正社員を外れ思い知ったお金とキャリアの現実
── 治療と仕事の両立は難しかったでしょうか?
井出さん:もともとは航空会社や旅行会社などでキャリアを積んできました。ただ、38歳のときに「仕事は努力したら取り戻せるけれど、妊娠は今しかできない」と、妊活中心の生活を視野に退職を決意しました。その後は派遣社員として週3日ほど働いていたんです。
ところが、退職直後にステージ4の乳がんが発覚。このときほど、退職を後悔したことはありません。正社員であれば、「病気休暇」などの手厚い社会保険制度などに守られていたはずですから。派遣社員では収入は不安定で、自分が所属する場所がなくなったこともつらかったです。その後もフルタイムで働くのは難しく、旅行会社でアルバイトとして働き始めましたが、コロナ禍で解雇となり無職に。
さらに夫とのすれ違いから離婚し、貯金を切り崩す生活が続き、「この先、どうなるんだろう」と不安でいっぱいの日々でした。2023年秋、47歳でようやく旅行会社の正社員として再び働き始めることができました。やっとスタートラインに戻れたと思ったのですが、周りをふと見ると、かつての同期たちは部長や支店長として、会社の中核を担う立場で活躍しています。
一方、私は正社員になれたことに安堵するも、現場で働く立場。以前よりも新しいことを覚えることは大変だし、老眼も始まり眼も見えにくくなっていて。さらに、若い人に交じってイチから仕事を覚えないといけない。その現実に悔しさでいっぱいでした。38歳で会社を退職したときは、「努力すればキャリアは取り戻せる」と信じていましたが、実際には失ったものの大きさを痛感しています。