鷹匠(たかじょう)としてタカも操る町田さん

 

小田原のサルと対峙(たいじ)したり、館山の巨大ザメ「メガマウス」を探したり…。野生動物の出没やペットの逃走のたびに、千葉県旭市の拠点から駆り出される独特な雰囲気のパンク町田さん(52)。

写真ではいつも上半身裸だが、昆虫から猛獣まであらやる生き物を知り尽くし、あのムツゴロウさんこと畑正憲さんから、“第2のムツゴロウ”の称号を得たほどの動物のエキスパートだ。

 

人間と動物の関係についても研究する町田さんに、昨今の生きることが難しそうな動物・ペット事情について聞いてみた。

 動物の生態や特徴への注意がおろそか

「みなさんが動物に注目してくれるのいいことですが、真面目に飼育している人にとっては、肩身が狭いかもしれません」

 

最近、話題になったアミメニシキヘビやミナミジサイチョウ(アフリカの黒い鳥)の大捕物について、そう語る町田さん。こんな事情があるのでは、とみている。

 

「飼育や保管に許可が必要な特定動物(危険な動物)などの飼い主は、役所に書類を提出する、定められたケージを用意するなど手続きや法律ばかりに目が行きがちです。

 

すると、動物自体の特徴や生態への注意がおろそかになるうえ、実はケージを破壊してしまうとか、すり抜けてしまうというような事態が想定できていないと思いますね」

 

ルールを守りながら、そのような生き物を飼育することは、高価で取り扱いが難しい高級外国車を乗ることと同じで、悪いことではないと町田さん。

 

「だから私の書いた本を読んでもらうか()、専門的なアドバイスを受けてもらいたいですが、そういう環境が整っていないことが、人間や動物にとって不幸と言えるかもしれません」

アカカンガルーの手術に立ち会う町田さん

開発と新型コロナが原因で… 

最近は、クマやサルなど野生動物が人里に現れて騒動になり、ときには殺処分されることもある。

 

「この100年の期間でみれば、開発が原因だと言えると思います。地形が変化して道路ができれば、動物たちの今までの住み家やエサ場が失われます。

 

となると、別の場所を探さなくてはいけません。人間に便利な道路は多くの動物にとっても同じなので、その道をたどって街に現れるのです。

 

この12年に限って言うなら、新型コロナウイルスの影響だと思います。

 

野生動物はヒョウやライオンですら、人間を恐がる性質があります。そんな人間たちがステイホームで外出しなくなったので、動物の行動範囲が広がったのでしょう」

 

このような状況が、動物たちにとり「生きづらい」とは限らないという。

ニューギニアの原住民と。パンク町田のペンネームは当時のモヒカン頭から名付けられた

 

「野山を駆け巡って木の実や小動物を探すより、街にある農作物やゴミを漁るほうが、効率がいいと言えるからです。

 

新宿周辺にタカがいたことも話題になりましたが、都会のほうが獲物のハトやカラスの確保がしやすいのでしょう。

 

だから自然が失われたから、動物がかわいそうだとか、不便だとは一概には言えないはずです。

 

動物園やケージに入れられている動物にも、同じことが言えると思います」          

飼育することを申し出たが… 

そんな動物たちも、人間に危害を与えることになれば、捕獲され処分されることに町田さんは心を痛めている。

 

「以前、クマが捕獲されたときも、私が飼育することを申し出たのですが結局、殺処分されてしまいました。

 

このように、校庭等に追い込むことができて麻酔銃で眠らせれば問題なかったと思いますが、安易とも言える殺処分が多いです。

 

動物園ではなくても、個人の動物愛好家や研究者が、そのような動物を引き取ったり、引き取り先を探したりするネットワークができれば、無益な殺処分は減ると思うのですが…」

ハヤブサやタカを飛ばすトライアルで3年連続で優勝したことも

 猟銃を使わない精神で…

町田さんが力を入れている鷹匠の技術も、猟銃を使わない精神に基づいている。

 

「中世から大正の鷹匠は、そもそも、公家や武士のタカ狩りに使うタカの調教、アドバイスをする専門家のことでした。

 

しかし私たちの流派は、害鳥対策として、殺して駆除をするのではなく、タカを使って追い払う方法論を取り入れています。

 

田畑だけではなく、フン害のある倉庫やビルからも依頼を受けることがあります」

料理も得意な町田さんは「らー麺ゴルジ」も経営(現在、休止中)

 動物病院から飲食店まで

町田さんのホームページを見ると、ほかにも多くの肩書きがあり、動物病院から飲食店まで幅広い事業と関わっている。

 

それらも動物の「生きづらさ」を軽減する流儀が組み込まれている。

 

カンガルーからサソリまで、生き物のレンタルをするプロダクションについては、

 

「動物と人間にとって最適な距離を意識するようにしています。狭い空間だから動物がいやがるとは限らず、動物に悪意がない行動でも人間がケガをすることがあります」

 

動物の輸出入については、「書類や検疫の手続きもあり、動物の移送はかなり難しいです。動物によっては空路より陸路のほうが、ストレスが少ないこともあるので、最適な輸送から検討します。その間の休憩の回数なども考慮しますよ」

 イヌ用の最高のケージとエサを

動物用ケージや展示スタンドの製作にも携わる町田さん。

 

「実は一般のイヌに最適なケージを考案中です。なるべく大きな空間にしたほうがいいと人間の感覚では考えがちですが、イヌは寝るときは端や狭いところを選びます。

 

必ずしも広い空間が落ち着くというわけではないと思います。本来の生態をよく考えて、どうイヌたちが快適に過ごせるかを研究しています」

イヌの訓練士でもある町田さん

日本福祉愛犬協会の理事も務めるほどイヌを愛する町田さん。

 

ほかの動物との違いは、自分の家族のようになれる存在だからだという。だから、エサの研究にも余念がない。

 

「イヌを放し飼いにすると、ムシをよく食べますが、ドッグフードにはムシは入っていません。

 

実はムシが好きで、必要な栄養分だとも考えられますし、好きだが身体にはよくない可能性もありますので、これらを考慮しなくてはいけません」

 

かつてムツゴロウさんに“イヌのことをもっと勉強しなさい”という言葉も励みにしているという。

 

「イヌや動物とは言葉で意思の疎通ができないので、人間から歩み寄らなければいけません。

 

イヌが最も好きな動物ですが、これからも特に、イヌが行うコミュニケ―ションについて研究していきたいですね」

 

町田さんが上半身裸でいることが多いのも、服が変わるだけで動物が驚いてしまうこともあるから。あくまで、動物優先で生きやすさを追及している。

 

PROFILE パンク町田さん

1968年生まれ。東京都出身。高校卒業後、トリミングの専門学校に。ペットショップ勤務後、インドネシアのスラウェシ島などで原住民と交流しながら、現地の動植物の生態を観察。2008年に「アルティメット・アニマル・シティ」を開設。動物関連事業を幅広く手がける。著書に『魅惑の特定動物 完全飼育バイブル』など。