赤ちゃんが生まれて育児休業を取ったあと、時短勤務での復帰を希望する人も多いと思います。

 

時短勤務になれば月々の収入は減り、それに従って厚生年金の納付額(天引き額)も少なくなります。

 

それはつまり、将来受け取れる年金額も減るということ。困りますよね。

 

そこで、子育てをがんばる人が将来年金額で損をしないようにと2005年(平成17年)から導入されたのが、通称「養育特例制度」です。

 

しかし、実は、この制度を知らないというママ・パパも多いそう。

 

今回は、この「養育特例制度」の内容や対象者・申請方法などについて解説します。

知らない人も多い「養育特例制度」とは?

通称「養育特例」は、正式名称を「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」といいます。

 

年金額を決めるときには「標準報酬月額」を基準とします。標準報酬月額がいくらか分からないという人も、給与明細を見れば記載があるはず。

 

時短勤務などでこの「標準報酬月額」が減り、それにともなって厚生年金の額も減った人に対して、納付額(天引き額)はそのままに、将来の年金額は出産前(養育開始月の前月)の額で計算される…という内容です。

 

この特例は3歳未満の子どもを育てている人が対象で、きょうだいがいれば末子が3歳の誕生日を迎えるまで継続します。

男性(父親)や時短勤務じゃないママは対象外?

「養育特例制度」は、時短勤務の人だけではなく、フルタイムの人、男女(父親・母親)とも対象になります。

 

たとえば、

  • フルタイムのママが、保育園のお迎えや育児のために残業せず定時で帰るようになった
  • 妻が専業主婦の男性が、育児に参加するため残業を減らし早く帰るようになった

 

などもちゃんと対象になります。

 

さらに、実はなんと「育児のために給与額が減った」という理由でなく、社の業績悪化により賃金が下がったとしても、この特例制度は適用されます。

 

また、出産を機に引っ越して通勤交通費が安くなった…というときも、標準報酬月額は交通費などの手当も合算されているため特例の対象となります。

ただし申請は自分でしないとダメ

この養育特例制度は、育休手当などとは異なり、勤務先の会社に手続の義務はありません。

 

もちろん慣れている会社では他の手続きと合わせて書類を渡してくれることもありますが、基本的には本人が申請しなければなりません。

 

申請時に提出する書類は以下の3点です。( )内は入手先。

 

  • 厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書(勤務先に依頼)
  • 住民票(居住地の役所)
  • 戸籍謄本(本籍地の役所)

 

遠隔地から戸籍謄本を取り寄せるには2週間~1か月ほどかかることが多いので、育休復帰後に時短勤務で給与額が下がることが分かっているなら、早めに取り寄せておくとスムーズです。

 

ただし「提出日の過去90日以内に発行」という条件もありますので、早すぎないように気をつけて下さいね。

手続き忘れてた!遡って申請できる?時効はあるのか

養育特例制度を知らなかった、知っていたけどバタバタして申請を忘れていた…という場合、過去に遡って申請できるのでしょうか?

 

申請した時点から2年前までは、あとからでも有効になるということです。

 

もしお子さんが3歳直前でハッと気付いて、そこから申請したとすると、1歳の時点から3歳までの2年分は適用されますし、4歳で気付いたとしても、2歳から3歳までの1年間分は有効ということですね。

 

なお、お子さんが3歳になる前に転職した場合は、新しい職場で再度申請が必要です。

 

担当部署から「養育特例制度は申請中ですか?」等と確認してもらえれば良いのですが、担当者が制度を知らない場合もあるので気をつけて下さいね。

自営業・国民年金の場合はどうなるの?

ところで、自営業やフリーランスの人は、この制度を利用できるのでしょうか?

 

結論からいうと、この養育特例措置は厚生年金加入者向けの制度なので、自分自身や夫が自営業・フリーランスなどで国民年金に加入している人は残念ながら対象になりません。

 

産後は育児のために仕事時間が減り、収入がダウンするのは自営業でも会社勤めでも同じだと思うのですが…。

 

ただし、2019年以降、国民年金加入者には、出産予定日の前月・当月・その後2か月の計4か月間は年金額を納めなくても納めたとしてカウントされる「国民年金の産前産後期間の保険料免除制度」がスタートしており、こちらは適用されます。

 

また、妻が自営業で国民年金、夫が会社員で収入が減少したという場合、夫側は自分の勤務先を通じて養育特例の申請ができます。

おわりに

一度申請すれば、自動的に出産前の収入が年金計算に使えてメリットの大きい「養育特例制度」。

 

しかし、存在を知らないままで申請可能期間を過ぎてしまう人も一定数いると言われています。

 

出産前後はただでさえ忙しい上になにかと手続きが多く、勤め先や年金事務所などから手続きを求められなければ見落としてしまうのも無理もありません。

 

自分自身はもちろん、周りに出産を控えた女性やその配偶者がいたら、「養育特例制度、知ってる?」とひとこと声をかけてあげられるといいですね。

文/高谷みえこ
参考/養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置|日本年金機構 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/20150120.html