10歳下のパートナーについて語ってくれた石川芳美さん

アマチュアベイカーたちがお菓子やパン作りなどベイキングの腕を競うクッキング・リアリティ番組『ベイクオフ・ジャパン』シーズン1がPrime Videoにて配信中。番組で審査員を務めるパン職人の石川芳美さんは、発酵を学ぶためにパン作りを始めたことが人生の転機になったそうです。

直感を信じたことがいい結果につながっている

「100%流れに身を任せて生きてきた」とニッコリ

── 日本で働いていたパン屋さんのオーナーのひとことが、フランスへ渡るきっかけになったそうですね。


石川さん:

離婚をして、パン教室もすべて辞めていったんリセットという状態で、地元のパン屋さんで働いていました。30代になって、積み上げてきたものが一度キレイになくなって、ここからどう生きるんだと考えるターニングポイントだったことは確かです。


精神的にも辛い時期を経験してまた再び働き始めたパン屋さんで、オーナーから「パンを焼いて生きていくなら、一度は本場のフランスで本物のパンを見るべきだ」と言われました。それまで全く外国へ行くことなんて頭になかった私でしたが、いつしかフランスに行って本場のパンが見てみたいと思うようになっていきました。


── 基本的には流れに身をまかせられるタイプなのでしょうか?


石川さん:

100%流れに身をまかせて生きてきました。わりと直感だけでここまで来た感じがしています(笑)。


── 直感を信じてやってきたことがいい結果になっているという実感はありますか?


石川さん:

あります。私は、もし、明日自分の人生が終わっても後悔したくないという思いで生きてきました。わがままにも生きてきたけれど、その瞬間、瞬間、自分がやりたいと思うこと、後悔しない選択をしてきたつもりです。


そのなかで、子どもを犠牲にしてしまったところはあったけれど、私なりに精一杯、そのときできることを全力で取り組んできました。いつも精一杯な人生ですね。

夫と出会って自分の中のチャンネルが増えた

── ビジネスパートナーであり人生のパートナーでもある人との出会いについて教えてください。「彼は私に一目惚れしたのだと思います」というコメントを拝見したのですが。


石川さん:

一目惚れは本当です(笑)。私は彼より10歳年上ですし、離婚して子どももいますから若くて才能のある男性の人生の妨げになるのは抵抗がありました。ですが、その不安も払拭してくれ、二人でお店を出し、休みなく働きました。


お互いに「絶対に成功する」という夢がありましたからそれに向かって必死でした。17年経った今、夢のような結果が出て非常に幸せだし、夫にはとても感謝しています。


影響を受けたこともあれば与えたこともあると思います。自分の中のチャンネルが増えたという感覚です。出会った頃の私は40歳。自分が40年で積み上げてきたチャンネルと、彼と出会ってから広がったチャンネルは、確実に倍の数になっています。彼の考え方を理解して、「ああ、そうか」とシフトしたこともあれば、その逆もある。今まで思いもつかなかったことが人生に加わるのはこういうことなのか、と実感しています。

「パンなしでは生きられない!」60代に向けてのチャレンジ

60代に向けた準備が進行中とのこと

── 今、思い描いている今後のライフプランはありますか?常に新しいことを考えている印象があるので、どんなワクワクする計画があるのだろうと期待してしまいます。


石川さん:

お店は、まだまだ広げていきたいです。今、56歳なのですが、50歳になったときに、生き方をスイッチしようと思い、365日働く生活から、週末には子どもと遊ぶ時間やアーティストとしてアートにかける時間をつくるように変えました。


シフトしたきっかけは、私がいなくても会社が回るように変化したから。だったら、まかせられるところはまかせて、自分の時間をつくるように変えてもいいかなって。


今後60歳に向かっていきますが、パンなしでは生きられないので、もちろんパンとともに生きていきます。数年前にノルマンディーに買った家で自給自足の生活を送りたいと思っています。自分で作った小麦を使ったパン作りをするための小さな工房と絵のアトリエも作る予定です。いずれは、月に1回、村の奥さんたちを集めてパンを焼く…というのが夢なんです。


── 映画になりそうなお話ですね。


石川さん:

中世のヨーロッパでは、村に共同窯があって、村のパンを焼いていました。今、その文化は私の家のある村では休止状態ですが、なんとか共同窯も使えるように復活させて、酵母を育てながらパン作りをするようなコミュニティを作りたいです。村のパン祭りみたいな感じで。もちろん、絵も描きながら。来年からアトリエと工房の工事が始まるので、60歳になる頃には準備は整う予定です。


パンはフランス人にとっては主食で、食文化の大黒柱になる部分。フランスから見ると外国人の私が、パンに骨を埋めたいというのは少し変かもしれませんね(笑)。ですが、私の周りのフランス人は私をとてもリスペクトしてくれています。情熱には国境はないと身をもって感じてきました。パンを作れる技術を持つ私が、みんなが集まってパンを作る場所で食文化の中心を担う、そんなシステムを村に作りたいと思っています。

 

PROFILE 石川芳美さん

1966年生まれ、東京都出身。1992年より製パンに従事。2002年に渡仏し多くのブーランジェリーで修行、2007年にフランス人の夫と「メゾン ランドゥメンヌ」を開業。現在フランスに30店舗、東京に4店舗を持つ。画家としても活動し、グループでのアートディレクターも兼任。

取材・文/タナカシノブ