「消えようと思った」追い詰められた親子に
── 石黒さんの心に残っている依頼はありますか?
石黒さん:ある日の夕方に1本の電話が来たことがありました。電話口で「子どもが泣き止まなくて、このままだとどうなってしまうかわからない」と、お母さんの追い詰められている様子が伝わってきて。そのときは近くにいる「頼ってさん」がすぐに見つかり、20分でかけつけ、親御さんとお子さんのケアをすることができました。後にそのお母さんから「育児119に来てもらわなければ、子どもと一緒に消えようと思っていた」と聞き、勇気を出して我々を頼ってくださって本当によかったと思いました。

── 育児の「つらい」は突発的なことも多く、「助けて」と声を出すのも勇気がいりますよね。当日すぐに頼れるのは保護者としても心強いです。
石黒さん:緊急性の高い場合にもすぐに駆けつけることができるのが我々の強みです。「こんなに早く来てくれるんだ」「当日来てもらえるとは思わなかった」など、利用者の方からはスピード感へのレビューをいただくことが多いです。
育児119の理念は「孤独な子育てをなくすこと」。もちろん「お子さんを保育する、守る」というのも大事な使命ですが、同じく重きにおいているのは「保護者の心を守る」ことです。
私自身も子育てをしているなかで感じることですが、保護者に余裕がなければその皺寄せは子どもにいってしまいますよね。たとえば、子どもへの注意がちょっと強い口調になって、あとから自己嫌悪してしまうとか。親がつらければ子どももつらい、親が笑っていれば子どももうれしい。我々がまず保護者の方に安心感と余白を届けることで、より幸せな子ども、家庭を増やしていけるのではと思っています。
── 今後の育児119の目標を教えてください。
石黒さん:現在、かけつけサービスは首都圏を中心にした6都道府県で利用可能ですが、今後は47都道府県に展開を広げ、全国誰もが何かあったときに利用できる心のお守りのようなサービスにしたいと考えています。ゆくゆくは母子手帳に育児119が掲載され、子育てのインフラになれたらうれしいですね。
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「不可能」だと言われたこともあった育児119のかけつけサービス。しかし、今や多くの保護者に頼られる存在になっています。その原動力になったのは石黒さん自身の信念、「頼ってさん」たちの経験からくる思いでした。「誰かの力になりたい」「つらい経験を繰り返させたくない」そんな素直な願いこそが不可能を可能に変える力を持っているのかもしれません。
取材・文:阿部祐子 写真:石黒和希