2019年、40歳のときに仕事をいったん休み、母校でデザインを本格的に学び直す決断をした篠原ともえさん。ゴールが見えないまま、仕事を休むことには不安もあったそうですが、新しいキャリアを進むことが、10代、20代、30代と全力で頑張ってきた自分への“ご褒美”のように感じられた瞬間があったそうです。

学びなおしをした経験を話す篠原ともえさん

40歳手前で休職し、母校で学び直した「修行の時間」

—— 会社設立前、40歳の時に芸能活動を休んで、母校である文化学園大学に再び通いデザインを学んだそうですね。

 

篠原さん:

そうですね。一度デザイン学科は卒業していたんですけれど、服飾の技術をもう一度ブラッシュアップしたいなと思って。表に出る仕事を休んで、SNSも一旦全て退会し、パターンなどの学び直しをし、集中して創作する期間を作ったんですよ。ポートフォリオを作って、デザインのプロの方に見ていただいて意見をもらったり。

 

ゴールが見えないまま仕事を休むのは本当に不安で、修行の時間でした。

 

どういうものを創作したら、“自分が好き”というだけではなくて、自分がワークすることで社会に繋がれるんだろうかと、時間をかけて考えてみたり。図書館に行っていろんな資料を見たり、そういう時間を徹底的に作りました。

 

それで、形になったのが2020年に開催した「SHIKAKU」展という、余り布を出さない衣装作品を中心とした展覧会です。

篠原ともえさんが「SHIKAKU」展に出展した作品(Photographer: Sayuki Inoue)

今までの自分とは全然違うものを提案したので、すごく不安だったんですけど、変わっていく私を見て楽しんでくれる方がいて、応援してくれる声もたくさん届いたんです。

 

そのときに怖さがなくなった。やってみなきゃわからないことって、あるなと思いました。

10代よりも豊かな時間を過ごしている

—— ゴールが見えない中、新たな道に踏み出せたのは「やるっきゃない」という感じだったんでしょうか?

 

篠原さん:

やるっきゃない、ですね(笑)。自分で選んだ道だから、突き進もうと思えたんです。それに40代になると、新しいことをやってみてもいいかなって思えたんですよ。

 

10代、20代、30代で一生懸命やってきた自分に対して、新しいことを始めることが、ご褒美のように感じたんです。新しいことをやる方が、過去の自分が喜んでくれるんじゃないかって。不安もあったけど、期待を込めてトライしてみた感じですね。

 

—— 私、今37歳なんですが、目の前のことでいっぱいいっぱいで、どう40代を迎えればいいのか、不安になることがあります・・・・・・。

 

篠原さん:

私も37、38のときがいちばん悩んでたときでした。私は表に出る仕事が好きだったから、離れたくなかったんですよね。

 

だけど、やるべきことを選ぶために、好きなことから離れなきゃいけないと思い、それをチャンスと捉えて、トライしてみたいと思ったんです。

 

トライしてみないと、わからない感触もあります。今までの仕事の喜びと全然違うんです。表現の世界だと、自分がワンマンでやることもあったんですけど、今はチームでもの作りをしてるので、そのときの喜びは、本当にかけがえのないものです。嬉しすぎてくすぐったくなっちゃうような、初めての体験でした。

 

10代でこれ以上ない喜びを体験したと思っていたけれど、今はそれ以上の豊かな時間を過ごせているので、この道を選んでよかったなと思います…大変ですけどね(笑)。

篠原ともえさん
自分でデザインした服を身にまとう篠原ともえさん

30代、40代で変わった仕事の喜び

—— 現在はクライアントワークも多いと伺っています。アーティストとしてデザインするのと、クライアントのためにデザインすることの間にギャップを感じることはありませんか?

 

篠原さん:

10代20代のときは自分が楽しくて嬉しくて、それがお仕事のゴール。それでいいと思うんです。

 

でも、30代で衣装の仕事にシフトチェンジしたとき、自分が作った衣装がステージに出ているのを見たら、私自身がステージに出る以上に嬉しかった瞬間があったんですよ。

 

私は客席にいて、誰も私のことを見てないのに、私の作った衣装がステージにあることが、もう震えるくらい嬉しい!

 

しかも、自分がステージに出ていたら見られないけど、自分の作品も見られるし、感動しているお客さんも見られる。そのときに「この仕事、愛せるな」って思ったんです。

 

30代は衣装デザインがメインでしたが、40代でのクライアントワークは、相手がどういうモチベーションで、それをいかに引き出すかを意識しています。

 

40代になると、自分のこと以上に相手が喜ぶことの方が嬉しかったりするんですよね。

 

責任のある仕事で期待していただいているから、それにどう応えるか。予想を裏切りながら、期待に応える。それがいちばん喜ばれるという経験をしてきているんですよね。キャリアを重ねて、ものの作り方が、だんだん変わってきたのかなとは思いますね。

進行管理や予算管理も自分でやる

—— アーティスト活動から、会社としてチームで仕事をするようになって、意識していることは何ですか?

 

篠原さん:

やれることは自分でやるようにしています。例えば、経理のことやスケジュール管理は、私は不得手なんだけれども、好きなデザインをやるためには、難しいこともやらないとレベルが上がらないことがあるんですよね。

 

30代は衣装の仕事が多かったので、スケジュール管理してくださる方がいたんですが、今は話が来たら、スケジュール組んで予算を確認して、制作進行をどうするかを考えて、と自分でやってみています。するとね、難しいことが好きなことに変わっていくんですよ。

 

以前は、デザインの話が来たら、嬉しくてすぐデザインを始めていたんですが、今はまずリサーチを始めて、資料を作って、会議して。そういうプロセスは、ひとりじゃできなかった。

 

チームでやると、ものづくりが力強いものになるなら、そのプロセスはまったく苦じゃなくなるんですよね。だから今、Wordはもちろん、イラストレーターやフォトショップなどグラフィックのデザインソフトを使えるようにしたり、PR戦略の本を読み込んだり、教科書を読んでやってみるというようなことをしています。

 

—— 進行管理もご自身でやられているんですね。

 

篠原さん:

今までやってこなかったので、すごく苦手です(笑)。でも、それがうまくいかないとデザインも連動してうまくいかないことが出てきたんですよね。でも、やってみたらだんだんと慣れてきて。

 

デザインの方では、できるところまでは自分でMacでやってみて、いざレベルを上げたいときにアシストしてくれるデザイナーにお任せするとか、できるだけ自分でやってみるようにすると、結果自分のレベルが上がっていく。難しいことを難しいと思わないで、やってみるようにしています。

 

PROFILE 篠原ともえさん

文化女子大学短期大学部服装学科ファッションクリエイティブコース・デザイン専攻卒。1995年歌手デビュー。映画、ドラマ、舞台など歌手やタレント活動を経て、衣装デザイナーとしても活躍。2020年、夫でアートディレクターの池澤樹氏とクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。2022年4月開業の宿泊施設「OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート」ではホテルユニフォームのデザイン・製作監修を担当している。

取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美