常盤貴子さん

「こんな素敵な瞬間があるなんて!」と、舞台のお話を楽しそうに語る常盤貴子さん。20代で、たくさんの主演ドラマを経験したからこそ、舞台の醍醐味を知ったと言います。

 

しかし、舞台は映像とは違い、やり直しがきかない世界。お客さんが目の前に座っている。そんな状況で一度、出演者全員が焦った「地獄絵図」も経験したとか──。

舞台の本番中に直面した「地獄絵図」

── たくさんの舞台に出演されています。やはり、ドラマと舞台では、演じていても違うものですか?

 

常盤さん:

お客さんが目の前にいるのか、スタッフだけなのか。それだけでも全然、状況が違います。状況が違えば、セリフの言い方や、体の状態も変わってきますし。

 

── 舞台だと、すぐにお客さんの反応が返ってきますよね。

 

常盤さん:

だから舞台が好きっていう役者さんも、たくさんいると思います。お客さんが笑ってくれたり、反応があることに喜びを感じたり。ただ…私はそこではないみたいです。

 

私が舞台を面白い!と感じたのは、寺山修司さんの遺作『レミング 〜世界の涯まで連れてって』を維新派の松本雄吉さんが演出された舞台に出演していたときでした。

 

一度、舞台本番中に、誰も想像がつかないような「地獄絵図」になったことがあったんです。

 

もう、何をしてもハプニングの連続で、出演者もみんな焦っちゃって。ホントどうしようもなかったんです。

 

でも、そこでみんながどう動くか。各自が瞬時に考えて、なんとかリカバーして。

 

終演後に皆んながワッと集まって「怖かったねー」って、スタッフやキャストと言い合えたのが本当に楽しかった。これこそが一期一会の、今日観てくださったお客さんと、私たちの記憶にしか残らない究極の芸術。だから皆んな舞台は面白いっていうんだ!って。

 

── 確かに、聞いてる方は面白いのですが、舞台ではかなりの緊迫感も味わいそうです…。

 

常盤さん:

怖いですよね。みんなどうにかしようって舞台上では必死ですよ。でも、その焦りこそが絶対必要で。

 

焦ってなくて、ただ、「こうすればいいんじゃない」ってなっちゃうと、それはそれで面白くない気がするんです。「しまった!」っていう思いと、そこからどう立て直していくか。その掛け合わせで面白くなっていくんじゃないかな。

 

あと、お客さんも、舞台を観ていてヒヤヒヤするじゃないですか。でも、そこから「おぉ、そう持っていったか!」って。そう言ったすべてを含めて面白いというか。

 

── 出演者もお客さんも巻き込んで。

 

常盤さん:

そうですね。あと…なんだろう、毎日同じことをやっていくことに、私は楽しさを見出せなかったんですかね。

 

目指す先が毎日同じようにやることなら、映画館で同じ映画を何十回観るのと変わらないなぁと思ってしまったんですよねぇ。

 

じゃあ、何なら面白いと感じるんだろうってずっと探していて。そう考えているときに、「レミング」に出て「これだったんだ!」ってわかったんです。

 

毎日100%の完成度で演出家が求める劇を目指すということは、当然あると思う。でもそこで何かが動いたときに、その日だけのエンターテイメントができるんだと知れたことは、舞台での失敗が怖いだけではなくなった気がするんです。

 

常盤貴子さん
ハプニングからの立て直しも魅力だと語る常盤さん

 

── ハプニングすら、みんなで作り上げていくというか。

 

常盤さん:

「ハプニングアート」っていうんですけどね。まさに寺山修司さんがよくやられていたみたいです。

 

寺山さんについて逸話というのかな。不思議な話を聞いていて。

 

「寺山の命日には何かが起きるらしいよ」的な話は、稽古中からよく笑い話として耳にしていたんです。

 

頑丈に作られているセットの一部が壊れるとか。何もないところから何かが落ちてくるとか。普通、そんなことありえないんですよ。でもなぜか、命日とか、特別な日には有り得ないことが起きるっていうんです。

 

私たちの舞台でも「命日」にあたる日があって。普段は円陣なんて組まないのに、開演前に出演者全員で「今日は寺山さんの命日だから、きっと観に来てくれるはず。気合を入れて頑張ろう!おー!」みたいなことをやったら…地獄絵図のようになってしまった…。

 

もう、みんな「寺山にやられた!」っと終演後は反省会と共に大笑い。元奥様の九條今日子さんにお話したら「寺山、来たわね」って悪戯っぽく笑ってらっしゃいました。

 

これこそが「ハプニングアート」の寺山修司なんだ!と感動しました。こんな体験ができたことは、私にとって、すごい気づきだったんですよね。

 

──「ハプニングアート!」ちょっとワクワクするような、怖いような。

 

常盤さん:

究極ですよね(笑)。

ハプニングは一期一会だから

常盤貴子さん
舞台ならではハプニングも魅力だと語る常盤さん

 

── ただ、斜めからの見方をすれば、1回そういったハプニングが起きてしまうと、次から怖くなってしまいませんか?

 

常盤さん:

こんな素敵な瞬間があるんだったら、と期待してしまう自分もいるんですよね。

 

次の公演で、あんな恐怖が待ってるかわからないですよ。それに、もちろんみんな完璧を目指してやろうとはします。でも、もしかしたらまたそんな1日があるかもしれないっていう、怖いもの見たさというか(笑)。

 

── なるほど。では、そうした舞台のハプニングは他の場面でも楽しめたりしますか?

 

常盤さん:

もともと、何かがある現場の方が好きなんですよね。だから一時、中国や香港の現場によく行っていたのかな。日本の現場は、皆さんちゃんとしているというか、予定通りことが運ぶじゃないですか。時に、それが物たりないというか(笑)。

 

たとえば香港の現場だと、日々、「言ってること」と「やってること」が違っていたり。あるときなんか、私が主演の映画で当日現場に行ったら、ロケ場所が変わってたこともあって。誰も教えてくれなかったんですよ。

 

── 当日、ロケ場所が違うって結構なことですよね。

 

常盤さん:

そうそう、「なんで教えてくれなかったの?」って。でも、それって笑えるじゃないですか。「なんで主演に教えないかな?」みたいな(笑)。

 

── 聞いてるこちらは笑えるんですが、当の本人だったら笑えるかなって。

 

常盤さん:

私、結構笑えちゃう。ありえないから。面白いなこの人たちって。「だってしょうがないじゃない!変わったんだから!!」って言われると、確かにって思っちゃうところもあるし。

 

── それに対してどうするんですか?

 

常盤さん:

こっちも言うことは言うからストレスも溜まらないですよ。彼らも別に喧嘩をしようと思って言うんじゃないんですよ。会話のキャッチボールじゃないですけど、スタッフ・キャスト関係なく、何でも言い合える関係というのが本当に好きですね、私は。

 

── イレギュラーも楽しむと。

 

常盤さん:

性格なのかもしれないですね。何かが変わるのが嫌な人もいっぱいいるし。ただ、私は想定外のことが起きる方が面白いなって思うし、風の吹くまま気の向くままに生きていきたいと思ってるんですよね。

 

もちろん一生懸命舞台の稽古をします。でも、また、一陣の風が吹いて「ハプニングアート」の一期一会を体験できるんじゃないかって、内心ワクワクしています(笑)。

 

 

PROFILE 常盤貴子さん

1972年生まれ。神奈川県出身。1991年に女優デビュー。『愛していると言ってくれ』、『Beautiful Life』(ともにTBS)ほか、多数の主演ドラマあり。映画や舞台、CM、ナレーションなど活動は多岐にわたる。

取材・文/松永怜 撮影/坂脇卓也 
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