トイレの女性イメージ
男女ともに2人に1人が、がんにかかる時代(※1)。女性では大腸がんによる死亡数が1位ということをご存じでしょうか?

 

その注目すべき症状は、なんと言っても血便などお尻からの出血ですが、「異常事態の可能性が高いのに、多くの人が見て見ぬ振りをしている」と消化器系外科医の宮島伸宜さんは指摘します。確かに身に覚えがあるかも…!

 

そもそもお尻から出血したときに考えられる病気にはどんなものがあるのか、詳しく教えていただきました。

痔から大腸がんまで…血便から考えられる病気は多岐にわたる

── お尻からの出血で考えられる病気にはどんなものがありますか?

 

宮島さん:

たくさんあります。よく知られているのは、痔によるもので、痔核(いぼ痔)、また裂肛(切れ痔)が出血します。大腸の病気では大腸ポリープ、炎症性腸疾患といわれている潰瘍性大腸炎、虚血性腸炎、また腸管出血性大腸菌O157のような感染症、さらに、大腸がんも出血します。

 

── 血便などがあると、多くの人が痔を疑うそうですね。そう思ってしまうような特徴はあるのでしょうか。

 

宮島さん:

まず自覚症状に特徴があります。痔核(いぼ痔)は、最初、痛みはないのですが、しばらくすると出血するようになります。切れ痔は、肛門のケガなので、痛く、出血もしますが、大量ではなく、トイレットペーパーに少量つく程度です。

 

ただ、慢性化してくると慢性裂肛という状態になり、切れたり治ったりを永遠と繰り返して、肛門が固くなってきて、どんどん肛門が狭くなります。便をするのが苦痛になるくらい狭くなっていき、便がほとんど出なくなるという状態になります。これが切れ痔の最終段階で、手術が必要になります。

 

また、痔ろう(あな痔)は感染症なので、出血はなく、最初は腫れや痛み、発熱を伴います。

 

── 性別によって痔の発症率は変わってくるのでしょうか。

 

宮島さん:

昔は女性がなりやすいと言われていたのですが、現在は、あまり男女差はありません。切れ痔は32くらいで女性の方が多く、あな痔は、51くらいで男性が多いといわれています。

 

切れ痔が女性に多いのは、慢性便秘が原因です。固い便を出したり、いきんだりして圧力がかかってくると肛門の皮膚がプチっと切れるんです。あな痔が男性に多い原因ははっきりとはわかっていません。乳児痔ろうといわれている、生まれたての乳児にもあな痔ができることがありますが、男の子ばかりなんです。でも、その原因は現在のところまだ解明されていません。

 

── 痔の症状を悪化させないために、自分でできる方法はありますか?

 

宮島さん:

いちばん大事なことは、便をすっきり出すことです。とにかく排便習慣を整えること。便秘も下痢もよくありません。下痢をすると皮膚が破れやすくなります。一方、便秘の場合は圧が肛門のうえにかかるため、皮膚が切れたり、血流が悪くなったりして、いぼ痔になりやすくなります。

 

また、血流の良い状態に保つことも大事です。入浴の際は、できるだけゆっくりと湯船につかるようにしてほしいですね。

 

ウォシュレットの使いすぎも注意が必要です。皮膚に炎症を起こす原因になりやすく、皮膚の感染症につながる場合もあります長くて10秒程度を目安に短時間ですませるようにしてください。また排便を促すためには、ブロッコリーなど繊維の多い食べ物がおすすめです。いろいろな野菜から栄養を摂れるといいと思います。

「いぼ痔と思っていたら大腸がんだった」というパターンも

がん死亡者数グラフ
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)

── がんのなかでも、女性の死亡数の1位が大腸がんだという統計(※2)があります。何か原因があるのでしょうか。

 

宮島さん:

大腸がん自体が増えているんです。原因は、日本人の食事の欧米化にともなって腸内細菌の状態が悪化し、大腸がんの発生頻度が高くなっているという研究が多くされています。

 

女性のがんでは、乳がんと大腸がんが12位を争うのですが、男女ともに大腸がんは増加傾向にあります。

 

大腸がんの場合、検査は便潜血検査(検便)で陽性が出ると、精密検査として内視鏡検査を受けることになるのですが、下剤を2リットルも飲まなければならないなど検査のときに苦痛を感じると言って、なかなか受けてもらえないという実情があります。特に女性の場合は、医師が内視鏡検査を勧めても「お尻を見せたくない」と断る人が多いんです。

 

── 大腸がんが増えている一方で、内視鏡検査を受けないという人が多いんですね。出血をしても、痔だと思い込んで検査を受けない人も多いと聞きます。

 

宮島さん:

そうなんですよ。松島病院では、お尻から出血したという患者さんに、たとえ原因がいぼ痔だったとしても、必ず内視鏡検査をお勧めしています。いぼ痔だと思って放置していた結果、実はがんだったという方がとても多いんです。

 

ですから、どうしても受けたくないという方には、大腸がんが発症しやすい直腸とS状結腸だけでも診せてもらうようにしています。直腸・S状結腸内視鏡検査といって、診断をしたその日のうちに検査できるんですよ。大腸がんの50%は発見できます。

大腸がんはステージ2でも90%は完治する

宮島さん:

さらに、大腸がんは胃がんや肺がんと比べて、手術をすれば治る確率がはるかに高いのですが、検査をしない人が多いがゆえに、手術をしなければならなくなるケースが圧倒的に多いです。昔は、手術といえば胃がんがまずあって、大腸がんははるかその後だったのですが、現在は、大きな総合病院では、大腸がんの手術のほうが多くなっています。

 

── 大腸がんは早期に発見できれば、治る可能性も高いのでしょうか。

 

宮島さん:

大腸がんは、ほとんど治ると言っていいほど治る可能性が高い病気です。例えば粘膜だけのがん、いわゆる早期がんで留まる大腸がんであれば100%完治します。少し進行して粘膜の下にがんの腫瘍ができた場合でも、97%くらいは治ります。

 

ステージ2までの大腸がんであれば、90%以上は治癒するのです。抗がん剤も必要ありません。だから、なんとしてもステージ2までの間に早期発見が必要です。

 

── 早期発見・早期治療をするために、普段からできることはありますか?

 

宮島さん:

早期がんを発見するためには、出血に気づいたときに速やかに内視鏡検査を受けることが大事です。ただ、お尻から出血は、痔と区別がつきにくいこともまた事実なんですよね。

 

出血した際には、排便の習慣がいつもと変わった、また普通に便が出ていたのが便秘になってしまった、逆に下痢になった、または便がまったく出なくなったなどの変化を観察して、メモをしておくのがおすすめです。いつもと違っておなかの調子が良くない状態が続くなど、自分の身体の変化を感じ取って記録することを習慣にするといいと思います。

 

女性は慢性便秘の方が多いため、「便秘だから」と放っておく場合も少なくありませんが、大きな病気を見落としてしまうことにもなりかねません。排便やおなかの調子について、いつも違う症状や感覚には注意してほしいです。

 

PROFILE 宮島伸宜さん

松島病院 宮島伸宜院長
医療法人恵仁会 松島病院 院長。慶應義塾大学医学部卒業。同大学病院をはじめ都内の総合病院などで消化器外科の経験を積み、2007年より聖マリアンナ医科大学東横病院消化器外科に勤務。2014年、同病院の病院長に就任。2021年6月より現職。

(※1)出典:国立研究開発法人国立がん研究センター。日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性65.0%(2人に1人)、女性50.2%(2人に1人)となっている。(2018年データに基づく)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

(※2)出典:国立研究開発法人国立がん研究センター「がん死亡数の順位」(2019年)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

取材・文/高梨真紀