横峰沙弥香さん・達夫さんご夫婦
ある日突然、夫ががん宣告を受けた── 。想定外の出来事に、大きく心を揺さぶられたイラストレーターの横峰沙弥香さん。その後、夫・達夫さんは順調に回復を遂げ、ふたたび穏やかな日常を取り戻すことができました。

 

この経験を通して、以前とは考え方やライフスタイルが大きく変わったといいます。仕事優先だった生活を見直し、家族で過ごす時間を最優先にして、「頑張りすぎる自分」ともサヨナラ。そんな暮らしを実現した沙弥香さんの今の思いとは…。

「ずっと一緒にはいられない」と知り何げない日常が宝物に

── おふたりにとって達夫さんの病気は人生の試練とも言える出来事だったと思います。乗り越えたことで、夫婦関係に変化はありましたか?

 

沙弥香さん: 

以前から会話は多いほうだったと思いますが、お互い家にいる時間が増えたこともあって、コミュニケーションがさらに活発になった気がしますね。仕事のこと以外でも雑談をして笑ったり、夜も毎日一緒に晩酌をします。とにかくずっとおしゃべりしている感じだよね?

 

達夫さん: 

そうだね。確かに仕事を一緒にするようになって、前よりコミュニケーションの量も質も増えていると思う。

 

僕自身として変わったなと思う点は、家族の将来設計を長期的な視点で考えるようになったことですね。

 

これまでどちらかといえば、目の前のことに追われて短期的なスパンで物事をとらえてきたけれど、もしも自分に何があっても家族が困らないようにしておこうという思いが強くなって。それこそ長期のローンを組んで借金をしない、とか。

 

沙弥香さん:

いつも家族のことを最優先に考えてくれて、本当にありがとうね(笑)。

── 達夫さんのご病気を通じて、沙弥香さんの価値観も大きく変わったそうですね。どういう思いがあったのでしょうか。

 

沙弥香さん: 

健康だった夫が、まさかがんになるなんて、それまで想像もしていませんでした。もちろん夫には言いませんでしたが、夫の入院中は“もしかしたらこのまま死んでしまうんじゃないか”と考えて、怖くて仕方なくて。

 

“ずっと一緒にいられるわけじゃない”という現実を突きつけられたことで、何気ない日常生活がどれだけ大切だったかを思い知りました。


達夫さん:

あらためて、つらい思いをさせて申し訳なかったなと。僕もできるだけ家族と長く一緒に過ごせるように、健康に気を付けながら人生を楽しみたいという意識に変わりました。

 

沙弥香さん:

今回のことで、“人生いつどこで何がどうなるか、誰にもわからない”と痛感しましたね。だからこそ、好きな人たちと好きなことをして、今をこの瞬間を全力で楽しもう、大切な家族と過ごす時間をもっと増やしたいと考えるようになったんです。

家族の時間を最優先することで仕事にも好影響が!

── そこで、仕事優先だった生活を見直し、家族で過ごす時間を最優先にした生活へと切り替えたのですね。

 

沙弥香さん:

はい。それまで、長男が小学校に上がったら、下の子を保育園に入れて、フルタイムでバリバリ働こうと考えていました。

 

でも明日、私が不慮の事故で死んでしまう可能性もゼロではないわけで。そしたら、もっと人生楽しめばよかったと、ものすごく後悔するだろうなと思ったんです。

 

それで、下の子を保育園ではなく、長男の小学校と同じ敷地内の幼稚園に入れて、家族で過ごす時間を増やすことにしました。同じ敷地内なので、送り迎えの負担も減ったのもよかったです。
横峰さん連載23回_P1
結果的に仕事の時間はかなり減ってしまったのですが、“やれるときにやらなきゃ!”という切実さもあり、必要なときに集中力を発揮できるようになって効率がグッとあがりました。

 

── 仕事のパフォーマンスにも好影響が!

 

沙弥香さん:

そうなんですよ。これまで私、自分のことを“仕事人間”だと思ってきたんです。でも実は、家族と過ごす時間を優先するほうがずっと心地よいし、パフォーマンスも上がるんだと気づきました。

 

実際のところ、子どもに振り回される毎日は大変なんですけど(笑)、すごく幸せを感じるし、夫が側にいることでメンタルも安定して、笑顔で過ごすことができる。自分にとって本当に大切なものが明確になり、人生の満足度が上がったと思います。

マイルールに縛られていた自分を解放できるように 

── 連載「へたのよこずき」の中で、「頑張りすぎなくていいと気づいた」というメッセージが印象に残っています。沙弥香さん自身に、もともと完璧主義的なところがあったのでしょうか?

 

沙弥香さん:

いえ、それが逆なんですよ。もともとポンコツなので(笑)“しっかりしなくちゃ”という強迫観念のようなものがあって。自分のルールを決めて守ることで、“ちゃんとお母さんとして頑張れている”という安心感を得ていたんです。でも、どうやらそれが自分を苦しめているらしいと、最近ようやく気づきました。

 

── 何かきっかけがあったのですか?

 

沙弥香さん:

実は以前、子どもたちに振り回されて、自分のルールやスケジュールが崩れてしまうことにイライラしていた時期がありました。長男がそれを察知して、「ママ、大丈夫?」と私が大好きなビールを持ってきてくれたり、私を労わるような場面が何度かあって…。“ああ、子どもにこんな思いをさせちゃダメだな”と思ったんです。
横峰沙弥香さん・達夫さんご夫妻

── 優しい…。きっと“なんだかママが大変そうだから、自分が励まそう”と思ったんでしょうね。

 

沙弥香さん: 

申し訳ないことをしたなぁと。自分が勝手に決めた“正しいお母さん”のルールが崩れたところで、誰にも不都合はないんですよね。それなのに何を私はこんなにイライラしているんだろうと、すごく反省しました。

 

それよりも”子育てってそういうもんだよね“と、おおらかに構えてニコニコしていた方がみんな幸せだし、私が理想とするお母さん像に近い。だから、”ゆるく過ごす“ことを選択することにしました。

 

完璧でいようなんて思わず、“今日は夫とゆっくり晩酌をしよう”とか“子どもたちと夜更かしをしてゲームを楽しもう”と、自分を緩める日も作りながらバランスを取ってやっていくのが、私には向いているみたいです。 

 

PROFILE 横峰 沙弥香さん

長崎県出身、1984年生まれのイラストレーター。2015年、長男誕生を機にわが子と過ごす日常を絵日記にしてSNSに投稿し、話題に。 現在は夫・達夫さんと長男、2017年生まれの長女と4人で賑やかに暮らす。著書に『まめ日記』(かんき出版)、『まめ日和』(光文社)、『ちんちんぼうずのだいぼうけん』(KADOKAWA)など。

取材・文/西尾英子 イラスト/横峰沙弥香