若い頃に思い描いた姿とは違うけれども
── 闘病経験を経て、価値観などが変わった部分はありますか?
井出さん:遠回りをしたからこそ、毎日仕事があることのありがたさを実感しています。以前は当たり前だと思っていた「元気に過ごせること」の大切さにも気づきました。がんと診断されてから、「助からないかもしれない」という恐怖はつねにあって…。でも「明日どうなるかわからない」のは、誰にとっても同じなんですよね。だからこそ、「今を全力で生きよう」と思うようになりました。
今の私は、離婚も経験して、キャリアもイチからスタート。若い頃に思い描いていた姿とは違うけれど、今の自分を受け入れようと思っています。他人と比べるのではなく、「今の自分にできること」をひとつずつ積み重ねていく。それが、私にとっての「今を大切に生きる」ということであり、「自立」なのだと思います。

── がんと診断されたのが、38歳という早いタイミングだったからこその悩みも多かったのだと思います。
井出さん:がんは早期発見が大切だと言われています。それが浸透してきたから、みな検査を受け、初期の段階で治療を受けます。だから命が助かる可能性は格段に上がったんです。けれど、がんとともに生きることで、長期にわたる治療に耐えたり、医療費などの金銭面の問題が浮き彫りになったりしています。これまでのように働けなくなり、キャリアの危機にも直面します。メンタル面でも、どんどん追い詰められてしまう場合もあります。それなのに、周囲には悩みをなかなか相談できません。
というのも、がんは命にかかわる病気だから相手がひいてしまいがちなんです。同じ悩みを抱える人は少なく、孤独を感じやすいと思います。私はがんと診断されたばかりの頃、患者会にも参加してみたんです。でも、年齢の高い人ばかりで、妊娠やキャリアなどの悩みを打ち明けられませんでした。その後、自分と同世代の人の患者会を知り、ようやく共感し合える人たちと出会えました。
診断されたばかりの頃は、自分の闘病経験を人に伝えるのに抵抗があったんです。でも自分の気持ちの整理のために、少しずつSNSで発信し始めて…。すると、思いがけないほど反響がありました。がんと闘う人たちから「井出さんの思いに共感した」とか「井出さんが前を向いて進む姿に励まされた」といった声に支えられました。
発信したことがきっかけとなり、ミセスコンテストやモデルにも挑戦しました。その経験が「私にもできるんだ」と自信につながりました。誰かの役に立つと実感が持てると、自分が生きていく意味を見出せるような気がしています。
取材・文:さいだ多恵 写真:井出久日子