共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

NECグループの社会価値創造をICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)で担う中核会社であるNECソリューションイノベータ株式会社は、技術職が社員約1万2000名の8割を占め、女性の比率は全体の18.8%と少なめです。

 

その中でも女性がより活躍できる場を広げ、女性管理職として企業の経営や成長に貢献していくための環境づくりを約20年かけて行ってきました。

 

かつては「結婚や妊娠・出産のタイミングでの退職が当たり前だった」そうですが、その意識が変化した経緯と具体的な取り組みについて話を伺いました。

女性管理職が200人を超えるまでに!

NEC青木様・本多様
人財企画部 ダイバーシティ推進室長の本多令奈さん(左)、ワークフォースマネジメントグループ シニアマネージャーの青木謙一さん(右)

 

── 御社の女性活躍推進について、これまでの取り組みと効果を教えてください。

 

本多さん(NECソリューションイノベータ):

女性活躍推進の取り組みを開始したのは2002年からです。きっかけは、NECグループ初となる女性の取締役が2001年に当社に就任したことでした。そのタイミングで、NECグループのソフトウェア関係各社に在籍していた23名の女性管理職による女性管理職の会「C-WingCareer for Women in NECソフトGroupの略)」を設立しました。

 

当時は、入社8年目で結婚や出産を機に退職する女性社員が5割強と、大きな課題となっていました。

 

女性管理職の会は、女性管理職同士の情報交換や協力・支援はもちろん、管理職としての自己啓発、後に続く女性社員の良きアドバイザーを担うべく、一人でも多くの女性が、その力を十分発揮し、のびのびと仕事ができるような環境を作っていくことを目標にスタートしました。

 

また、全社の取り組みとしては、研修や講演会などを通して、男女ともに長く活躍し続けることの重要性を理解してもらい、周囲と助け合える環境づくりができるよう働きかけてきました。各種取り組みの成果もあり、2019年度には女性管理職が200人を超えるまでに。現在は結婚や出産を理由に退職する女性はほぼいません。

イノベーションに女性の視点を活かしたい 

── 女性管理職が数名しかいなかった時代と比べると、女性管理職が200人以上とは大きな変化ですね。一方で、2020年度のサーベイ結果からの課題の1つとして「会社の女性活躍推進の本気度が社員に浸透していない」ことが挙がったそうですが、これはどういうことなのでしょうか。

 

本多さん(NECソリューションイノベータ):

NECソリューションイノベータは、1975年に設立後(旧NECソフト)、北海道から沖縄まで全国7社のソフトウェア会社が2014年に統合された会社です。旧NECソフトの東京本社では、2002年から女性活躍推進に取り組んできましたが、女性の比率や働き方、社内の文化などは地域差がありました。

 

統合後の社内調査でそのことが浮き彫りになり、女性活躍推進が全社に浸透しきっていないことがわかり、活動が暗礁に乗り上げてしまいました。今年4月には改めて代表取締役からメッセージを送るなど、意識改革のための取り組みに力を入れています。

 

── そもそも、なぜ女性が活躍したほうがいいとお考えなのでしょうか?

 

本多さん(NECソリューションイノベータ):

社会の変化が目まぐるしい中で、イノベーションを創出するためには多様な視点を活かした経営が必要だと考えています。でも、意思決定層に男性が多いのが現状なんですね。

 

多様な人材を育成し、会社の成長に貢献していただく、その一番手として、今重点を置いているのが、女性活躍推進なんです。ここ10年ほどは毎年、採用者全体の約35%以上を女性が占めていますが、さらに積極的に意思決定の場で女性が活躍できるようにサポートしたいと考えています。

 

目標は、2026年4月までに女性執行役員クラスを2名誕生させることと、管理職以上に占める女性比率を10%に引き上げることです。

NECソリューションイノベータ本社ビル

── 取り組みとして感じる難しさはありますか?

 

本多さん(NECソリューションイノベータ):

現在、女性社員の8割が技術職です。私たちの業界は、お客様から要件をお聞きして、課題を見つけ出し、IT技術とともに課題解決していくことが大切な仕事になります。コミュニケーション能力、コーディネーション能力が問われ、これは女性が本来得意とするところだと思うのです。

 

ところが、15年ほど前は深夜残業や休日出勤が多く、そんな上司を見て「私にはできない」とキャリアを諦める女性も多かったように思います。

 

そこで、長時間労働解消に向けた働き方改革について5年ほどかけて取り組み、現在はテレワークや時間休の制度導入等も合わせ、働く環境はかなり改善しています。女性の意識も少しずつ変わっているように感じます。

 

また、男性中心の組織文化が醸成されてきたことも課題として挙がっており、今解決に向けて取り組んでいるところです。

「女性だから」というアンコンシャスバイアスを解消するために 

── 「男性中心」というのはどういった状況でしょう?

 

本多さん(NECソリューションイノベータ):

次世代の経営者等を見据えた選抜研修があるのですが、今まではそれらの研修に無意識に男性が推薦されることが少なくありませんでした。推薦する上司に悪気はなく、無意識に男性を選んでいるのです。また少し若い層を対象とした若手選抜研修でも、女性社員に対しては、子育てとの両立などきっと大変なのだろうなと気づかってのことです。そういった意識を変えていくための研修などを行っています。

 

── それは今後欠かせない視点ですよね。どのような研修なのでしょうか。

 

本多さん(NECソリューションイノベータ):

役職に合わせた研修があるのですが、これからライフイベントを迎える若手の女性社員を対象にしたものでは、一昨年から、直属の上司と一緒に受けるアンコンシャスバイアス研修を行っています。

 

他部門の参加者と対話をしながら、自分自身のバイアスに気づいてもらい、将来やキャリアについて考えていくものです。その中で立てた目標に必要なステップを上司と部下が確認し合い、実現に向けて思いを共有することで、お互いを理解し、支え合える関係性も育つように感じます。

 

この研修はかなり好評で、初回から募集人数を上回る応募があったんです。上司に「一緒に参加しませんか?」と声をかける女性社員もいるんですよ。「もっと活躍したい」と前向きにキャリアを考える女性が増えているのだと感じます。今年度からは20代半ばの若手社員全員に向けた研修も考えています。

アンコンシャスバイアス研修
「若手女性とその上司が女性の早期キャリア形成のために知っておくべきこと」をテーマにした研修の風景。

 

青木さん(NECソリューションイノベータ):

「活躍したい」と願う女性も、「もっと活躍してほしい」と部下の女性社員に期待する男性上司もたくさんいますが、普段から話すのはなかなか難しいものです。また、上司と部下が11で話すよりも、研修を通して講師や他の受講者など第三者の声を聞きながら客観的に捉えることで、自分自身の考え方が変化していくのを実感できるのが、この研修の良さだと思っています。

育児や介護、自己投資の費用までを補填する「カフェテリアプラン制度」も

── 働きやすい環境づくりの一環として、今年4月からは福利厚生も刷新されたそうですね。

 

青木さん(NECソリューションイノベータ):

新しくカフェテリアプラン制度を導入しました。社員の家族環境やキャリアに対する考え方が多様化する中で、そのときどきのニーズに合わせて自分にとって必要な福利厚生を選べるものです。

 

子育て世代には保育園代や学童保育代の補填、家族の介護が必要な社員に対しては、条件はありますが、実家への交通費や介護をしやすくするための修繕費への補填などが選択できます。もちろん、自分自身の学びのための費用も補填されます。

 

まず、全社員に対して年間の基本ポイントを56000ポイント、金額にすると56000円分が付与されます。それに加えて、育児世代の社員は育児ポイントとして、一番下の子どもが小学生の世帯であれば5万ポイント分(5万円分)追加。介護が必要な家族がいる社員については3万ポイント分(3万円分)が追加されます。

 

子育てや介護だけでなく、自分自身の学びを得るためにも活用してほしいとの思いを反映した制度なんです。

 

── 育児や介護だけでなく、学習の時間も会社が後押ししてくれるのはとても心強いですね。

 

青木さん(NECソリューションイノベータ):

やはり技術の進歩が速いIT業界では自己投資は必須だと思っています。また、長く人事職を経験してきた中で、15年ほど前は「結婚したらこの働き方は続けられない」という女性がたしかにいました。

 

しかし、働きやすい環境づくりが進み、社員たちの意識も変化していると感じます。今では出産後に活躍している女性も多いですし、高度な専門性が高く評価されている女性もいます。意欲のある方々がさらに活躍できるよう、会社をあげて取り組みを続けたいです。

 

── 社員にとって働きやすい環境をつくるために大切にしていることを教えてください。

 

青木さん(NECソリューションイノベータ):

年齢や性別に関係なく、新しいチャレンジを推奨することです。失敗も前向きに捉えて、次につなげていくための環境を実現したいですね。

 

本多さん(NECソリューションイノベータ):

一人ひとりが生き生きと働ける環境であることを前提に、まずは「女性だから」「外国人だから」「障がいがあるから」など、思い込みのないフラットな環境をつくりたいです。自律的にキャリアを思い描き、実現に向けて前進できるような環境を実現できたらと思います。

 

 

「こうしなければならない」「私にはできない」。社員がこうした無意識の思い込みを手放し、自由な考え方を手にする取り組みに挑戦しているNECソリューションイノベータ。男性が多い職場で、また技術職であることを大きな強みに、出産後も積極的にキャリアを積み重ねていく女性が増えていくことを期待しています。

 

【会社概要】
社名:NECソリューションイノベータ株式会社
従業員数:1万2286名(2020年3月31日 現在)
創業年月:1975年9月9日
※2014年4月1日 NECソリューションイノベータ発足
業種: IT・情報通信
事業内容:システムインテグレーション事業、サービス事業、基盤ソフトウェア開発事業、機器販売

取材・文/高梨真紀