新潟から水上ジェット機で1時間強。かつては金・銀山で栄えた人口5万人余りの日本海の離島・佐渡島で破格の子育て支援が発表されました。
第3子以降の子どもに、総額200万円の成長祝金を支給するというもの。
国内でもかなり手厚い施策について、佐渡市役所の子ども若者課の須田大輔さん、移住交流推進課の西牧孝行さん、観光振興課の川上高広さんに聞きました。
移住や定住の促進も目的
── 今回の施策の目的を教えてください。
須田さん:
多子世帯の子育てに対する経済的負担を軽減することによって、市内の少子化の減速や移住、定住の促進も目的にしています。反響はあり、市の内外からお問い合わせをいただいているところです。
── 早速、給付第1号世帯の目録授与の模様が報道されていましたね。施策の内容を改めて教えていただけますか?
須田さん:
「多子世帯出産成長祝金事業」として、第3子以降のお子さんに出生時に20万円、満6歳時に40万円、満12歳時に50万円、満15歳時に80万円を。
これとは別に、「子どもが元気な佐渡が島(たからじま)事業」という佐渡市の出生祝金の10万円と合わせ、15年間で総額200万円を支給するものです。
── かなり手厚い支援策ですが、受給するためにはどんな条件がありますか?
須田さん:
令和3年4月2日以降に出生し、出生の日以後、初めて住民基本台帳に記録する市区町村が佐渡市であるお子さんになります。
そのお子さんは、多子世帯の第3子目以降として出生したお子さんであること。
この第3子とは、お子さんの出生時に、満18歳以下のきょうだいが2人以上いる場合をいいます。
市外からの転入者でも対象に
市外から転入してきた方についても、令和3年4月2日以降に佐渡市で生まれたお子さんが第3子目以降となる場合、対象となります。
所得制限もありますので詳しくは、子ども若者課に問い合わせいただければと思います。
── すでに子どもがいる移住者にも支給されるんですね。
西牧さん:
佐渡市は高校を卒業した18歳以上の若者が、島を出ていくというような人口減少も課題としてありました。
今回の事業は、そういう人たちに島に帰ってきてもらう、島外の人が移住して定住してもらうことも目的としています。
── 人口減の自治体として税収も厳しいと思いますが、今後、給付が中止になることはありませんか?
須田さん:
予算は一般財源とふるさと納税からなり毎年、積み立ても行います。事前に、中・長期的なシミュレーションも行っているので、持続可能だという認識です。
子どもがいない家庭の理解は?
── 施策の対象とならない方の理解は得られそうですか?
須田さん:
妊娠や出産は個人の考えや事情がありますが、今回の事業実施により、佐渡市全体で子どもの出生を祝い、子育てを支援する意識を醸成していきたいと考えています。
佐渡市ではすでに、不妊治療の助成も行っています。市外の病院で行うことが多いですが、治療費だけではなく通院費や宿泊費の補助もしています。
また、すでに多子世帯で今回の給付の対象にならない世帯には、第3子以降のお子さんに1回のみですが、ひとりあたり10万円の特例給付金を支給することになっています。
独自の施策として副食費を…
── 今回の施策以外にも独自の子育て支援はありますか?
須田さん:
市内には、25園の保育園、3園の幼稚園、1園の認定こども園があります。その3~5歳児クラスの利用料無償は、他の自治体と同様です。
佐渡市独自の施策としては、国の制度では無償化の対象外となっている、おやつやおかず等の副食費の全園児無償化を。
小学校3年生までの子どもがいる世帯に対して0~2歳児の利用料無償化も行っています。
── 今回の施策で佐渡への移住者は増えそうですか?
西牧さん:
すでに年間500人ほどのUIターン者がいます。今後も生みやすい、暮らしやすい島として発信できればと思います。
UIターン者を対象として、奨学金返還支援を今年度から始めました。返還した奨学金に対して佐渡市が支援する仕組みです。
移住体験をするお試し住宅の拡充も進めています。今までは公営住宅などを1~6か月単位で貸し出していましたが、今年から民間の個人宅を利活用できるよう進めています。
移住者向けの家賃支援等の補助制度も、40歳未満の世帯やひとり親世帯が対象でしたが、多子世帯への支援も検討していかなければいけないと感じています。
佐渡島に雇用は?
── 佐渡市に移住や定住するとして、島内に仕事や職はありますか?
西牧さん:
佐渡で仕事をして暮らしてもらうことを前提としているので、第1次産業の担い手となるための研修制度もあります。
企業誘致にも取り組んでいて、佐渡市のような特定有人国境離島地域は、創業や事業拡大に対して国等の支援制度の仕組みもあります。
場所を選ばず仕事ができるITベンチャーのような企業等も既にこの仕組みを活用し、進出しています。
── 現在はコロナで難しいですが一度、観光で佐渡島を“体験”したほうがいいかもしれませんね。
川上さん:
「さどまる倶楽部」という来島者向けのお得な会員サービスを始めています。
フェリーやレンタカー、市内の店舗で割引サービスなどを受けることができるので、観光で来島する人たちにぴったりだと思います。
「さどまる倶楽部」に入会すると、佐渡島のみで使える地域電子通貨「だっちゃコイン」も利用することができます。
3万人登録の電子通貨も
── どのような電子通貨なのですか?
川上さん:
佐渡のみで使える電子通貨で、島内の飲食店や土産物店などの支払いに利用することができます。
すでに登録者数は3万人いて、自治体のなかでもトップクラスです。
これも来島者向けの通貨ですが、佐渡市民の利用も可能にして、子育て世帯も利用できる電子通貨にしていくつもりです。
…
移住しての出産や田舎暮らしにはデメリットもあると言われるけれど、ここまで至れり尽くせりの佐渡市は魅力的かもしれません。
一方、そこまでしないと人口が減り続ける危機があり、日本の大半の自治体が同じような状況にあることも認識しなくてはいけませんね。
子ども若者課子育て支援係長。2002年に旧新穂村役場で採用。2019年から子ども若者課に所属。子ども・子育て支援事業計画や放課後児童クラブなどの子育て支援業務を担当する。