共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

「人と人をつなげる」をミッションに、ソーシャルメディアとシェアリングエコノミーに注力した事業を展開しているガイアックス。事業を通して社会課題の解決にも取り組んでいるこの企業が、約20年前から導入しているのが「裁量労働制」です。

 

もともとは、業務効率を重視した制度ですが、ガイアックスでは従業員同士、また従業員と会社の信頼関係を深めながら、一人ひとりのプライベートの充実にもつながっているそうです。裁量労働制の導入の背景や工夫などを、管理本部・労務担当の中枝さんに伺いました。

 

一人ひとりの目標だけでなく、人生設計も共有。ガイアックスの「裁量労働制」

制度名称:裁量労働制(専門型裁量労働制) 導入開始日:2000年代の前半頃より実施中 対象者:社員 今までに利用した人数:SEなどの技術者、デザイナー、システムコンサルタント等

 

 

株式会社ガイアックス 管理本部 労務担当 中枝 有さん

スキューバダイビングのインストラクターや某テレビ局での製作スタッフを経て、2006年1月に総務および中途採用担当として入社。2008年からは労務も担当する。常に「職場の皆のための何でも屋であること」をモットーに仕事に取り組んでいる。「多様な年齢層、考え方、生き方のメンバーがみんなHappyに過ごせるように日々奔走しています!」

 

 

——ソーシャルビジネスを通して起業家も輩出しているガイアックスでは、1999年の創業間もない頃から「裁量労働制」を取り入れているそうですね。どんなふうに実践されているのでしょうか?

 

中枝さん(ガイアックス):

裁量労働制にもパターンがあり、ガイアックスでは「専門型裁量労働制」を導入しています。厚生労働省で該当する職務内容が規定されているため、ガイアックスの場合、管理部(法務、経理、総務、採用等)以外の事業部、つまりSEなどの技術者、デザイナー、システムコンサルタント等が利用しています。

 

制度の概要としては、専門型裁量労働制によるみなし労働時間を定め、実際の稼働時間ではなく、みなしの労働時間によって給与の内訳を設定するものです。従業員は、細かな時間管理(報告や承認など、業務に直接関係のない作業)に時間を取られることなく、自らの裁量において業務に集中する時間を決めることができます。

 

給与についても、年齢や職位、勤続年数などによる既定はなく、本人と上長が合意する目標を定め、アウトプットを評価することで決定する運用となっています。

 

また、専門型裁量労働制が該当しない管理部門については、フレックスタイム制となっていて、勤務時間の管理にとらわれず、アウトプットを評価する点は同じです。

  

——自立性の高い制度なのですね。なぜ導入されたのでしょうか?

 

中枝さん(ガイアックス):

「何時間働いたか」ではなく「何をしたのか」を評価したいためです。トップダウンで与えられた仕事をするのではなく、自らが考えて仕事や事業を生み出してほしいという思いも反映されています。

 

そのために、四半期と長期の目標を一人ひとりが設定し、常にブラッシュアップすることで、目の前の業務だけでなく、人生設計をしていくことも重要視しています。

 

——制度を活用しながら、社員が自律的に働く文化を作られているのですね。ガイアックスならではの工夫があれば教えてください。

 

中枝さん(ガイアックス):

“マイルストーンセッション(旧名称QCP)”という四半期ごとの評価面談で、短期的(四半期、年度毎)な目標設定や評価だけでなく、中長期的なキャリアプラン、人生設計についても話す機会を設けるようにしています。

 

目指すライフプランのために、どう働くのがよいのかを各個人が自分だけで考えるのでなく、上長とも共有することで、より多くの選択肢を持ち、可能性を広く捉えて実現することができています。  

 

転職後に戻ってくる社員が多数!産休育休やパパ育休を複数回取得した社員も

——一人で悩みを抱えるのではなく、様々な可能性を上司とともに考えられる環境になっているのですね。導入によって何か効果は感じられますか?

 

中枝さん(ガイアックス):

効率的に仕事をするための制度ですが、同時に、プライベートの充実も実現できているのではないかと感じています。実は、転職をしたメンバーが再入社しているケースが多いのです。

 

他社を経験して、「やはりガイアックスで働きたい」と思う人が多いのは嬉しいことです。また、結婚や出産というライフスタイルが変化する時期に、ガイアックスのような環境で働きたいと戻って来た社員もいます。

 

複数回の産休育休を取得した社員、複数回のパパ育休を取得している社員もいます。ガイアックスで働くこと自体が、子育てと同様、生活の一部なのだという感覚が社員に生まれているのだと感じています。

 

様々な場面で、働く者と会社(上長や仲間など)との間に確かな信頼関係が築けていると実感します。

 

——裁量労働制によって社内での信頼関係が深まっているのでしょうか?

 

中枝さん(ガイアックス):

裁量労働制では、上司に管理されず、また部下を管理せずに働くことが最大限許されるので、業務に直接関係ない管理の工程数をお互いに減らすことができます。ただ、それを実現するには、必然的に多角的な信頼関係が必要になってきます。

 

業務のアウトプットが目標通りでも、そのために体調を崩したり、家庭環境に不和が生じていたりしては意味がないし、長続きしません。

 

裁量労働制とマイルストーンセッションの連動により、フラットな信頼関係のある組織づくりができているのではないかと思います。

 

——裁量労働制では社内での信頼関係がポイントなのだと感じました。信頼関係を育てるために何か心掛けていることはありますか?

  

中枝さん(ガイアックス):

何かを隠したり、自分に無理をしない関係性は、そもそも会社側が性善説に基づいて社員を疑わずに任せるところからスタートしていると思います。信じてもらえると思うから、信頼を裏切らないようにしようと思う関係性が成立しているのだと感じます。

 

通常は、入社して退社すれば、キャリアの1つとして通過点になるのが「会社」という単位です。そうではなく、退社後も単純に近況を報告したり、副業先として関係性を継続したり、ライフステージの変化によって、再入社したり。社内のメンバー一人ひとりが、ガイアックスというコミュニティを作り、新しい関係性や可能性をどんどんつなげて拡げて、日々成長しているのだと思います。

  

——人と人との新しい関係性がガイアックスから生まれていることが想像できました。制度の課題などについては何か考えていることはありますか?

 

中枝さん(ガイアックス):

人それぞれ、多様な働き方があって良いと考えています。とはいえ、事業は利益を出さなければなりません。適正に評価をして給与を支給することも必要です。また、働く本人が健康に充実した生活を送れていることも不可欠です。

 

そのために、多くの法律があり、不利益や不公平が生じないように定められています。ただ、労働者を守るための法律が、企業にとっては枷になることもあり、そのバランスを取ることは難しいと感じますし、力のある企業側に厳しい決まりがあることは致し方ないと思います。

 

新たな制度として、ガイアックスのように、大きな信頼関係の上に成り立っている新しい形の企業に、既存のルールを超えた特例が認められないものか…と願わずにいられません。それは言い換えれば、細かな法律のしばりがなくても、働く者と企業がバランスのとれた形で共存できるコミュニティなのではないでしょうか。

  

 

仲間を、会社を信頼する。そのうえで成り立つ働き方で結果を出す。プライベートも充実させる。言うは易しですが、ガイアックスでは20年もの間、この難問に取り組んできました。試行錯誤もしながら、ともに会社をつくっていくという意識ももちながら働けることで、社員の人生はより豊かになっているに違いありません。

   

【会社概要】

社名:株式会社ガイアックス

従業員数:123名

設立年月日:1999年3月5日

業種:情報通信業

事業内容:ソーシャルメディアサービス事業、シェアリングエコノミー事業、インキュベーション事業 

 

取材・文/高梨真紀