とよす株式会社が製造する関西風ひなあられ

3月3日の「ひな祭り」を前に、スーパーなどの店頭で目にする機会も多い「ひなあられ」。

 

あなたの思い浮かべる「ひなあられ」の味は甘い?それとも、しょっぱい?

 

東西の味の違いや特徴、関西風ひなあられの味の秘密を、創業120年の老舗米菓メーカー「とよす株式会社」に聞きました。

関西風のシェアは約3割、その味の特徴は

「そもそもひなあられには、関西風と関東風の2種類あります。

 

私たちは関西のメーカーですので、もち米がベース。醤油やえびなど、いろいろな味がミックスされているのが特徴です。

 

一方で、関東はポン菓子を砂糖がけした商品が多く流通しています。こちらは、うるち米、いわゆる私たちが食べるお米が原料になっています。

関東風のひなあられ

 

全国的なシェアの割合は、ざっくりではありますが関西風が3割、関東風が7割くらいではないでしょうか。

 

日本列島でいくと名古屋あたりが境目になっていますが、その近辺ご出身の方だと、ひなあられは『マヨネーズ味』という方もいるかもしれません」

 

この理由には、昔のひなあられのシェアを誇っていた米菓メーカーの存在があります。

 

「当時ひなあられのシェアを誇っていた企業が岐阜県にあり、味の主力のベースがマヨネーズだったんですよ」

厄除けを込めた「5色のひなあられ」味の秘密

今回取材に応じてくれた「とよす株式会社」は、1960年に米菓メーカーとして初めてひなあられを商品化。

 

「関西風ひなあられ」のシェアを誇るその特徴は、厄除けの色とされる、赤、青、黄、白、黒の5色に、チョコがけのひなあられが加わったミックススタイルです。

圧倒的な売り上げ1位を誇る『銀包装 ひなあられ』30年以上パッケージデザインを変えず伝統を守っている

 

「色の由来は諸説あるかと思いますが、陰陽五行からきているのではないかと聞いています。ひな祭りは、お子さんの健やかな成長を願うお祝いなので、この厄除けの5色は当初から変わりません。

 

赤色がえび、青色が青のり、黄色が砂糖がけ、白がサラダ味、黒が醤油がけのラインナップになっていて、練り込んでいるえび味以外のベースは同じ生地を使っています。

 

ちなみに、サラダ味というのは、塩味ですね。昔の技術では、おかきに塩を振りかけても味がつかないことから、サラダ油に塩を混ぜてコーティングし、味をつけていました。

 

業界用語だと“サラダがけ”というのですが、主力商品である『ハイサラダ』というおかきのアイデンティティもしっかりつまっています」

1963年から半世紀以上にわたって販売されている『ハイサラダ』発売当時はCMも話題に

 

黄色の砂糖がけのひなあられは、ひやしあめを思い起こすような味に。生姜が隠し味になっている他、青のりのひなあられは、素材の彩りを活かす淡口醤油ベースになっています。

 

そして、目を引くようなひなあられの「美しい形」には職人の技がつまっています。

 

「小さく四角くしたおかきの生地を焼くと、ふわっとほつれたようなサイコロ状のあられが出来上がってくるのですが、さらに綺麗に形を整えていくために、焼き釜で転がしながら焼いていきます。

 

ここまで丸く仕上げるには、簡単な道のりではありませんでした。見た目の美しさを追求し、さまざまな試行錯誤を重ねて、技術を磨いてきた歴史があります。

 

2月は袋詰めの工程がメインなので、お見せすることができず残念ですが、焼き釜の上を転がっていくひなあられの姿は、何度見ても可愛らしいんですよ」

味つけの工程。チューリップのような機械の中でひなあられを撹拌させながらそれぞれの味をつけていく

ひなあられの可能性を広げた「チョコあられ」

今は当たり前のように浸透している“チョコとおかき”の組み合わせですが、誕生は1965年。とよす株式会社が日本で初めて商品化しました。

 

甘さとしょっぱさが融合するテイストは、反対意見が出るどころか、最初からひなあられに加える目的で開発されたそうです。

 

「ひなあられの美しい形をとことん追求した歴史がある社風ですから、ネガティブな意見はなかったと聞いています。

 

おかきメーカーですので、当然チョコレートの技術には精通していません。そこで当時は、大阪のチョコレート工場に協力していただき、あられにチョコをコーティングする技術を学んで商品化しました。

 

少し話はそれますが、あられの新しい可能性を求めて、さまざまな取り組みをしてきているんですよ。

 

たとえば、昔のおかきは、世間では駄菓子のイメージが強かった。そのイメージを払拭しようと、贈答品として化粧缶入りのおかきにチャレンジした歴史もあります」

 

そんな企業努力や商品開発への熱量に、顧客ニーズもあわさって、チョコあられ100%の『ひなちょこ』も誕生。

ミルクチョコレートの『ひなちょこ』は『銀包装 ひなあられ』に次ぐ人気。ピンク色のいちご味も

 

ちなみに、とよすの『銀包装 ひなあられ』のチョコ比率は最低6粒以上。何個入っているかな?と考える楽しみもある、と教えてくれました。

バレンタイン明けが消費のピーク!短期決戦の儚い存在

「ひなあられの生地の製造は12月中旬から始まり、焼きの工程がだいたい12月下旬から1月の終わりくらいまで。そのあと、一気に袋詰めの工程に入っていきます。

 

1番最初の出荷ピークは1月20日頃ですね。そして、1月下旬から2月のあたまにかけて2回目の大きなピークを迎えます。

 

ちょうどその頃、スーパーではバレンタインの売り場をつくるのですが、それと同時に顔見せとして、ひな祭りコーナーができるんですよ。

 

2月14日のバレンタインの後は、ひな祭り一色になっていきます。ただ、最近は、ひな関連菓子といって、ひな祭りを意識したチョコレートだったり、わたあめだったり。

 

ひな祭りの関連商品の幅が広がっているので、競争は年々過熱しています」

 

旧暦の4月3日でひな祭りをお祝いする一部の地域を除くスーパーでは、3月3日を境に安売りコーナーに並べられてしまう切なさも、期間限定商品の定めなのかもしれません。

 

「私たちは、日本の文化を学ぶ『食育』として、全国の保育園や幼稚園向けひなあられの販売も行っています。

女雛と男雛が両面に印刷された子ども向けの商品。広げると塗り絵になる楽しい遊び心も

 

以前、お取引先の幼稚園が購入してくださったときに、子どもたちが目をキラキラさせながら嬉しそうにうちの商品を持っている姿は、なんとも微笑ましい光景でした。

 

今年のひな祭りは、関西風と関東風のひなあられを食べ比べるのもいいですし、身近な人たちとひなあられについて語り合うのも楽しいかもしれません。

 

お子さまの健やかな成長を願う3月3日に、より楽しく、より美味しく食べていただけると嬉しいですね。そんな食文化が末長く続いていくことを願っています」

 

PROFILE とよす株式会社

1902年(明治35年)創業。百余年にわたり「米で人を豊かにしたい」という理念で職人や顧客に寄り添う老舗米菓メーカー。お米のもつ可能性をとことん追求し、伝統を守りつつも、新しい価値のあられや食シーンを創造する商品を開発している。

 

取材・文/石橋沙織 写真提供/とよす株式会社