飲み会で下戸のために苦痛になる女性

 最近、お酒の強要はハラスメント行為だという認識も広がり、「オレ(私)の酒が飲めないの?」と迫ってくる人が減りました。加えて、飲み会の機会も減り、アルコールを飲まない若い人も増えています。お酒は飲みたくても体質的に飲めない人もいれば、少量でいい人も。「飲めなければ大人でない」わけではないのです。

 

「お酒が飲めないと人生で困りません?」と毒づくママ友

「私はアルコールが合わず、お酒もまったく飲めない体質です。奈良漬けで酔っ払ってひと晩寝込んだこともあるくらい」

 

笑いながらそう話すのは、アツコさん(40歳・仮名=以下同)です。両親もまったくお酒を受けつけない体質なので、まさにアレルギーと言ってもいいくらいだそう。

 

「別に私は、飲めなくても全然困らないし、夫も強いほうではないので夫婦間でも困ってはいません。最近では一般的に理解も進んでいるから、強要されることもありませんしね」

 

結婚して10年、7歳のひとり娘がいます。娘のお稽古事を通じて仲良くなった夫婦がいて、つい先日、初めて夫婦二組で食事をしたそうです。

 

「たまには大人同士でということになって。以前から一度食事に行こうと言っていたのですが、コロナ禍で延期していたんです。近場で評判のいいレストランを予約して楽しみにしていました。子どもたちは、友人夫婦と同居するお母さんが見てくれるというので預けて」

 

アツコさん夫婦は共働き。友人夫婦の妻・カナさんは専業主婦です。

 

まずはシャンパンで乾杯といきましょうかと、カナさんの夫が言ったんですが、私は飲めないので炭酸水でとお願いしました。そのときは誰も何も言わなかったのですが、料理が進んでワインでもとなったとき、私はごめんなさいね。体質的にどうしてもダメでともう一度伝えたんです。カナさんの夫はそんなこと気にしないでくださいと言ってくれたんですが

 

カナさんはお酒に強いらしく、ワインをぐいぐい飲んでいったそう。そして少し酔いが回ったのか、だんだん話し方が砕けてきました。

 

「お酒が飲めない話を蒸し返して、でも、飲めないといろいろ困りません?というので、最近は職場での宴会もないし、あったとしても強要されることもないしと言ったら、ふーんって。私はどうせ働いてないからともつぶやきました。

 

そんなつもりで言ったわけじゃないしと思っていると、でも、旦那さんはどうなんですか?一緒にワインくらい飲みたいときってありません?お酒が飲めないと夫婦仲もうまくいかないんじゃないかしらって。失礼ですよね。思わずムッとしていると、彼女の夫がすみません、カナ、酔ってるのか?と慌てていました」

 

結局、食事会はなんとなく気まずいものが漂ったまま終わりました。

お酒が飲めることと人生の豊かさは別物

その後、娘の習いごとの保護者たち数名で忘年会がありました。

 

「ママたちばかり6人ほどで。仕切っていたのはカナさんでした。最初から彼女は、まずはビールかな。アツコさんは飲めないんですよね。水でいい?って。なぜかその場で飲めないのは私だけ。だけど、“水”っていう言い方はないですよね。ウーロン茶をもらって乾杯はしました」

 

カナさんは何かにつけて、「アツコさんは飲めないのよね。まじめだからね」とか、「お酒を飲む女性が嫌いでしょ」などと言い始めます。

 

何が彼女をそこまで意地悪にさせているのかよくわからないまま、会は進んでいきました。すると、しばらくたって隣に座っていた女性が「じつは私も飲めないの」と耳打ちします。

 

「うちの娘がその習いごとの新参者だったから、会には初めて参加したんです。隣にいた女性は前から参加していたようで、カナさんは自分が酒好きなので、酒が飲めない人が嫌いなのって言われました。

 

彼女から飲めないのに飲むフリをしていると教えてくれました。酒が飲めないイコールつまらない人、という思い込みがカナさんにはあるんですって。しかも彼女は働く女性が嫌い。私はふたつとも当てはまってしまったんですね」

 

原因がわかったアツコさんは、それきりカナさんとのつきあいをやめました。たかがアルコールで「人を下に見る」人間とはつきあいきれない、と割りきったのです。

 

飲めない人って、人生、損してるわよねえ、とカナさんは言っていましたが、飲み過ぎて人生、損をする人も多々いますからね。飲める・飲めないは体質もあるので、人がとやかく言うことではありませんよね」

 

お酒が飲めることと人生を楽しむことは、また別の話。アツコさんは「うちは夫婦円満、楽しく暮らしています」と笑っています。

飲み会で下戸のために苦痛になる女性
下戸女性同士で話すイメージ
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。