教育費で最も大きな出費が「大学進学にかかる費用」です。どう工面するか、子どもが小さい時から心配している親もいるかもしれません。そんな時心強いのが「奨学金」です。

 

「経済的に苦しい人が借りる」イメージがありますが、じつは奨学金最大手の日本学生支援機構(JASSO)では、大学生の2.7人に1人が借りています。ただ、「奨学金が返せずに苦しんでいる」ニュースを見ると、ためらう人も…。奨学金に頼るのはあり? なし?家計再生コンサルタントの横山光昭さんに聞きました。

貯金だけで大学費用を全てカバーするのは難しい

 「大学進学の費用」は、実際どれぐらいかかるのでしょうか?ひとつの参考になるのが、全国大学生活協同組合連合会の「2019年度 保護者に聞く新入生調査」です。それによると、受験から入学にかかった費用の平均は次の通りでした。

 

  • 国公立文系・自宅通学生           1279500
  • 私立大学文系・自宅通学生       1401800
  • 私立理工系・自宅通学生           1719200
  • 私立大学文系・下宿生       2120600
  • 私立理工系・下宿生             2443400

 

進学時には、入学金や授業料の他、出願費用や滑り止めの大学への入学金、教科書代など、さまざまな費用がかかります。自宅から通えないケースは、新生活の準備費用も必要に。さらに、大学2年以降の学費や生活費、今や当たり前になった留学費用も用意しなければいけないと考えると

 

子どもが1人ならともかく、2人、3人といれば、1000万円以上の出費も予想されます。この金額を貯金だけでまかなうのは、簡単ではありません。そこで、多くの人が「奨学金」を利用しています。

親の務めはいつまで?

 「奨学金」は、大学などにかかる費用を自分たちで用意するのが困難な家庭のために、資金を貸し出す制度のこと。「貸与型」だけでなく、返済不要の「給付型」もあります。

 

奨学金を借りることに抵抗がある方は少なくありません。その理由の一つとして、奨学金は親ではなく子どもが借りて返済することが挙げられます。

 

子どもに苦労を背負わせるので、「子どもを大学まで行かせる」という親の務めを果たしていないように思えるのは理解できます。

奨学金を借りた方が将来負担は減るかも?

しかし、私は、ほとんどの親は、奨学金を借りることを検討したほうが良いと思います。親の収入だけで学費を工面した結果、老後の資金がなくなってしまったというご夫婦を家計相談で数多く見てきているからです。

 

その方たちは、給料が比較的高い大企業にお勤めの方たちも少なくありません。それでも、子どもの数が多いと、自分たちの稼ぎだけでは苦しくなってしまうのです。

 

老後に子どもからの援助が必要になるくらいなら、奨学金を借りたほうがトータルで見れば、子どもの金銭的な負担は小さくなります。それに、少しでも自分で学費を払うとなれば、本気で勉強するようになるはずです。 

世帯年収1000万円超えでも奨学金は借りられる

 実際、奨学金はどれぐらい借りられるのでしょうか。最も多く利用されているJASSOの奨学金を見てみましょう。JASSOの奨学金は「貸与型」と「給付型」があり、さらに貸与型は「第1種と第2種」があります。

 

大きな違いは、第1種には利息がないこと。借りた金額をそのまま返せばOKです。こちらは世帯年収の目安が657万円以下(3人世帯の場合)で、学力基準を満たしていれば、最大で月64000円(私立大・自宅外通学の場合)借りられます。

 

2種は利息が付きますが、低金利。20204月の利率(基本月額)は、固定金利型の「利率固定方式」で0.153%、変動金利型の「利率見直し方式」では0.003%です。第2種は、世帯年収の目安は1009万円以下(3人世帯)で、学力は平均水準以上でOK。最大で月12万円まで借りられます。

金利面を考えるなら教育ローンより奨学金

一方、給付型は、返却しなくていい奨学金です。従来は住民税非課税世帯(※2人世帯の場合、世帯年収が207万円以下)の学生に限られていましたが、20204月から対象が広がり、世帯年収が約378万円以下の学生も受けられるようになりました。

 

給付金額は、世帯年収が350万円程度で自宅から通っている場合、国公立大学は月9800円、私立大学は月12800円です。最も多いのは、世帯年収が250万円程度で、 75800円が給付されます。そのほか、奨学金には、大学や自治体が独自でおこなっているものもあります。

 

ちなみに、奨学金と似た仕組みに「教育ローン」がありますが、こちらは、子どもではなく「親が借りる」もの。日本政策金融公庫や民間金融機関が用意していますが、金利面を考えると、まずは奨学金を検討した方が良いでしょう。

「奨学金が返せない」ニュースが絶えない理由

 奨学金に抵抗を感じる理由は、「返せるかどうか不安」な点でしょう。返せなくなりお先真っ暗というニュースを見ると、ますますそう思うかもしれません。

 

ただ、返せなくなる原因の多くは「借りすぎ」です。労働者福祉中央協議会が2019年に発表した調査によると、前述したJASSOの奨学金の借り入れ総額は平均で324.3万円。500万円以上を借りている人も12.4%に上ります。

 

こうして多額の奨学金を借りた結果、毎月2~3万円を10年以上に渡って返し続けているケースは少なくありません。これで生活が苦しくなる人が後をたたないのです。

 

あとで苦しい思いをしないためには、借りる前に返済シミュレーションを行うことが大切です。JASSOのホームページでシミュレーションできるので、試しに利用してみると、将来のマネープランが立てやすくなるでしょう。

 

監修/横山光昭 文/杉山直隆 イラスト/村林タカノブ