中学生までの子どもがいる世帯に支給される「児童手当」。

 

もともとは所得制限のある制度ですが、現在、特例として所得制限を超えた世帯も月5000円は受け取れることになっています。

 

この「特例給付」が、国の財源不足のために廃止されるかもしれない…というニュースが流れ、とくに影響を受ける共働き世帯のママ・パパたちからは戸惑いの声が出ています。

 

今回は、現在の児童手当や特例給付のしくみや、もし廃止になるとどうなるのかを検証。

 

廃止されれば年間6万円~十数万円を受け取れなくなるかもしれない、現役の共働きママ・パパたちの声も紹介します。

 

現在の児童手当「特例給付」の内容は?

そもそも「児童手当」とはどんな制度でしょうか。

 

中学校卒業まで(15歳以降最初の3月31日まで)の児童を養育している保護者向けに、育児にかかる費用の一部を支援するための制度で、給付額は次のように決まっています。

 

  • 3歳未満…一律15,000円/月
  • 3歳以上小学校修了前…10,000円/月(第3子以降は15,000円/月)
  • 中学生…一律10,000円/月

 

親(または家族を扶養している人)の所得には上限があり、たとえば、会社員の夫と専業主婦の妻と子ども2人の家庭の場合は、夫の年間所得が736万円以上になると児童手当は支給されません。

 

しかし、少子化の解消などを目的に、平成24年からは所得制限を超えていても、子ども1人に対して月額5000円、年額にして6万円は必ず受け取れるようになっていました。

 

この措置のことを「特例給付」と呼んでいます。

 

「廃止検討」の理由とは。わが家はどうなる?

しかし2020年11月、政府がこの「特例給付」の廃止を検討しているというニュースが流れ、大きな反響を呼んでいます。

 

また単に月5000円を廃止するだけではなく、これまでは世帯で収入が多い人(1人)の年収が基準だったのを、世帯収入の合算(2人)に切り替えるといいます。

 

一億総活躍大臣の記者会見によれば、上記の2つの変更によって約900億円のお金が浮くため、それをなかなか減らない待機児童解消の財源にしたいという考えのようです。

 

以下のような世帯であれば、今までと支給額は変わらず、年に42万円を受け取れます。

 

夫…年間所得500万円 妻…パート所得100万円 子ども13歳(児童手当 月10000円) 子ども10歳(児童手当 月10000円) 子ども8歳(児童手当 月15000円)

 

夫の扶養家族が3人いるため、夫婦で合算した年収が600万円で、所得制限内となり、満額受け取ることができます。

 

次のような世帯ではもともと特例給付部分のみですが、それでも年間18万円が家計に入ってこなくなります。

 

夫…年間所得1200万円 妻…専業主婦 子ども5歳…(児童手当 特例給付 月5000円) 子ども3歳…(児童手当 特例給付 月5000円) 子ども0歳…(児童手当 特例給付 月5000円)

 

そして以下のような共働き世帯では、これまで夫だけで判断されていた収入を世帯で合算されるようになると上限を超えてしまうため、年間42万円が家計に入ってこなくなってしまうのです。

 

夫…年間所得500万円 妻…年間所得350万円 子ども5歳…(児童手当 月10000円) 子ども3歳…(児童手当 月10000円) 子ども0歳…(児童手当 月15000円)

 

共働きママ・パパから戸惑いと怒りの声

上記に対し、とくに影響の大きい共働きの人たちからは、

 

「子どもの将来のために共働きでがんばっているのに、働くとペナルティを受けるような基準の変更はやめてほしい」

 

と戸惑いや反発の声があがっています。

 

Yさん(30歳・1歳児のママ)は、

 

「去年娘が生まれる前に、ファイナンシャルプランナーさんに家計診断をしてもらったんです。そこには児童手当も含まれていて。夫の年収なら中学校3年生までに児童手当で200万円分貯金ができるという計算で、私は時短で復帰しました。でももし合算されたらゼロになっちゃうんですよね。だったら少しでも稼げるようにフルタイムで復帰すればよかった」

 

と、教育資金の計画が狂ってしまったと話します。

 

Tさん(38歳・中学1年生と小学4年生のママ)も、

 

「うちも共働きで、今は児童手当は満額受け取れていますが、世帯収入の合算になると対象から外れてしまいます。収入が増えて給付金がなくなったり税金が増えるのは分かるんですが、今までと変わらないのにとつぜん基準を変えられて、年間何十万もお金が減るのはちょっと…。成長期の子どもはしっかり食べて身体を作ってほしいし、習い事やスポーツだって将来のためにやらせたい。子育てはお金がかかるんです」

 

と訴えます。

 

現在検討段階の案は、年末には決定したいということですが、その内容によっては来年からの働き方を見直さざるを得ない人が出てくるのではないでしょうか。

 

おわりに

その後のニュースでは、

 

「一連の改正についてはまだ検討中で未定」

 

「年収の基準も引き上げ、支給額ができるだけゼロにならないように」

 

「子どもの多い世帯への児童手当増額」

 

などを検討していくとしています。

 

待機児童の解消はもちろん重要なこと。

 

しかし、「待機児童解消」という子育て支援の財源を得るために「児童手当」という子育て支援を削ってしまっては、けっきょくプラスマイナスゼロで意味がないのではないでしょうか?

 

諸外国と比べ、日本にはまだ子どもの未来のための環境が整っていない部分が多々あります。ぜひ広い視野で財源を見直していってほしいと思います。

 

文/高谷みえこ
参考/内閣府「児童手当制度のご案内」 https://www8.cao.go.jp/shoushi/jidouteate/annai.html
「児童手当Q&A」 https://www8.cao.go.jp/shoushi/jidouteate/ippan.html