保育園や幼稚園のお遊戯会や音楽会に行くと、観る側になった時、じっと座っていられない子を時々見かけますよね。

 

未就学児はまだまだ集中力が続かない年頃。思わず立ち上がったり、ふざけてしまうのも元気で子どもらしいとも言えますが、小学校に入っても授業中座っていられないことが続くと少し状況が変わってきます。

 

今回は、「座っていられない」子どもについて、原因・理由は何か、果たしてしつけだけの問題なのか…などを考えていきます。

なぜこの子はじっと座っていられないのか…理由や原因


この記事を読んでいるのは、「うちの子、活発なだけと思っていたけど、小学校の先生に”授業中座って話が聞けません”と指摘された…どこかおかしいの?」と不安になっているママやパパが多いでしょうか?

 

もしくは、「子どもの授業参観に行ったら、授業中に椅子の上で動き回ったり、席を立ってフラフラする子が何人も…どういうしつけをしてるの?」と思っている人もいるかもしれません。

 

実は、「授業中、じっと座っていられない」という子の中には放任しすぎというケースもありますが、その大部分はしつけの問題だけではないことが分かってきています。

 

特に、親がいくら注意したり叱ったりしても効果がなく疲れ切っているような場合や、きょうだいは普通に座って授業を聞けるのに…という場合、その子は「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」という発達障害、またはその傾向を持っている可能性が。

 

ADHDの子には、おもに次の3つの特徴がみられます。           

      

  • 気が散りやすい・集中力が持続できない(不注意)
  • じっとしていられない・体のどこかを動かしてしまう・おしゃべりが止まらない(多動)
  • 前もって考えず突発的に行動してしまう(衝動)

 

これらのどれかが目立つ子もいれば、複数重なっている子もいます。

 

とはいえ、子どもなら、ほとんどの子が上記にあてはまるとも言えますよね。発達障害と診断されるのは、あくまでも次の3つの条件を満たす場合に限ります。

 

  1. 1.これらの特徴が7歳になる前に現れている
    2.年齢及び発達段階から見て程度が著しい
    3.これらの特徴のために生活に支障をきたしている

現時点で日常生活に支障がなければ、その子に適した関わり方を続けているうち程度が軽くなったり、生活上のコツを身につけたりして、困った面が出にくくなることも多いと言われています。

 

ADHDでは、通常は知的な発達の遅れをともなうことはないため、「勉強はできているんだから、やっぱりしつけが悪いせい」という見かたをされがちですが、そうとは限りません。

 

脳の仕組みから「座っていられない子」を考える


「座っていられない子」について、脳科学的にはどう考えられているのでしょうか。

 

ADHDの子の脳内では、「報酬系」と呼ばれる神経回路がスムーズに動いていないことが多いといわれています。

 

面倒なことやつまらないことでも、しばらく取り組んでみたらできるようになった!という瞬間、脳内では神経伝達物質の「ドーパミン」が放出され、幸福感や快楽を感じるようになっています。

 

繰り返しこの快感を味わうことで、次に難しい問題を解く、逆上がりに挑戦する…といった課題と出会った時に「大変だけどがんばろう」と思えるようになるのですね。

 

ところが、この報酬系の回路がスムーズに働かない状態だと、粘り強く何かに取り組むことができずすぐに諦めてしまったり、外部の刺激や興味を引くことに飛びついてしまったりします。

 

小学校の授業でいうと、新しい内容を習う時に先生の話がすぐに理解できないと、じっくり考えることができずにキョロキョロし始め、「あ、隣の子の消しゴム新しいやつだ」と意識がそちらへ行ってしまって唐突に手に取り、結果叱られるという具合です。

 

ADHDの特性である「集中できない(不注意)」「体を動かしてしまう(多動性)」「自分の行動を押さえられない(衝動性)」が組み合わさった結果といえます。

 

ちなみに、ここでいう「衝動性」とは、相手を叩くなどの「攻撃性」とは別。睡眠不足や生活リズムの乱れ、ストレスなどで脳内のセロトニンのバランスが崩れることで攻撃性が高まるとも言われ、ドーパミンのトラブルから起こるADHDとは異なるそうです。

「座っていられない子供」親や先生・周囲の大人にできること


ADHDの特徴とされる「不注意・多動・衝動性」は程度の差こそあれ、ほとんどの子どもに見られるため、ADHDは発達障害の中では3歳半検診までで指摘されることは少ないといわれます。

 

また、保育士さんや幼稚園の先生が子どもの様子をみて「診察を受けた方が良いのでは…」と切り出すと、「うちの子が障害児だっていうんですか!」と保護者が怒り出すケースも多く、必要な子になかなかアドバイスが届かないという面もあります。

 

しかし、実際に発達障害の診断が下りるかどうかは別として、可能性を否定して受診しないままでは、ママやパパも「自分の育て方が悪いのでは…」と悩み続けますし、何より子どもが叱られることばかり続き、自信をなくしたり自己肯定感が低くなったりする「二次障害」のおそれが出てきます。

 

もし、受診の結果「じっと座っていられない」などの困りごとが発達障害やその傾向から来るものだと分かれば、ムダに「どうしてそんなことするんだ」「何回言ったら分かるの?」と叱ることが減り、その子に適した環境や接し方を考える方向へと切り替えられます。

 

ただ、現在、小学校の就学前検診として多くの自治体で実施されている「5歳児検診」では、一般的に眼科・歯科・耳鼻科などの検診が行われますが、発達障害児の早期発見と支援継続のための問診や相談を取り入れているのはごく一部。

 

自治体の検診がなく、気になる点があるときは、かかりつけの小児科や、市町村窓口または都道府県の発達障害者支援センターにも窓口があり相談を受け付けています。

 

受診の結果、支援や治療が必要となった場合、障害者自立支援法によって通院治療の外来負担が軽減される制度もあります。

 

そして、保護者と園や学校で子どもの状態について共有し、こまめな意思疎通を図るのも非常に重要です。

 

あらかじめ相談の上「授業を細かいブロックに分けて完結させていく」「外からの刺激が入りにくい席に座らせてもらう」などの方法を取り入れてもらえたり、特性からくる周囲とのトラブルに早めに対処できるよう目を配ってもらえることもあります。

まとめ


今回は、「授業中じっと座っていられない」ことの原因のひとつに発達障害(ADHD)の可能性があることと、周りの大人がするべき対処方法について紹介しました。

 

「座っていられない子」のママ・パパはもちろんですが、「座っていられる子」の親御さんにとっても理解の一助となれば幸いです。

 

文/高谷みえこ

参考:全日本民医連「子どもの発達障害 早期発見で2次障害防止を」

発達障害教育情報センター「授業中や座っているべきときに席を離れてしまう子」

石川看護雑誌 Ishikawa Journal of Nursing Vol.9, 2012「文献から見る発達障害児の早期発見と支援継続のための5 歳児健康診査の現状と課題」