北京五輪目前に体に異変が

── そんななか、北京五輪を目前に控えた時期に、突然、体に異変が起きます。

 

絹川さん:中国の昆明へ合宿に行った後、腰に激痛が走り、筋トレやウォーキングしかしていないのに膝も痛み出して、歩けなくなりました。検査をしても原因がわからず、「(何らかの)菌が入ったのかもしれない」と医師に言われ、当時先進的だった治療を受けて、いったん回復しました。

 

でも、その1年後も体調を崩して入院することに。今度はめまいと嘔吐が続き、CTを撮るために上を向いた瞬間に気絶。歩けない状態になり、1か月ほど入院しました。いくら検査をしても原因が特定できず、体の中で何が起きているのかわからない。得体のしれない感覚で、絶望していました。

 

最近になって、そのときの症状が「慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)」だった可能性があることを知りました。体内でEBウイルスが増え、発熱や肝機能障害などの強い炎症症状を引き起こす病気で、当時はまだよくわかっていなかったそうです。

 

絹川愛
旅先でリフレッシュ。陸上選手を引退した今でもスリムな体型をキープ

── 原因がわからないまま走れない日が続き、精神的にも過酷な状況だったと思います。どうやって心のバランスを保っていたのでしょうか。

 

絹川さん:支えになったのが、大好きな漫画やアニメでした。陸上の世界にいると、どうしても結果や数字だけで自分を評価してしまい、視野が狭くなりがちです。でも、自分とはまったく違う「他人の物語」の世界に触れると、陸上一色だった頭の中がフッと軽くなるんです。こういう生き方もあるんだと知るだけで不安に飲み込まれずにすみ、「今の自分にできることからやってみよう」と、少しずつ前を向くことができました。

 

たとえば競技を引退する時期に影響を受けた『A3!』というゲームは、舞台役者たちの物語ですが、「夢に向かう」点では私の陸上人生と重なります。ジャンルは違っても、まったく違う人生を歩むキャラクターたちが夢に向き合う姿に、励まされることが多かったです。

 

「アニメでそこまで?」と思われるかもしれませんが、私にとっては単なる現実逃避ではなく、行き詰まった考えを切り替えるための「補助線」のような存在でした。

 

絹川愛
蓮弥としてコスプレイヤーの世界では知られた存在に

── その後、24歳で引退という決断を下します。

 

絹川さん:アキレス腱断裂で手術し、1〜2年間、リハビリをしても元に戻らなかったんです。その間、環境の変化もありました。10年近く指導を受けていた監督が突如、音信不通で連絡が取れなくなったんです。人づてに「自分以外のコーチを見つけてくれ」と、言い残して去っていったと聞きました。

 

監督にもいろんな思いがあったのかもしれません。でも当時の私は、支えになった人から「見放された」としか受け取れませんでした。体も精神的にも限界を感じ、新しい道へ進むタイミングなのだろうと考え、選手生活に幕を引くことにしました。