あなたは、家族のことをどれだけ理解していますか。わが子、パートナー、実の親…。

 

「家族なのに、わかり合えない」、もしもそんな風に思うことがあったなら是非この絵本を読んでみてください。

 

絵本マニア甘木サカヱが、おすすめの絵本について熱量たっぷりで語ります。

 

家族を理解できないことは、決して不幸なことじゃない

ザガズーと猫

『ザガズー じんせいってびっくりつづき』

クエンティン・ブレイク:作 谷川俊太郎:訳

好学社 1500円(税別)

 

あなたは小さなころ、どんな子どもでしたか?

 

たくさんミルクを飲んでよく眠り、いつでも親の言う事をよくきいて、天使のように笑う子でしたか。

 

それとも、夜はキイキイ声を上げ、泥んこで家中を走り回り、怒りっぽく家中を荒らしまわる子でしたか。

 

「完璧な、天使のような子」なんて存在しない!もちろん「完璧な親」もです。子育てをしたことがあれば、誰しも頷いてくれるのではないでしょうか。

 

産まれて、育って、巣立っていくまでの間、親子ともども、無性にイライラして、とにかく当たり散らしたくて、いっそ火を噴いてこの家ごと燃やしちゃいたい!と思うようなことがきっと一度くらい……いや二度三度、なんなら週に数回くらいはあるはずです。

 

この絵本は、幸せなカップルのもとに生まれてきた男の子、ザガズーと彼の両親の、ちょっと、いえ、だいぶ変わった成長と変化の物語です。

 

産まれたてはかわいいピンクの生き物だったザガズーは、まもなく、両親を困惑させるような大変身をとげます。泣き叫ぶハゲタカ、泥だらけのイボイノシシ、火を噴くドラゴン、正体不明の無口な怪物──。どんどん困った生き物に変身していくザガズーに戸惑う両親。我が子のことをちっとも理解できないまま、自分たちにはいつの間にか白髪が増えて…。

 

ところがある日、ザガズーはまるで生まれ変わったかのように、礼儀正しくすてきな若者に成長をとげるのです。めでたしめでたし。

 

なんて綺麗に終わるわけが!!ないでしょう!!

 

ラストのどんでん返し。それこそがこの絵本の鋭く、皮肉で、人によっては恐ろしく、そして一番すてきなところなんです(力説)!!

私は今、年老いた義理の両親と夫、子ども二人の6人で暮らしています。世代も性格も全く違う6人が一つ屋根の下で過ごす毎日は、行き違い、勘違い、すれ違い、とにかく理解できない事態の連続です。

 

でも、家族がお互いを理解できないことって、そんなに不幸なことかなぁ、と、この絵本『ザガズー』は考えさせてくれます。

 

成長も、老化も、きっと人生における自然なステージの変化でしかなくて。

 

完璧に理解しあうことはできなくても、お互いの幸せを喜ぶことさえできたら、そんなに絶望することはないのかもしれません。

 

いずれ自分も「何か」に変身するかもしれない日を思いながら、人生にびっくりし続けよう、と、そっとこの本を閉じるのでした。

 

甘木さんバナー

 

次回は、8/8(土)公開です。

文/甘木サカヱ 写真/河内