Twitterのフォロワーは5万人超え、「りな助」の愛称で親しまれている料理家の河瀬璃菜さんは2年前に自宅を東京から鎌倉に移した。
都内にある自身のキッチンスタジオと鎌倉の2拠点生活によって気づいたのは、仕事のオンとオフのメリハリの大切さ。
そして、仕事を含めた日々の生活がより充実した背景には“自然”というキーワードも欠かせない。
今回は、鎌倉での移住生活と、海派だった彼女を山派になびかせたという、地方で出会った自然の魅力について聞いた。
2拠点生活で切り替えられるようになったオンとオフ
「海の近くに住みたいとずっと思っていたんです。鎌倉は高い建物がないので空が広いし、気持ちのよい風が吹いてるんですね」
ネットで住宅情報を眺めるのが趣味という河瀬さん。ほぼ理想どおりの家を見つけ、効率主義で行動力が早い彼女らしく次の日に内見し、即決した。
「窓から海が見えるところがとにかく気に入って。漁港があり、釣りが出来る場所が近くにあるのもうれしくて、すぐに決めちゃいました。
鎌倉に住むようになって、アウトドア系の趣味が増えましたね。ルアーフィッシングやSUPをやったり、週末のオフはあっという間です。
自分で釣った魚をさばいて料理したり、パドルを漕いで水上を進んだり、楽しい時間を過ごしています」
以前は仕事とプライベートの区切りがつかず、オフと決めてもついズルズルと仕事をしてしまっていたのも移住の背景にある。
鎌倉を住居、都内のキッチンスタジオを仕事場と分けたことで、オフの日はちゃんと休むようになれた。
「オンオフをはっきりさせることで、生活の質があがりました。よい仕事を行うためにも、休みはしっかりとらなきゃいけない。
充実したオフがあってこそ、よしやるぞ!って気持ちで仕事に向かえますから。疲れて帰ってきても、鎌倉の海を眺めていると元気になれます。
鎌倉は仕事から離れて休みを楽しんで、元気をチャージできる場所なんです」
メイクも綺麗な服も着ない…オフは「素」の自分でリラックス
「今日は取材なのでちゃんとした服を着ていますが(笑)、基本的にジャージです。特に仕事中はいかに動きやすいかが重要なので、ラフな格好が多いですね。
オフはとことん自分をリラックスさせますから、ラフな姿の私を見たら、いつもいっしょに仕事をしているメンバーはビックリすると思います(笑)。
素のままでいい、自然のままが心地よいっていうか、そんな気持ちです。
さえぎるものない大きな青空を見上げて、青い海を眺める。それだけでなんだか幸せな気分になれますから、自然って不思議です。
海を眺めていたい、自然のそばにいたいって気持ちになるのは、人間の本能なのかもしれませんね」
山の魅力に目覚めた白神山地での仕事
2020年、仕事で訪れた青森では、マタギの案内人と一緒に世界遺産の白神山地を歩き、彼女の世界を大きく変えた。
「それまで山に対してはまったく魅力を感じてなかったんですが、それはただ私が知らなかっただけだということに気づかされました。
マタギの方が案内してくれる白神山地は本当に素晴らしくて。高級楊枝になったり、クラフトジンに使われているクロモジの木を教えてもらったり、ブナの木から生えているナメコを見つけたり、自然の恵みの中、私たちは生かされてるんだなって実感しました。
トイレも電気もない山小屋に泊まるエコツアーがあり、雪の積もる寒い時期に白神山地に行くほど山の魅力にハマっていきました。
禁猟区ではない地域があるのですが、マタギの方は素手でつかんでイワナを穫る。岩のすき間にさっと手を入れて魚をつかみ、魚の頭を岩に打ち付けて仕留めるんです。
てっきり釣るものだと思っていたので最初はビックリしましたが、そのうち私も魚のエラに指をつっこんで、仕留められるようになりました。
ほかにも食材になる野草の見分け方や、雪の中でたき火を起こす方法とか、マタギの方は逞しく生きる力や知恵を持っていらっしゃる。本当にかっこよくて、弟子入りしたいと思うほどです(笑)」
地方で出会う自然も大切な場所
「地方に行くとそういった元気な方々に出会えますし、自然との関わりが強い人ほどパワフル。
私たちは自然の恵みを受けて生きているんだ、自然があるからこそ人間は生きていられるということを、地方に行く度に強く思い知らされます。
だから自然が与えてくれたものを無駄にせず、食材に感謝して、よさを最大限に活かせるレシピや活用法を考えなきゃいけないなって思います。
体の栄養源としての食を与えてくれるだけでなく、心を癒やしてくれる力も持つ自然。そんな自然のそばに生きるほどに、人は活力が湧いてくるんだと思います。
だから私にとって、海の近くの鎌倉の家はかけがえのない場所になっていますし、仕事で訪れる地方の自然も大切な場所になっています」
自然が身近にあり、オンオフのメリハリをつけられる鎌倉への移住はこの上ない居場所のように感じるが「だけど」と河瀬さんはいたずらっぽく言葉をつなぐ。
「だけど、山が持つ自然の魅力に目覚めてしまったので、もしかしたら、今後は山の近くに住むかもしれません(笑)
食の仕事をしていると、自然の奥深さに気づかされることが多いんです。いろいろなことを人や自然から教えてもらって、実り豊かな人生を送っていけたら、と思います」
PROFILE 河瀬璃菜(かわせりな/りな助)
1988年福岡県生まれ。料理家。フードプロデューサー。レシピ開発、商品開発、イベント・メディア出演、食品企業のコンサルティングなど食に関する様々なプロジェクトに携わる。最近では地方と連携したプロダクトに注力している。
取材・執筆/林ぶんこ 撮影/瀧川 寛