いまSNSで話題の漫画『初恋、ざらり』。軽度の知的障がいをもつ主人公・有紗が家族や職場の人と関わるなかで、ひたむきに生きる姿を描いています。

 

作者のざくざくろさんは約20万人のフォロワーに向けて漫画を投稿。共感や応援のコメントが多数寄せられています。

 

ざくざくろさん自身も子どもの頃から「自分には価値がない」と思ってきたそう。しかし、大好きだった漫画と夫・シュヌスさん(愛称)との出会いを力に、苦しい状況を抜け出します。

現実逃避だった「漫画」が支えになり、仕事になった

小学1年生のころにはすでに漫画を描き始めていたと話すざくざくろさん。

 

「よく描いていたのは、人気アニメの登場人物。姉が喜んでくれるのがうれしくて、何度も描いていました。大人になってからは、仕事で失敗ばかりするので、現実逃避の意味で漫画を描いていたような気がします。いつかは家でできる仕事がしたいという思いもありました」

 

実はシュヌスさんと結婚して、なんとなく漫画を描かなくなった時期があったそうです。

 

「でも、しばらくして心にぽっかり穴が空いたようになってしまって。『やっぱり私は漫画描かなきゃ!』と思って、再開しました」

必要とされないのがいちばん辛い…そんな思いを作品に

SNSへの漫画投稿がきっかけで、念願かなってスタートした漫画連載『初恋、ざらり』。Twitterへ投稿するたびに読者数が増えていく希有な作品です。特に印象的なのが、ざくざくろさんのSNS投稿に毎回添えられる、こんなキャッチコピー。

 

「必要とされると拒めない女の子が恋をする話」

 

求められると、相手が誰であれ身体をゆるしていた主人公の有紗。のちに恋人となる岡村との出会いで、初めて自分を受け入れられることの安心感を知り、岡村への恋心をふくらませていきます。
「初恋ざらり」漫画P1
『初恋、ざらり』(コルク)より
『初恋、ざらり』は創作漫画ですが、ざくざくろさんもかつては「必要とされると拒めない」部分があったと話します。

 

「承認欲求というのか…自分に価値があると見せたくて、結果的にそうなってしまうことはありました。男性に抱きしめられている瞬間は安心できるんですが、少しするとその場にいるのが辛くなるんですよね。有紗もずっとそんな気持ちを抱えながら生きてきたんです」

有紗の母親は毒親…でも、責めたくない

『初恋、ざらり』が読者の心を掴んで離さない理由は、繊細な感情を表情やしぐさなどで丁寧に描いている部分が大きいでしょう。
「初恋ざらり」漫画P2
『初恋、ざらり』(コルク)より
軽度の知的障がいをもつ有紗が受ける“見えない差別”など、「自分の身の回りでもこんなことがあるかも」「もしかしたら自分も誰かを傷つけているかも」とハッとさせられる場面がたくさんあります。

 

物語の前半でキーとなる人物が、有紗の母親。1人で発達障がいの子どもを育ててきたシングルマザーですが、年下の男性と自由な恋愛をするなど一見奔放な女性です。
「初恋ざらり」漫画P3
『初恋、ざらり』(コルク)より
時折、有紗を傷つけるような言葉を放つときもありますが、この母親に対して、ざくざくろさんは「決して責めたくない」と話します。

 

「実際、有紗の母親は毒親です。でも、いろいろなバックグラウンドがあってそうなったということを忘れたくないんです。

 

私は、母が他界したときさえ甘えたい気持ちを抱いたままで、いなくなった母にある種の憎しみすら感じていました。でも、ここ何年かで出産した同級生の話を聞いていて、お母さんの大変さがよくわかったんです。今なら、3人の子育てをほぼ1人で担っていた母の状況を理解できます。

 

だから、有紗のお母さんも責めたくない。1人で頑張ってきたんだから。母への償いも込めて、そう決めています」

穏やかな日々や小さな喜びが今一番の幸せ

SNSで自分の体験を漫画エッセイとして投稿していたときは、「話題になりたくて、あえて刺激的な表現をしていた」と話すざくざくろさんですが、今は自分らしさを大事にしながら作品と向き合っているよう。だからこそ、忙しいなかでもシュヌスさんとの穏やかな時間を欠かしません。

 

「最近、シュヌスと里山に登って、きのこや虫や秋の花を見たんです。秋の花は、萩や水引が咲いていたのが綺麗で、すごく楽しくて。小さな喜びがまわりにたくさんあるだけで嬉しいんです」
ざく ざくろさん漫画P8
冬には、バードウォッチングが趣味のシュヌスさんと一緒に琵琶湖の方へ水鳥を見に行くのも楽しみのひとつなのだそうです。

 

「将来、やりたいこともある」と、ざくざくろさんは話します。「シュヌスはもともと木工作家なんです。だから、いつかふたりで肩を並べて一緒に仕事がしたいですね。シュヌスが木工作家の仕事をして、私は漫画を描くんです」

自分を好きになれなくても「せめて許してあげて」

シュヌスさんとの話をしながら、はにかんだ笑顔を見せてくれたざくざくろさん。かつて自分を受け入れられず、自分自身を追い込んでいた時代を振り返り、同じように苦しむ人たちに向けて、こう話してくれました。

 

「私はたまたま絵を描くことやパートナーの存在があって、良い方向へ進めたのかもしれません。もしシュヌスとの出会いがなく、漫画もなかったら、まだしんどい状況のままだっただろうと思います。

 

でも、自分を好きにならなくてもいいから、せめて『これでいいや』と自分を許してほしい。いつか状況を変えられるときは来るから。そう信じたいです」

 

「今の自分は好きですか?」の質問には、「まあまあ、いいかなと思っています」と笑って答えてくれました。

 

「素の自分に近づけば近づくほど、気持ちがラクになりました。自分を繕おうとしない。他人にどう思われても関係ないんです。素の自分を好きになってくれる人と一緒にいることができたら、それでいいんだと思います」

 

PROFILE ざくざくろさん

滋賀県在住の37歳。2017年からSNSにエッセイ漫画の投稿を始めたことがきっかけで、プロの漫画家へ。著書に『初恋、ざらり』(コルク)、『痩せてる女以外生きてる価値ないと思ってた』(ぶんか社)などがある。Twitter:https://twitter.com/timtimtooo Instagram:https://www.instagram.com/zakuzakuro04/ 

取材・文/高梨真紀