楽しい夫婦エピソードが満載の足立監督

 

—— 監督から見て奥様の一番かわいいところを教えてください。

 

足立監督 映画にも登場する「寿司屋での夫婦の会話」ですね。夢を見て調子に乗ってというあの手の会話は本当に何度もしたことがあります。なので、僕はどこか客観的に見てしまうんです。「そんな夢のような話は実際に起きることはない」という感じで。 だけど、彼女は毎回本気になって夢を見るから、「夢を見させてあげよう」って思っちゃうんです。常に本気なところが疲れるポイントでもあるけれど、それがものすごくありがたいことだと思っています。そういう本気がなくなっていくのが夫婦だったりしますからね。

 

—— 加減や塩梅を考えちゃいますよね。

 

足立監督 さらっと流してしまったり……。

 

—— それ、ありますね。あのシーンは本当に素敵でした。子どもの前で本気でノロケる、かわいい奥様全開という感じで。罵詈雑言はありながらも夫婦円満という印象です。ということで、夫婦円満のコツを教えてください。

 

足立監督 絵に描いたような円満ではないけれど、映画でも描いているように妻に何度拒否られてもくじけずに求めるということは、心に決めています。

 

—— それは何事もですか?

 

足立監督 いえ、セックスに関してだけです。何事もということにしたほうがいいのかもしれませんけど(笑)。妻には「そこはいらねー」って言われますが、だからといって、求めることをやめてしまうと、なんか寂しい気がして。ひどく拒否られると傷つくけれど、そこは何度も何度も立ち向かう、と決めています。

 

—— 心が折れることはあるのでしょうか? 先ほどからずっと笑顔なので、断られるのもうれしかったりするのかなと感じてしまいます。

 

足立監督 いえいえ、折れていますよ。でも諦めません!

 

—— これまでに訪れた夫婦最大の危機はなんですか?

 

足立監督 怒りの大爆発は日常茶飯事なので「またか」という感じになるのですが、「1年以内に結果を出せ!」と言われた時は、背中に冷たいものが走りました。映像業界は、仮に今日、傑作のシナリオを書いたとしても、1年で世に出て行くことにはなりませんから。

 

—— どうやって乗り越えたのですか?

 

足立監督 多分、なし崩しで終わった気がします。僕は、なし崩しもある種、大切なことだと思っています。なし崩しにできる関係性って日頃の接し方が大きいんじゃないかなと感じています。コミュニケーションがめんどくさくなってもそこを諦めずにやっておくことで、大きな危機を迎えても、時間とともに氷解することができるんじゃないかなって思っています。

 

—— 罵詈雑言を浴びせる妻に押されている印象がありますが、夫婦喧嘩という形にはなるのでしょうか?

 

足立監督 僕も言い返すことはあります。でも、彼女があの状態になったときって正論だから、基本的には言い返せないような状況なんです。それでも、あまりにも今のはひどいと感じたら、言い返してはみます。機嫌が悪いと、僕に絡んでくるための要素を鉄菱のように撒いてきます。絡みたいがゆえにネタを降ってくるときには提供しちゃいますね(笑)

 

—— まさにサバイバルですね。映画の中ではご機嫌伺いが上手な旦那さんですが、実際に監督にもそういうところはありますか?

 

足立監督 大いにあると思います。映画の中での濱田さんのセリフの裏には、全部妻のご機嫌をとるという目的があります。セックスに持ち込む手段につながっているんです。関係ない話から徐々に妻を褒めている話題に転換していくというか……。

 

—— 外堀を埋めて近づき、本丸を攻めるわけですね。

 

足立監督 その通りです(笑)。

 

「伝えること、伝わることが大事!」とのこと

 

—— では最後にCHANTO WEB読者にメッセージをお願いいたします。

 

足立監督 セックスレスに限らず、夫婦関係に悩みがある方は夫婦揃ってツッコミを入れながら楽しく観てください。論争できる映画だと思っています。もし、奥さんに拒まれているレス関係にある旦那さんがいたら、くじけるでしょうけれど、何度も挑み続けることが大事だと伝えたいです。 そして、奥様へ。褒めて育てるという言葉がありますが、家の妻はあの言葉が大嫌いで、「なんで。中年のオヤジを褒めて育てなくちゃならないんだ!」って怒っています。でも、なんで褒めなきゃいけないの?って思っている人は意外と多いと思っています。それでも、たまにやさしくしてもらえると、めちゃくちゃうれしいものなんです。「がんばったじゃん」という言葉だけでもいいんじゃないかなって思っています。これは夫婦お互いにですよね。僕も感謝が伝わってこないと言われているので、伝えることの難しさは感じていますが……。

 

—— お話を伺っていると、奥様への愛情はすごく伝わってきています!

 

足立監督 そうですか? 伝わっていますか? でも、それではダメらしいんです。妻からは「直接私に伝わらないと意味がない」って言われているので(笑)。

 

足立紳 / 映画監督・脚本家

1972年生まれ。鳥取県出身。 日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。

 

取材・文/タナカシノブ