「毎年の検診では問題なし」。そう言われていたにもかかわらず、別の病院の精密検査で「ステージ0」の乳がんと診断された、お笑いコンビ「マリア」のサラマンダーゆみみさん。今年6月に右乳房の全摘・再建手術を受け、2か月後には予期せぬ再手術にも直面しました。術後の胸を見て襲われた強烈な喪失感や理由なき涙、そして心の支えとなった8歳息子の存在について、当事者のリアルな声をお届けします。
「検診で問題なし」から右胸の全摘手術へ

── 今年4月、乳がんと診断された、お笑いコンビ「マリア」のサラマンダーゆみみさん。6月には乳頭を含む右乳房を全摘。さらに術後の病理検査で追加切除が必要だとわかり、8月には再手術を受けるなど、予期せぬ事態が続きました。そもそも乳がんが見つかったのは、どんなきっかけだったのでしょうか。
ゆみみさん:毎年、乳がん検診は受けていました。2年ほど前の検診で「石灰化」を指摘されたことはあったんです。乳房の中にカルシウムが沈着して、マンモグラフィーで白い点のように見えるものなのですが、そのときはエコー検査で良性と診断され、その後の定期検診でも「問題ない」と言われていました。ところが今回、別の大きな病院で診てもらったところ、「石灰化が散らばって見える」とのことで、精密検査を受けることになりました。
── 検診で問題ないと言われていたら、ふつうそこで安心してしまいそうです。それでも大きな病院に足を運んだのは、なぜだったのでしょう。
ゆみみさん:自覚症状はまったくなかったのですが、うちは親族にがんで亡くなった人が多く、私自身もすごく心配性なんです。以前、石灰化を指摘されたことも心のどこかに引っかかっていたので、一度大きな病院で診てもらおうと思いました。それでも前の病院では良性と言われていたので、「今回も大丈夫だろう」とのんきに構えていたんです。
ところが検査の結果は「ステージ0」の乳がん。しかも「広い範囲に散らばっているので全摘が必要です」と言われて「まさか」と…。すぐには実感がわきませんでした。
── 「ステージ0」という早期発見でも、がんの広がり方によっては全摘が必要になるのですね。
ゆみみさん:私の場合は、乳頭のすぐ裏にも腫瘍があったんです。それで乳房を残すのは難しく、乳頭も含めて切除したほうがいいと説明されました。セカンドオピニオンも受けましたが、同じ見立てでした。
相方のイーちゃんに「全摘だって。乳房も乳頭もなくなるらしい」と伝えたら、「でも、早い段階で見つかったのは本当によかった」と言ってくれて。「そうか、幸運だったんだな」と自分に言い聞かせましたが、やっぱり現実味がなくて。手術の前には英気を養おうと、夫(落語家の笑福亭茶光さん)が箱根旅行に連れて行ってくれました。嬉しかったんですけど、当日までどこか「心ここにあらず」でしたね。
手術後にもらった息子からの手紙に涙
── 当日は切除と同時に胸の再建も受け、手術は7〜8時間に及んだそうですね。
ゆみみさん:朝10時に手術室に入って、終わったのが夕方6時ごろでした。術後すぐ、看護師さんから「ご自分の胸を見てみますか?」と聞かれたんですが、痛すぎて、とてもそんな余裕はありませんでした。
入院は1泊だけ。私が手術を受けた病院では乳がんの手術と同時に再建する方法で、1泊で退院するケースもあるんです。術後は早くから体を動かすように言われて「足は元気なんだから、どんどん歩いたほうがいい。病院にいるより家で自分の足で歩いたほうが傷の治りも早い」と、医師から説明を受けました。とはいえ、帰宅してからもしばらくは痛くて、お風呂にも入れませんでした。
家に戻ると、8歳の息子からの手紙が置いてあったんです。子どもなりに大変な手術をするんだとわかって、心配してくれていたのでしょうね。手紙には「ママ頑張ったね」の文字が。それを見た瞬間、思わず泣いちゃいました。
── ご自身の胸と初めて向き合われたときは、どんな思いがありましたか。
ゆみみさん:退院して2日後くらいに、おそるおそる鏡に映る自分の姿を見ました。シリコンを入れて再建しているので、いちおうふくらみがあるんです。でも乳頭はなくなっていて、まだなじんでいないからボコボコしている。なんだか人形の胸みたいで、自分じゃないような違和感がありました。やっぱり、ショックでしたね。今もまだ、あまり見たくない気持ちはあります。
手術直後は痛みが先に立っていて、何も考えられませんでしたが、数日経って痛みが少し落ち着いてから、喪失感がどんどん強くなりましたね。急に悲しみがこみ上げてきて、理由もわからないまま涙がダーッとあふれ、どうしていいかわからなくなるときも。術後2週間は起き上がるのもつらくて、思うように体が動かないことにイライラして。優しくしてくれる夫にも八つ当たりしてしまい、自己嫌悪に陥りました。「体が健康じゃないと、心も健やかではいられないんだな」と、あらためて健康の大切さを痛感しました。
── 6月の全摘手術から約2か月後の8月、再び手術を受けています。短期間でなぜ2度も手術をすることになったのでしょうか。
ゆみみさん:切除した組織を病理検査で詳しく調べたところ、一番下のギリギリのところに、もう少し取っておいたほうがいい部分があると判明したんです。痛い思いをして全摘したばかりだったので、「また切るの…?」と、言葉を失いました。最初の手術をしたときは今より5キロくらいやせていて、皮下脂肪もかなり少ない状態でした。先生からは「もう少し太っていたほうが取りやすかったかもしれない」とも言われました。
周りからは「取り残しなんておかしくない?」と心配されることもありました。私自身、モヤモヤした気持ちは正直ありましたけれど、主治医の先生もベストを尽くしてくださったと思っています。なにより、不安なものを残したままにしておくほうがイヤで、再手術を受けることにしました。1回目の手術で胸の感覚がなくなっていたこともあって、2回目はあまり痛みを感じずに済みました。体への負担もそれほど大きくなく、1週間後には自分たちのお笑いライブで復帰することができました。
自分の経験が検診に行くきっかけになれば

── ご自身の体験を公表されてから、周囲からはどのような反響がありましたか。
ゆみみさん:同じ事務所に乳がんを経験している女芸人がいるのですが、手術が終わってから毎日「大丈夫?」と連絡をくれて、それがすごく心強かったんです。「ありがとう」と伝えたら、「私が乳がんで手術をしたとき、ゆみみが毎日連絡してくれて嬉しかったんだよ」と。
自分が過去に何げなくしていた行動をずっと覚えていてくれて、こうして自分が弱っているときに支えてくれた。人の温もりに触れて胸がいっぱいになりました。それからは、困っている人や悩んでいる人がいたら、自分にできる寄り添い方をしたいと思うようになりましたね。
病気を公表してからは、乳がんを経験した知人だけでなく、「私も今、検査を受けている」という人からも連絡が来るようになりました。私のことを知って、「自分も検診に行ってみよう」と言ってくれた人も何人かいて。聞かれれば、「私はこうだったよ」と自分の経験を話したり、病院の情報を伝えたりしています。私自身、自覚症状がないなかで見つかったので、自分の経験が検診に行くきっかけになればいいなと思っています。
取材・文:西尾英子 写真:サラマンダーゆみみ