小児科医として、子育て中の親として、SNSを中心にママたちの気持ちが軽くなるような情報を発信している「パパ小児科医」こと、加納友環(かのう・ともわ)さん。日々の育児のなかで時に頑張りすぎてしまうママたちへの思いを語ってもらいました。
周囲に振り回されて選択肢を自分で狭めないで
── SNSのフォロワーのなかには、子育てで頑張りすぎて思いつめがちなタイプの人もいるかもしれません。発信する際に気をつけていることはありますか?
加納さん:
SNSで個別の相談に向き合うことは難しいのですが、気になるコメントを見かけたときは、その人に向けた投稿をすることもあります。個人は特定せず多くの人に向けた内容にはしますが、その人に「届くといいな」「気持ちが少しでも楽になりますように」と思いを込めています。
「頑張りすぎないで」という言葉がありますよね。気軽に使いがちですが、人によっては「頑張りすぎるのはいけないのかな」と悩みの原因になることもあります。頑張ることを否定されているように捉えてしまうんです。それに、追いつめられるタイプの人は「選択肢は一つしかない」と思い込んでしまうようなところも。
だから、「あなたは十分に頑張っていますよ。その方法でもいいけれど、ほかにも選択肢があって、こんな方法もあるから試してみてはどうですか?」と他の選択肢を提示することを意識するときもあります。そうすることで、悩んでいる人がホッとしたり、気持ちをゆるめられたらいいなという思いです。
親も子もハッピーで、すべての人が認め合える子育てが理想
── 一つしか選択肢がないと思っていたり、まわりの考えが偏っていたりすると、それしかないのかなと納得できなくても流されることって意外と多いです。こうした情報発信に救われるママも多いと思うのですが、加納さんにとって理想の子育てってどんなものでしょう?
加納さん:
そうですね。親も子どもも、ハッピーでいられる子育てが広がるといいですね。子どもがハッピーで過ごすためには、まず親が幸せを感じられることが大切だと思います。小児科医としては、親御さんたちの不安に寄り添いながら、自分の子育てに自信を持ってもらえるように関わっていきたいです。
世間の目は、子育て世代に対して「減点方式」になりがちだと思うんです。でも、お互いに認め合えるような温かい関係性が循環するといいなと思います。
── 減点方式というのは、たとえばどういうことでしょうか?
加納さん:
レストランで子どもが泣いたら、まわりの目が冷たく感じることはありませんか?スマートフォンを触っていたら、「育児もしないで遊んでいる」と見られることもあります。でもその人は、もしかしたら育児のことで何か調べているかもしれない。いち場面だけを見て、厳しい反応をする人が少なくないと感じています。子どもと、子育て中の親をもっと温かい目で見てもらえる社会になったらいいなと思いますね。
怒りたくて怒っている親はいないはず
── ベビーカーに子どもを乗せて電車やバスに乗車するときも、まわりに気を使って肩身の狭い思いをする人もまだまだ多いと思います。
加納さん:
そうなんですよね。たとえば、ベビーカーは必要があるから使っているわけで、肩身の狭い思いをしなければならないのは違うと思います。よく街中で、親が子どもを怒っている場面を見かけますが、怒りたくて怒っている人はまずいない。怒った後に後悔していることも多いんですよね。子を持つ親たちは十分頑張っています。小児科医として見ても、そう思いますよ。子どものことを真剣に考えるがゆえに、不安を感じたり、イライラしたりするんだと思うんです。
よく「ほめる育児」が良いと言われますが、それも親がまず健康でハッピーであることが大前提。親自身が誰かからほめられること、肯定されることが大事なんですよね。親が健康でハッピーであれば、自然とわが子をほめることにもつながります。
だから親御さんたちには、まずはしっかりと睡眠をとって、バランスよく食べてほしい。自分のことを後回しにしがちになるのはよくわかりますが、それだけは優先してほしいなと思います。
外に出たときに、もしかしたら思わぬところから厳しい意見があり、落ち込んだ…なんてこともあるかもしれません。でも、頑張っている姿を見てくれている人は絶対にいるし、「厳しい意見ばかりではない、認めてくれている人もいる」と思ってもらえたら嬉しいですね。
何より僕自身が、小児科医として、子育て中の親の一人として、親御さんや子どもたちの味方になりたい。SNSはそのためのものでもあるんです。
Profile 加納友環さん
取材・文/高梨真紀