2020年は、冬を迎えても引き続き新型コロナウイルスの感染防止がもっとも重要視されそうですが、例年であればそろそろインフルエンザの流行も本格化する時期です。
インフルエンザは予防接種をしていても一定の割合で感染・発症してしまうため、お子さんが園や学校でもらってきたウイルスがママにも感染し、高熱で苦しみながら看病する羽目になることもありますよね。
そんなとき、唯一の助け舟となってくれるはずのパパが「なんか俺も具合悪いかも…」と熱もないのにさっさと寝てしまい、ママ呆然…という現象が毎年のように起こっているそう。
この現象、実は「マンフル」という名前で呼ばれているようです。
今回はこのマンフルについて、もともとの意味やママたちの体験談などを紹介します。
マンフルは今世紀初頭に英国で生まれた単語
「マンフル(man-ful)」は英語で、「インフルエンザ」を表す「ful」の前に、「男性、男らしい」という意味の「man」をつけたもの。
同じく風邪を表す「cold」と合わせて「man-cold」と表現されることもあります。
日本でよく見かけるようになったのはここ数年という印象ですが、発祥のイギリスではもっと以前からポピュラーな言葉だったそうです。
きっかけは、2006年のあるイギリスの雑誌の特集でした。
「インフルエンザなどの感染症にかかったらどのくらいで回復すると思うか」を2000人の読者にアンケートしたところ、女性の回答は平均で「1日半」だったのに対し、男性は「3日」だったことが分かりました。
このことが「男性はちょっとの病気で大げさに騒ぐ」という、よく世間で言われるイメージの裏付けと見なされ、「マンフル」と名付けられて話題になりました。
現在では『オックスフォード Oxford』や『ケンブリッジ Cambridge』といったイギリスの伝統的な辞書にも掲載され、すっかり市民権を得ているようです。
日本のマンフル、主な症状は?
さて、日本でも「男性のほうが発熱や痛みに弱い」「軽い病気でも大げさにアピールしてくる」と感じている人は多いようで、SNSでも、夫や父親・上司など身近な男性の「マンフル」について、女性たちからの愚痴をしばしば見かけます。
「職場の上司、ちょっと風邪気味なだけで、俺ヤバイかも…死にそう…と、大丈夫ですかって誰かが言ってくれるまでずっとアピールしてくるんだよね。女性でそんな人見たことないわ」
「帰省したとき、義理の姉と出産大変でしたよねーって話していたら、夫が俺も付き添いで徹夜してホント大変だった!と…陣痛と一緒にしないでくれる?」
「夫は私がつわりとか生理痛でしんどいと言うと、俺も昨日から腰がめっちゃ痛くってさあ…と必ず自分の不調をかぶせてくる。あくまでも自分がお世話される側でいたいのかな」
なかでも「テッパン」といえるマンフルの例は次のようなもの。
「去年の冬、長男が幼稚園でインフルエンザに感染。1歳の妹とは隔離したものの、私も長男から感染して39度の高熱が…。下の子を見てもらえるのは夫しかいないので、会社を休んでくれたのはいいのですが、初日の夕方から俺もうつったかも…フラフラする…と下の子を放置してベッドに行ってしまいました」(Eさん・34歳・4歳児と1歳児のママ)
測ったところパパに熱はなく、夜だけは下のお子さんと寝てくれたそうですが、ウンチのおむつ替えや離乳食を食べさせるのは、パパがベッドから出てこないのでママが高熱でフラフラしながらマスクや手袋で完全ガードして行ったといいます。
「けっきょく夫はインフルでもなく、3日間ゴロゴロして元気に会社に行きました」
マンフルの本場イギリスの研究によると、男性と女性のホルモンバランスの違いが原因で、インフルエンザなどに感染すると、本当に男性のほうが重症化しやすいという報告もあります。
この主張には否定意見も多く、飲酒や喫煙の習慣の有無、誰かに看病してもらえるかどうかなどの差ではないかという声もありますが、次のような場合はさすがに「本当に重症なの?」と疑ってしまいますね。
「土曜日、パパちょっと風邪ひいちゃったから…と子どもと公園に行くのを断ったくせに、飲み会の誘いがスマホに入った瞬間、完全復活。元気に出かけていきました」
ただし、すべての男性がマンフルではないはず!
既成の単語に「man」をつけて、男性特有の行動パターンをひとことで表した英単語は他にもいくつかあります。
- マンスプレイニング(man+explain)…男性が女性相手のときに限って「自分より知識や思考力が劣る」という先入観に基づいてえらそうに話すこと
- マンスプレッド(man+spread)…電車などで男性が足を広げて座り、必要以上に場所をとること
- マンタラプト(man+interrupt)…女性が話している時に、男性が最後まで聞かずに割りこみ、自分の主張を話しだすこと
しかし、今回取り上げた「マンフル」も含め、「man」と大きくまとめられていますが、実際は、すべての男性がこういった行動をとるわけではありません。
たしかに、明治以降つづいてきた家父長制度や会社勤めの父と専業主婦の母という家族構成のなかで育ってきた世代には、
「女性は男性よりも忍耐強く、男性のケアやサポートをするべき」
という無意識の価値観がすりこまれ、今回紹介したような「マンフル」行動をとってしまう男性は多いかもしれません。
しかしもう今は令和の時代。
共働き夫婦がともに子どもを育てるには、自分の基準や性別に基づくのではなく、家族全体でどこに負担がかかっているのか、誰をサポートするべきなのか…を適切に見る目が必要といえるのではないでしょうか。
文/高谷みえこ
参考/The BMJ「The science behind “man flu”(マンフルの科学的背景とは)」 https://www.bmj.com/content/359/bmj.j5560
英BBC「Learning English - 6 Minute English / Is 'man flu' real?」(「マンフル」は本当にあるの?」) https://www.bbc.co.uk/learningenglish/english/features/6-minute-english/ep-171228