トミヤマユキコ4
「ここは自分に似てほしくなかったのに」

 

わが子の容姿について、ひそかにそんな思いを抱いたことはありませんか?

 

容姿にまつわる悩みについてインターネット上で行ったアンケートでは、こんな悩みの声が寄せられました。
「自分が細目で悩んでいたので、自分の目にそっくりな長女が将来悩まないか心配になる」(38歳/メーカー勤務/長女4歳、次女1歳)
「ニキビづら、くせ毛が娘に遺伝しているのが悩み」(35歳/会社員/長女13歳)
「娘は絶対に太らせたくない。美脚は1つの財産と健康の象徴だと思っているので、我が子が寝ている時にリフレクソロジーをしている(笑)」(35歳/会社員/長女4歳)
自分が思春期に思い悩んでいたからこそ、わが子も同じ悩みに直面するのではないかと心配になってしまう。このケースが多いのは、圧倒的に母と娘の関係性においてのようです。

 

『少女マンガのブサイク考』の著者であり、東北芸術工科大学講師も務めるトミヤマユキコさんへの連載インタビュー、全4回の第2回では「自分のコンプレックスを娘に重ねてしまう母親」はどうすべきかについてお聞きします。

親のコンプレックス基準を押しつけないで

── 顔のつくりや体型など、自分が10代のころに悩んでいた外見要素が娘に遺伝したことをひそかに嘆く母親は少なくありません。

 

トミヤマさん:

そういう悩みを持つ親御さんは多いですよね。特に、母親が娘に対して抱くケースが目立つ気がします。外見をジャッジされやすいのは、どうしても女性のほうですから。

 

ただ、この問題に関しては、大人である親側が意識を変えることがまず大事だと思います。

 

外見の悩みって大人になったからといってそう簡単に解決できるものでもないですよね。悩みに折り合いがつかないまま、結婚・出産に至ることも当然あるはず。

 

だからといって自分の価値基準をわが子にそのまま伝える必要はありません。むしろ、伝えないほうがいいと思います。
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幼い子どもにとって、親とは自分を包む世界そのものです。幼少期に親から投げられる言葉は、子どもにしてみればかなり強力だし、逃れがたい。「あなたはママに似てくせ毛でかわいそう」という言葉が、そのまま呪いになってしまうことだって十分にありえます。

 

そもそも、お母さんがそのコンプレックスで過去に損をしたり傷ついたりした経験があったとしても、娘さんも同じ道をたどるとは限らないですよね?

 

── 確かに。時代の流行や「かわいさ」の価値基準も、20年前と今ではずいぶん変化している部分もあります。

 

トミヤマさん:

そうそう。娘さんにしてみればクセ毛であることは全然悩むポイントじゃなくて、まったく違うところにコンプレックスを抱いているるかもしれない。

 

親子であっても、別々の人間ですから。自分と子どもを同一視しない、という前提に立って向き合うことが大切だと思います。

 

「私が悩んだから娘も悩むに決まっている」という結論ありきでわが子に呪いをかけてしまうことは避けたほうがいいと思います。子ども相手だからといって、不用意に何でも言っていいわけではないですよね。

子どもの言葉に親が救われることも

── そうなると、母親自身が自分の外見コンプレックスにどう向き合うかが大事になりますね。どうすればよいでしょう。

 

トミヤマさん:

ひとまずは、自分のコンプレックスを心の中でじっくり観察して欲しいですね。すぐに解消とはいかないでしょうが、少なくともそうすることで子どもに呪いの言葉をかけてしまうリスクは減らせます。

 

ただ、これとはまったく逆の提案になりますが、わが子にコンプレックスを打ち明けることが、親にとってプラスに働く可能性もゼロではないと思うんです。
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「ママは自分の顔のこういうところが嫌いなんだ~」という言葉に、「なんでそんなこと言うの?」「ママはかわいいよ!」と子どもが思いがけずポジティブな反応を返してくれることだってあるかもしれない。これは子どもの性格やタイミングもあるので難しいところですが、運がよければそういう展開もありえますよね。

 

そういう意味で、子どもがある程度まで成長したときに、親が一個人として悩みを打ち明ける、というのはありだと思います。

 

「ママとここが似たからあなたも将来悩むに決まってる、かわいそう!」と決めつけるのではなく、「ママは10代の頃にこういう部分がずっと悩みだったんだよね」という語り方で子どもに打ち明けてみるんです。

 

── 親が弱い部分を見せることで、子どもも本音を出しやすくなりますよね。

 

トミヤマさん:

親だって人間ですから、弱い部分がポロッとこぼれてしまうときだってあります。だけど、それでいいんだと思います。

 

もし母と娘が同じコンプレックスに悩んでいることがわかったら、解決策を一緒に探していけばいい。メイクでも整形でも「2人でやってみよう!」となったら、それはすごく素敵なことです。

 

ただ、長い時間をかけてできあがったコンプレックスって、そう簡単には消えませんよね。「自分なんてどうせ」という自己卑下のステージまでいってしまった場合、必要なのはポジティブすぎる正論よりも、癒やしの力だと思います。

 

「自分を卑下しちゃだめ、元気出して!」という正論ではなく、「つらいよね、いつでも話を聞くよ」という寄り添うスタンスのほうが救われるのではないでしょうか。
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みんなの脱コンプレックス体験談

外見の悩みにどう折り合いをつけるかは、さまざまなパターンがあります。

 

読者アンケートで行った「外見のコンプレックスをどうやって解消しましたか?」という質問には次のような回答が寄せられました。人それぞれの折り合い方、ぜひ参考にしてみてください。
「ずっと体型にコンプレックスがありましたが、成長するにつれ出会う人が増え、自分を肯定してくれる友人や異性が増えてから気にならなくなりました。ファッションやメイクを色々楽しみながらチャレンジしたのもよかったかも」(41歳/公務員/長女11歳)
「自分の努力だけで解決できるわけでもないので、昔はクヨクヨしているしかなかった。でも40代になった今、天然パーマの髪型はとても評判がよく、歯並びも愛嬌!と思えるようになり、自分をまるごと愛せるようになった。無理にお金をかけて矯正しなくてよかったと思っています」(42歳/自営業/結婚5年目)
「鼻が低い、唇が出ている、くせ毛が悩みだったが、それが私らしいと旦那に言われてから気にならなくなった」(39歳/専門商社勤務/長女3歳)
「背が高く太っていたので、他の友達より一回り大きい体型が嫌でした。でもマーチングバンドを始めたら一気に体重が減少。さらに自分より背の高い女の子が転校してきて、堂々と振る舞う彼女を見ていたらコンプレックスはいつのまにか消えていきました。最近、娘がユーチューバーの女の子と比べて自分はブスだと言い出すようになりましたが、『あなたはブスではないし可愛い。自分は可愛いと思っていると本当の美人さんになれるよ』と伝えています」(37歳/保育士/長女7歳、長男3歳)

 

大切なのは、親自身のコンプレックスや価値観を子どもにそのまま押しつけないこと。呪いの言葉ではなく、ポジティブな声がけをしていくことが、親と子、双方の心を救うことになるのかもしれません。

 

続く第3回は、「ミスコン廃止時代『美人だね』がアウトな理由」についてお聞きします。

 

PROFILE トミヤマユキコさん

1979年、秋田県生まれ。早稲田大学法学部、同大大学院文学研究科を経て、2019年から東北芸術工科大学芸術学部講師。ライターとして日本の文学、マンガ、フードカルチャーについて書く一方で、大学では少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。著書に『夫婦ってなんだ?』『少女マンガのブサイク考』など。

取材・文/阿部 花恵 撮影/河内 彩 アンケート実施/2021年8月 アンケート対象/30歳から59歳の働く女性46人 アンケート手段/インターネット