独身時代に経験した男女関係での失敗が、結婚後も尾を引くことがあります。夫婦関係がうまくいっているときはいいのですが、少し不安な状態になると、とたんに恐怖感に襲われてしまう。うまく脱する方法はあるでしょうか。
貢いだ彼には逃げられ、残った借金は500万円
「私、独身時代に好きな男性に貢ぎすぎて、ついには自己破産してしまったんです」
そう話すのはサヤカさん(37歳・仮名=以下同)です。28歳の頃から5年つきあった“売れない”バンドマンの彼は彼女の部屋に居候していました。生活費も携帯代もすべて彼女が支払っていたそうです。
「私の仕事はものすごく多忙で、でもそれなりに給料もよかったんです。彼と出会う前は貯金が趣味だったので蓄えもありました。彼が“”ギターがほしい”といえばすぐにお金を渡していました」
お金は無限ではありません。5年間で彼女は貯金を使い果たし、キャッシングも限度額を超えてしまいます。会社から借金もしました。
「私はとにかく彼が大好きだったし、彼の夢を実現させるのが私の夢だったんです」
ただ、彼は“売れない”だけではなく、努力もしないバンドマンでした。彼女から受け取ったお金が他の女性に流れていたこともわかり、サヤカさんは絶望しました。
「あげく彼は、不意にいなくなったんです。彼の仲間に聞いても居場所がわからない。『最近よく会っていた若い彼女と逃避行でもしたんじゃないの?』と言う人さえいました」
彼女の借金は500万円以上。すでに給料で返せる額ではありません。泣く泣く自己破産を申請しました。
ビルの中で偶然ぶつかった相手との幸福
精神的にも「地獄だった」と振り返ります。そして落ち込んでいたその時期に知り合った男性がいました。勤務先が入っているビルの1階で、偶然、ぶつかったのです。
「私が急いでいて前を見ていなかったんです。彼が急に角から出てきたのをよけられなかった。派手にぶつかってしばらく起き上がれず、救急車で運ばれました」
その時、彼はずっと付き添っていてくれたといいます。それが縁でつきあうようになり、1年後にプロポーズされます。でも、サヤカさんは受け入れられないと断りました。
「それでも彼は粘り強くプロポーズしてくれました。だから自己破産したことを打ち明けたんです。さすがに理由は言えず、実家の両親や祖父母がみんな病気になって、と言い訳しました。すると彼は『僕は気にしない』と。『あと1年つきあって、あなたが僕を嫌いにならなかったら結婚しよう』って」。
あまりに優しく包容力のある彼。それまで自ら幸せを拒絶していたところがあったサヤカさんですが、“幸せになっていいのかも”と思い、35歳のときに結婚しました。基本的にうまくいっているふたり。ただ、ときには小さな口げんかになることもあるそう。
いつか夫に話せたら…今の生活を大事にしたい
「彼がちょっとでも不機嫌な顔をすると、私は“彼が離れるかもしれない”とものすごく不安に。帰宅したとき彼がいなかったらどうしよう、と。それはバンドマンの彼のときに味わった恐怖につながるんです。その後の自己破産の悲しさ、情けなさも蘇って固まってしまう。それを見て彼が、『そんなに怒らないでよ』と言うんですが、怒っているわけじゃないと説明できなくて…」
このままだと彼との関係が悪くなると怯える日々が続き、彼が寄り添ってくれるのを確認してようやく落ち着く。そんなことがときどきあるそうです。
「私が気持ちを切り替えるしかない。それはわかっているんですが、自分を変えるのは難しいですよね。しかも私の場合、誰にも言えないことだから、どうしてもひとりでグルグルと考え込んでしまうんです」
すべて話せば解決するわけでもなさそう。ただ、過去にとらわれて今を台無しにするのは、なんとしても避けたいところ。
「以前はいらないと思っていたけど、今は夫との子どもがほしい。家庭を安定させて、いつか夫にすべて話せればいいんですけどね…」
希望が人を強くします。過去より今とこれからを大事にしたい、と彼女は最後にようやく笑みを見せました。