ピーマン・なす・セロリなど特定の野菜が苦手な子から、野菜全般が食べられない子まで、「うちの子は野菜が嫌いで…」と悩む人は少なくありません。

 

保育園や学校給食ならある程度食べられるのに、家ではどうしてもダメという子も。

 

「カラダにいいんだよ」と説明してもダメ、叱ってもおだててもダメ…で、学校が休みの日のメニューに頭を悩ませている人も多いのではと思います。

 

そこで今回は少し視点を変えて、子どもの野菜嫌いを克服する方法を「行動心理学」に基づいて考えてみました。

 

なぜうちの子は野菜を食べないのか

子どもが野菜を嫌がる理由としてあげられるのは、見た目、匂いにクセがある、食感(固い、グニョッとしている)などもありますが、多くは味、なかでも多いのが「苦味」と「酸味」だといわれます。

 

しかし、子どもが苦いモノや酸っぱいモノを食べたがらないのは自然の摂理にかなっている面もあります。

 

自然界では「苦味=毒」「酸味=腐敗」であることが多く、身体が小さい子どもにとってそれらを食べるのは危険な行為だからです。

 

ただ、苦みや酸味と栄養を併せ持つ食品もたくさんあり、成長とともに色々な味の組み合わせを体験することで、少しずつ「これは食べても大丈夫」と脳が学習し、大丈夫とわかってくれば「なかなかおいしいな」と感じる余裕も出てきます。

 

ただ、その時期はひとりひとり個人差が大きく、きょうだいでも差があるのが普通。

 

一概に、

 

「ママが甘やかすから」 「育て方が悪いから」 「料理が下手だから」

 

…という理由で子どもが野菜を食べないわけでは決してないといえるでしょう。

 

ママたちの工夫には心理学的効果があった!?

今回、「子どもが野菜嫌いで困っていた」というママたちがやってみて効果のあった方法をいくつか教えてもらったところ、それらには共通の特徴がみられました。

 

それは、ママたちの作戦には、経済や販売の世界でよく使われる「行動心理学」に登場する心理効果と同じはたらきがあるのでは?ということ。

 

実際の体験談と、関連する心理的効果は次のようなものです。

 

家庭菜園や料理で食育

「4歳の長男、ずっとトマトは苦手だったのに、家庭菜園で育てて以来ミニトマトをパクパク食べるようになりました」(Tさん・32歳・4歳児と0歳児のママ)

 

子どもが自分で育てた野菜は食べられた!というのはとてもよく聞く話です。

 

これは「保有効果」といって、ある日突然目の前に出されたものより、いったん自分が手に入れたものの方に愛着がわき、高い価値を感じるという心理効果のあらわれ。

 

また、手間をかけて育てたものをムダにしたくない、せっかくここまで育てたんだから…という、過去にかけたコストの大きさで未来の行動を決めてしまう心理を「コンコルド効果」といいます。

 

通常は「つまらない映画でもチケットを買ったから最後まで観る」「ギャンブルで勝つまでお金をつぎ込んでしまう」といった望ましくない行動に使われますが、野菜嫌いに限ってはプラスの効果が期待できるというわけですね。

 

「ママもっとブロッコリー食べたいな」「僕もー!」

「サラダをお皿に取り分けるとき、わざと端数が出るようにして、”あっ!ブロッコリーがあと1個しかない…欲しい人ー?”と聞きます。そしてパパもママも”欲しい―!”と言うと、ぼくも!と言って欲しがりますね(笑)」(Mさん・29歳・3歳児のママ)

 

これは「バンドワゴン効果」というもの。

 

「同調効果」ともいい、みんながほめるものや欲しがるものを自分も欲しくなる…という心理をいいます。

 

SNSで話題になっている商品をつい買ってしまうとか、クラスでモテる子をなんだか自分も気になってくる…といったものですね。

 

買い物に行き、子どもに野菜を選ばせる

「子どもと買い物に行ったとき、”ピーマンはヘタの切り口が茶色より緑の方が新しくておいしいんだよ”などと教えて子どもたちに選んでもらいます。もちろん極力商品に手を触れないようには気をつけますが…」(Kさん・37歳・6歳児のママ)

 

人には、他から押し付けられたもの(=外的コントロール)は拒否するが、自分で選んだ(=内的行動選択)ことは実行するという心理があります。

 

またKさんのお子さんは、自分が選んだピーマンが本当においしいのかな?と早く確かめたくて、夕食に食べるのを心待ちにしていたそう。

 

これは、人は完結した行動はすぐに忘れるが、未完の行動は結末が気になってやめられないという「ツァイガルニク効果」も作用しているといえます。

 

「これを食べていいのはお兄さんお姉さんだけよ」

「上の子はそれほど好き嫌いがなかったのですが、下の双子たちはそれぞれ食べたがらないものが多くて。私が忙しすぎてちゃんとしつけができていなかったのか…と悩んだ時期もありました」

 

というSさん(34歳・小学1年生と4歳の双子のママ)。

 

4歳の双子はどちらもナスを食べなかったそうですが、ある時、ナスが1本しかなかったので、

 

「今日はナスを食べていいのはお兄さんお姉さんだけだよ!とふざけて言ったら、なんと2人とも、わたしお姉さんだから食べる!と争うように食べたのにはびっくりしました。やりすぎると効果が薄れると思うので、たまーにこの作戦を使っています(笑)」

 

とのこと。

 

これは、「カリギュラ効果」といい、禁止されると余計にやってみたくなる…という心理をあらわしています。

 

民話「つるの恩返し」で、「絶対に部屋をのぞかないで下さいね」と言われたおじいさんが、つい誘惑に負けてのぞいてしまったのは有名ですよね。

 

おわりに

今回は、野菜嫌い克服に役立ちそうないろいろな心理効果を紹介しました。

 

ただ、食に関しては本当に個人差が大きく、さまざまな工夫をしてもどうしても野菜が食べられない子や、食べられない時期があります。 「この子の将来のため」と無理強いして食事に対する嫌悪感を持ってしまうのはもったいないので、工夫はしても結果を求めすぎず、「食事は楽しい」と思えるところで折り合いをつけたいですね。

 

文/高谷みえこ

※文中の心理効果は一般的なものを紹介しており、名称等は書籍や心理学の分野により異なる場合があります。