

でも周りの料理人からは、「高校生にもなれば、家の食事よりも、ジャンクな濃い味が大好きになってくるよ」という話をよく聞きます。結局どんなに私が気をつかっても、成長と共に子どもの味覚は変わっていくわけですから、それは本人の意思かなと思っています。

 

それでも、いろいろな食材を出したり、薄味にするのは、将来への期待ですね。

 

大人になって、例えば30歳を過ぎたころに、幼少時の味覚がいきてくれば嬉しいなと思っています。

 

PROFILE 秋元さくらさん

秋元さくらさん
日本航空客室乗務員から料理の世界へ。2009年にソムリエである夫と共に東京・目黒に『モルソー』をオープン、2018年東京ミッドタウン日比谷に移転。現在、NHKのあさイチに出演中。テレビや雑誌などメディアでも活躍。著書は『もてなし上手のサラダ・レシピ』など。

取材・文/山田優子 イラスト/加納徳博 画像提供/秋元さくら