アートに触れることで育まれる感性と親子の対話
―自分だけの評価と感想を持つ―
工藤さんは普段の美術館鑑賞では、受けた印象をよりクリアにイメージさせるため、「何が描いてあるかな?」「これは何色だろう?」「何をしているんだろう?」など、子どもに語りかけ、「すごいねー」と子どもが言ったときは、「何がすごいと思う?」と具体的に聞くようにしているそうです。一つの作品を親子の視点で見ることで、作品についての感想や印象などの対話も重ねられる、と工藤さん。
思い出深いエピソードとして話してくれたのが、お子さんが小学校入学前、東京国立近代美術館のワークショップに参加しているときのこと。高村光太郎の「手」の彫刻作品について学芸員が「何をしているところだと思う?」という質問に対して、お子さんが「おにぎりを握っているところ!」と答えたそう。
大人から見たらとても発想できないその豊かな想像力に、「驚かされ、違う世界に連れて行かれたかのような気分になりました」と工藤さん。
「子どもは大人が気づかないような細部までよく見ているし、素直に感じています。以前、ムンク展に行ったときにも、『ウェブで見たものより色が暗くないね』とモニター越しと本物の色味の違いに気づいたり、『広告よりも大きいね』とチラシで見たときの想像と、実物の大きさとのギャップや迫力に驚いたりしていました」
画集やネットで作品を見る場合、それを撮影した人によって色合いや質感が変わり、なんらかのバイアスやフィルターが入ってしまうことも。しかし「本物を見る」場合は、そうした一切の介入なしに作品と向き合うことができ、完全に自分だけの感覚で評価と感想を得ることができる、と本物のアートに触れることの意義について話してくれました。
「ある人のことを、人づてに評判を聞いて評価するのと、face-to-faceで会ってみて印象が違った、という経験に近いのかもしれませんね」
現在工藤さんのお子さんは9歳。工藤さん自身が美術に興味を持った年齢に近づきつつあります。
「美術鑑賞を通して、趣味としてアートを楽しむのもよし、仕事につなげるのもよし。選択するための一つの材料になってくれればと思っています」と笑顔で話してくれました。
取材・文/佐藤有香