「自己チューはダメ」「みんなのためになるよう行動しなさい」「相手の気持ちを考えて」「空気を読めないと嫌われるよ」…

 

「和」を尊び協調性を大切にする日本では、子育ての中でも、わが子にそんな言葉をかける機会は多いのではないでしょうか。

 

周囲や相手の気持ちを尊重するのはもちろん大切なことですが、行き過ぎると自分の気持ちや欲求を押し込めてストレスがたまったり、自分の本心すら分からなくなってしまう可能性もあります。
この状態を「過剰適応」といい、ときには心身に症状が出たり、不登校や家で荒れるといった行動につながることもあるといいます。

 

今回は、なぜ子供が過剰適応を起こしてしまうのか、接し方を変えて未然に防ぐ方法はないのか…を考えてみました。

「過剰適応」とは

まずは「過剰適応」とは何か確認してみましょう。

 

心理学で「適応」とは、環境の変化に応じて自らを変化させていくことをいい、家族・友人・職場など外部の要求に合わせて行動や判断を変える「外的適応」と、自分の感情や欲求にそって行動した結果、精神の安定が得られる「内的適応」の2種類があります。

 

どんな集団でも100%自分の思い通りに行動してしまえば、誰かを傷つけたり迷惑をかけたりして円滑に過ごせなくなってしまうので、周囲の立場や希望を尊重することはもちろん必要です。

 

しかし、反対に何もかも相手や周囲に合わせすぎて外的適応と内的適応のバランスが崩れると、ストレスが積み重なって疲れてしまったり、つらくなったりします。

 

この状態を「過剰適応」といいます。病名ではありませんが、以前からメンタル面を原因とした体調不良の前にあらわれる「病前性格」として注意が喚起されてきました。 

 

大人の場合は、職場で一見うまくいっているように見える人が実は過剰適応で、自分の気持ちを押し殺してきた結果、ストレスを抱えてうつ状態になったり、突然退職したりして周囲を驚かせます。

 

子供の場合は、学校や習い事などで「問題がなく、聞き分けのいい良い子」と思われている子が、実は言いたいことを言えず我慢していて、家では疲れ切っていたり、反動で親に無理難題を言って大暴れする…というケースがあります。

 

また、嫌なことをされてもいつも笑ってやり過ごしているためにいじめに発展したという事例もあります。

 

さらに深刻なのは、学校だけではなく家でも過剰適応になってしまっているケースです。

 

親の言いつけは守るので叱る必要もほとんどなく、家族が険悪な時はおどけて場を和ませ、慰めてくれたりお手伝いをしてくれたり、育てやすい良い子だと思われていても、内心は「甘えられない」「やりたいことが言えない」「親の望み通りにしないと嫌われる」などのストレスを抱えていることがあるといいます。

 

そして、これ以上過剰適応を維持できなくなると、子供であれば不登校や家庭内暴力、大人なら突然の退職、アルコール依存などの行動や、心身の不調を起こしてしまうことがあります。

ウチの子、過剰適応になっていない?チェックリストで確認

上記を読んで、もしかしてウチの子も…と不安になった人もいるかもしれません。

 

とはいえ、懇談などで先生から「いつもニコニコしていてお友だちからも人気なんですよ~」と言われた場合、ちゃんと自分を出せたうえで仲良く過ごせているのか、過剰適応でなんでも言うことを聞いて都合がいいから人気なのか、判断がつかないこともあると思います。

 

そこで、次に過剰適応の子に多いと思われる態度や行動を挙げてみましたので、当てはまるものがあるかどうかチェックしてみて下さい。

 

  • 他の人に質問されたら、まず親の方を見て意向を確認する
  • 友達と遊んでいるとき、まったく「いや」「やめて」を言わない
  • 学校では「なにも問題ないですよ」と言われるが、家では異常に荒れる
  • 遊びや外出など、何がしたい?と聞いても答えられない、または親が喜びそうなことを選ぶ
  • 小さい時からしっかりしていて「ママみたい」「先生みたい」とよく言われる

 

このリストは精神科医や臨床心理士が作成したものではなく、認定子育てカウンセラーの筆者が多くのお子さんの様子を見聞きしたなかで特徴をまとめたものなので、上記に当てはまるからといって必ず過剰適応だとはいえません。

 

しかし、複数当てはまる場合は、もしかして無理をしているのかも…と、お子さんの本心と向き合うきっかけになるのではないかと思います。

「過剰適応かも」と思ったら…親にできる対応は

さて、それでは「もしかして過剰適応なのかも」あるいは「過剰適応にさせたくない」と思ったら、日々の生活で親としてなにかできることはあるでしょうか。

 

次にそのポイントを3つ紹介します。

正しく自分の気持ちを出せるように教える

赤ちゃんは自分の欲求や感情が100%で生きていますが、幼児になると少しずつ、自分の感情や欲求を出してもいい場面と自分を抑えるべき場面、今はどちらなのかを考えるようになります。

 

子供自身ががまんすれば、他の子とケンカにもならず、大人にとっても手がかからなくて都合が良いものですが、今は本音を出すべきという場面では自分の気持ちを言えるよう、繰り返し伝えていくのがおすすめです。

「良い子」を強制しない

過剰適応の根底には、愛着障害や承認欲求、つまり親や周囲の要求を叶えないと自分は受け入れられない、愛されないという認識があるといわれます。

 

「そんな悪い子、ママ嫌い!」という叱り方は「良い子なら好き」という条件付きの愛情であり「言うとおりにしないと愛さない」という脅迫的なメッセージだといえます。

 

「その行動は悪いことだよ」と行動だけにフォーカスし、「あなたのことは言動や状態にかかわらずいつも大好き」というスタンスで叱るのがおすすめです。

安心して相談できる環境を作る

小学校などで、困った時に勇気を出して先生に要求を伝えたのに「ちょっと自分でがんばってみようか」等と言われ、それっきりなにも言えなくなってしまう子もいます。

 

また家でも、親の希望と自分の希望が異なるときに毎回親の思い通りに進めていると、子供はそのうち、希望を出す前にあきらめてしまうようになります。

 

もちろん要求を叶えてあげられないこともありますが、それでも否定せずに一緒に解決方法を考えてみることで、子供は「自分の思いを出してもいいんだ」と安心します。 学校の先生にも、お子さんが外で過剰適応気味だと思ったら、そのことを事前に話しておき、安心して助けを求めたり相談したりできる環境作りをお願いできると良いですね。

おわりに

過剰適応は病気ではありませんが、とてもつらい状態であることは確か。

 

近年はそれでも我慢して適応しようとし続けた結果「適応障害」で休養を取る著名人も増えています。

 

日頃まじめで素直な子がワガママを言ったり我を通そうとすると「あなたらしくない」と、とがめてしまいそうになりますが、そんなときはむしろ、喜ぶべきなのかもしれませんね。

文/高谷みえこ ※画像はイメージです
参考/明治大学「青年期の過剰適応傾向の低減に関する研究-プログラム開発に向けた基礎的研究」 https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/16689/1/mashiko_2013_bun.pdf
日本の人事部「過剰適応とは――アサーションで自他尊重の考え方が大切に」 https://jinjibu.jp/kenko/keyword/detl/1080/