今春、宮﨑駿監督の名作アニメ『千と千尋の神隠し』が舞台化されます。3月の帝国劇場公演を皮切りに、大阪、福岡、札幌、名古屋と全国で上演予定です。

 

ユニークなキャラクターが多い本作のなかでも、自由に動く6本の腕を操る釜爺を演じるのが、俳優・田口トモロヲさん。今回は、『千と千尋の神隠し』の舞台についての思いを伺いました。

「どういう舞台になるか自分も楽しみ」

── 今回の舞台演出を担当するジョン・ケアード氏は、『レ・ミゼラブル』のオリジナル版の潤色・演出でトニー賞受賞歴がある著名な方ですが、日本の演出家との違いはありますか?

 

田口さん:

日本の場合だと、本(台本)読みをしてすぐ内容に入っていくことが多いのですが、ジョンさんの演出では出演者が集った時間を豊かに使っていこうっていう姿勢が強いです。芝居の内容とは別のワークショップをやることで、出演者同士のコミュニケーションを結ばせてから、内容に入っていく。周辺から舞台のイメージづくりを始めていくのは、すごく新鮮でした。

 

── 独特の世界観がどのように舞台で再現されるのか、楽しみです。

 

田口さん:

ジョンさんは、ものすごくジブリ愛に溢れている人。作品に対するリスペクトが強いので、この作品を汚さないように考えています。なおかつ映像とは違う舞台になるように創作し、稽古しています。

 

── 今回の釜爺役はどのようにして決まったのですか?

 

田口さん:

プロデューサーさんの推薦でお話を頂いたんです。ジョンさんとは、最初はリモートで面談しました。僕も「本当にどうやって舞台化するのだろう」っていう好奇心から、「ぜひ観てみたいな」という思いで参加しました。

田口トモロヲさん
舞台挨拶でコメントする田口さん

── 釜爺は、初めは千尋に好かれない役ですよね。

 

田口さん:

そうですね。千尋以外は妖怪、異形の者たちですから。しかも彼の周りにいる友達はススワタリだけです。

 

── 「手が生えるかも」と、舞台のインタビューでおっしゃっていましたが?

 

田口さん:

今ね、実は生えつつあります(笑)。徐々に生えつつあるというか。自分自身もこのあと、手の仕上がりはどうなるのか非常に楽しみだし、実際に現場で誰よりも早く体験できるのが、今の醍醐味です。

「実は人見知り…でも俳優の仕事は一期一会だから」

── 今回のように原作がある役の場合は、作品を意識しますか?

 

田口さん:

資料は、できる限り目を通したり読んだりするようにしています。役づくりに関してはケースバイケースで、演出家の意図に沿うようにしています。例えば、「原作を読み込んでヒントにして」って言われたらそうするし、「原作から離れて立体化しましょう」という演出なら原作から離れて考えます。

 

── 3月の帝国劇場から始まり、7月の名古屋での上演まで長丁場の舞台となりますが、体力づくりはされていますか?

 

田口さん:

特にはしていないです。でもコロナのことがあるので健康面には注意しています。これだけの長丁場は初めてなので、自分自身がどんな感じなるのかなぁと。僕は今64歳ですが、この年齢でも初めてのことがあるんだなって。どんなモチベーションになるかが未知なので、すごく楽しみにしています。

舞台『千と千尋の神隠し』出演俳優陣
舞台挨拶で共演者の面々と

── 今回のお芝居では、千尋役に橋本環奈さん、上白石萌音さんと若い世代の方と共演されます。新しいメンバーとの共演は緊張されますか?

 

田口さん:

人見知りなんで、緊張しますね。仕事という必然性がないと人と話さないんですよ。だから初対面のときは特に緊張します。嫌われないようにって(笑)。

 

── 俳優という職業は、作品によって一緒に作り出すチームが変わると思います。毎回違うメンバーと関係性をつくり出す必要があるなかで、心がけていることはありますか?

 

田口さん:

一期一会ですよね、本当に。そのときどきの“祭り”でメンバーが違う、という感じです。だからいつも必死。もう出会えないと思うから、懸命にやるしかない。そのときできることは、全部やっていこうと。また出会えるとは思わず、やりきるってことを今は意識してやっています。

「舞台とバンドは似ている。ライブ感覚が重要」

── 舞台と映画はどういう部分が違うと感じますか?

 

田口さん:

20代の頃はバンドをやっていたので、その感覚も強いのかもしれないけれど、演劇もライブと同じと思っています。そのとき、同じ空間にいる仲間である役者とお客さんが共犯者で、瞬時に起こったことを取り入れていく、という感じで。

 

ライブではいろいろなことが起きますし、ハプニングも生かせればよりいいものになる。もちろん、ダメなときもありますが(笑)。そういうふうに捉えています。映像とはまた違う良さを、ストレートに楽しめればいいですよね。

 

── ライブハウスでバンドを組んだ経験を経て、今やメジャーな作品に欠かせない俳優という立ち位置ですが、何がきっかけだったと思いますか?

 

田口さん:

自分ではやっていることはそんなに変わっていなくて、時代が変わったと思います。今回、釜爺役でダブルキャストの橋本さとしさんとも話したのですが、「劇団☆新感線」も今のようなメジャーな存在になるとは夢にも思わなかった、って言っていました。

 

僕もたまたまこの立ち位置にいるだけで、時代の変化で認められた。意外ですよね。やっている内容はあんまり変わっていないのに。

 

── ご自身のなかで変わった部分はありましたか?

 

田口さん:

下ネタを言わなくなったくらいかな(笑)。気をつけて言わないようになったんですけど。あと随分体力も失いましたが、精神的には本当に変わっていないです。

 

── これだけは譲れない、というものは?

 

田口さん:

自分が好きだって思えることに出会いたい。好きだって思えることをやっていかないと生きてる意味がないってずっと思ってきました。今もそう思いながら、俳優をやっています。

 

PROFILE 田口トモロヲ

1957年東京都生まれ。アングラ劇団の俳優や、パンクバンドのボーカル、自主映画への出演などを経て、映画やドラマなどにも多数出演。近年はナレーターや映画監督としても活躍。舞台『千と千尋の神隠し』は、2022年3月より全国5か所で上演予定。

 

[作品情報]
舞台『千と千尋の神隠し』

◉原作:宮﨑駿 演出:ジョン・ケアード 製作:東宝


◉出演:橋本環奈/上白石萌音 醍醐虎汰朗/三浦宏規 菅原小春/辻󠄀本知彦


咲妃みゆ/妃海風 田口トモロヲ/橋本さとし 夏木マリ/朴璐美


大澄賢也 吉村直 おばたのお兄さん


◉公演日:2022年3月2日(水)~3月29日(火)帝国劇場/プレビュー公演2月28日(月)~3月1日(火)

4月大阪・梅田芸術劇場メインホール/5月福岡・博多座/6月北海道・札幌文化芸術劇場hitaru/6・7月名古屋・御園座

取材・文/池守りぜね