万が一の備えとして何年も毎月コツコツ支払ってきた保険料。「がん保険に入っているから大丈夫」── そう信じて疑わなかったお笑いコンビ「マリア」のサラマンダーゆみみさんのもとに、右乳房全摘・再建手術後に届いたのは、頼りにしていた「がん保険金」が支払われないという通知でした。「保険に加入しただけ」で安心していた自身の思い込みと、直面したリアルなお金の壁を赤裸々に明かします。

乳房全摘後、頼りにしていたがん保険金は対象外に

サラマンダーゆみみ
手術前には夫が「頑張って」と箱根旅行を計画。家族で過ごす時間が手術を控えたゆみみさんの支えになった

── お笑いコンビ「マリア」のサラマンダーゆみみさんは、今年6月に乳がんで右乳房と乳頭の全摘出と乳房の再建手術を受け、8月には追加切除の再手術も経験しました。身体的な負担に加え、治療後には思いもよらなかったお金の問題にも直面したそうですね。

 

ゆみみさん:うちは夫婦そろって芸人(夫は落語家の笑福亭茶光さん)で、毎月決まった収入があるわけではないので、仕事を休めばその間の収入は完全に途絶えてしまいます。息子もまだ8歳ですし、万が一、病気になったときには保険に頼るしかないと思って、何年も毎月コツコツと保険料を払ってきました。いざというときの命綱と思っていたんです。

 

ところが、全摘手術を終えて保険会社に診断書を提出したら、頼りにしていた「がん保険金」(がんと診断が確定した段階で支払われる主契約に準じた一般的な「がん診断給付金やがん一時給付金」のこと)は支払われないという通知が届きました。「今まで何のために払ってきたんだろう」とショックで、頭の中が真っ白になりました。

 

── 乳がんで胸を全摘するほどの手術を受けても「がん保険金」の対象にならなかった。どのような理由だったのでしょうか。

 

ゆみみさん:私の乳がんはステージ0で、「上皮内がん」に当たるためといわれました。上皮内がんを対象とする「がん・上皮内新生物保険金」は支払われましたが、金額はごくわずか。私が病気になったときの支えとして頼りにしていた、まとまった額の「がん診断給付金」は対象外だったんです。さらに、入院給付金についても想定外のことがありました。てっきり1週間ほど入院するものだと思っていたのですが、私が手術を受けた病院は早期退院を促す方針で、手術翌日には自宅へ戻ることに。私が加入していたがん保険では「入院給付金」も対象外でした。

 

もちろん一番大切な命のことを考えれば、ステージ0というごく初期段階で見つけていただき、右胸の全摘手術によって命を救っていただいたことは本当によかったと思っています。命あってこそですし、手術をしてくださった先生方や病院には感謝してもしきれません。



ただ、右胸を全摘して激痛に耐えたにもかかわらず、頼りにしていた保険金だけでなく、入院給付金も受け取れない現実は、家計のことを考えると不安が残りました。病院や保険会社に落ち度があるわけではないとわかってはいるのですが、当時は術後の痛みや不安も重なり、現実のお金の壁を前にしてどうしても気持ちの整理がつかず、モヤモヤが残ってしまったんです。

※給付金の名称や支払い条件、給付額などは、保険会社や商品、契約内容によって異なります

「医師に再確認する難しさ」負担が大きい

── その引っかかりは、保険会社にも伝えたのですか。

 

ゆみみさん:「不服申立てができます」という案内が届いたので、どうして「がん保険金」が支払われないのか電話で問い合わせました。いろいろ説明を受けて、私のがんは上皮内がんなのでステージ0。契約上は「がん保険金」の適用対象にはならないとわかり、そのときはいったん「もう、しょうがないんだな…」と。

 

でも、手術前に念のためにセカンドオピニオンで受診した病院で診断してもらった書類には「非浸潤がん」と書かれていたんです。当時の私は「非浸潤がん」がステージ0に当たることを知らなくて、「(上皮内がんとは)違う診断名なら、保険金が支払われる可能性が出てくるんじゃないか?」と、思いこんでしまったんです。

 

そこで、セカンドオピニオンの書類を担当者の方に見せて相談しました。すると、「私ひとりで判断せず、上の者にも確認してみます」という話でした。ただ、いずれにしてもステージ0なので、「がん保険金」が支払われることは難しいだろうとも聞いていました。この相談をしたのは1か月ほど前。現時点(2026年9月14日の取材)では、回答を待っているところです。

 

── その後、主治医の先生にも確認されたのですか。

 

ゆみみさん:保険会社の方から「診断について主治医の先生にもう一度確認してみてはどうですか」と勧められたんですが、私は医療の知識があるわけでもなく、どう切り出せばいいのかわからなくて。でも思いきって、術後の検診のときに保険会社の書類を見せながら「もう1回お聞きしてもいいですか」と尋ねたのですが、先生からは「診断そのものは変わらない」という説明で。それ以上は踏み込めませんでした。

 

命を助けていただいた先生ですし、この先も診ていただくわけですから、病名のことを追及して関係を悪くするのが怖かったんです。でも、事前にもう少し確認しておけば…と今でも思うことはあります。当時は術後の痛みや生活への不安で頭が混乱していましたし、医学用語や保険で使われる言葉の違いなんて、素人には本当に難しくて。

 

ステージ0といっても右胸を全摘する手術までしたのに…どうしてがん保険金が支払われないのか、気持ちの整理がつかなかったんです。そうしたなかで、治療費の負担も現実的な問題として重くのしかかってきました。

 

── 実際、手術や再建などにかかった費用は、トータルでどれくらいかかったのでしょうか。

 

ゆみみさん:右胸の全摘手術とシリコンによる再建には、高額療養費制度が適用されました。ただ、右胸の再建に合わせて左右の胸の形をそろえるために、左胸にもシリコンを入れたのですが、こちらは保険適用外でした。そこに右胸の自己負担分や、その後の追加切除、関連する諸費用などを合わせると、総額で100万円弱の出費でした。仕事をセーブせざるを得ないなかでの大きな出費は、すごく不安でしたね。

 

再建手術を選ばなければ、費用はもっと抑えられたと思います。乳房はシリコンで再建しましたが、乳頭はまだ再建していないので、いずれ落ち着いたタイミングで乳頭再建も考えています。みんなでお風呂に入るときも、やっぱり気になりますから。友だちからは「いつでも温泉に行けるように」と、手術した側の胸を隠せる入浴用のバンドをプレゼントしてもらって。体やお金の不安がある中で、そうした周りの人の気づかいには救われましたね。

「保険に入れば安心」で終わらせないこと

サラマンダーゆみみ
再手術からわずか1週間後には、お笑いライブの舞台に復帰した

── 実際に当事者になって初めて直面した現実も多かったと思います。ご自身の経験を通して伝えたいことは何でしょうか。

 

ゆみみさん:私は「がん保険に入っていれば大丈夫」と思い込んでいたのですが、実際に病気になってみて、自分が何に備えているのかを事前に知っておくことの大切さを痛感しました。病気がわかってから保険を見直そうと思っても、希望する保障に入り直せるわけではありません。

 

「ステージ0の上皮内がんの場合、どんな保障が受けられるのか」「日帰りや短期入院の場合、支払いの条件はどうなるのか」など、保険料を払っているだけで安心するのではなく、元気なうちから自分の契約内容で「どんなときに何が受け取れるのか」を、一度きちんと確認しておけばよかったなと、この状況になって改めて思います。

 

取材・文:西尾英子 写真:サラマンダーゆみみ