「家の中では年じゅう裸足で過ごし、左腕と足を使ってオムツ替えをしています」。交通事故で、右腕を失った伊藤真波さん。事故の後は結婚も出産も諦めたそうですが、理解ある夫と出会い、現在は3児の母として子育てに奮闘中。片腕であることを隠さずに子どもと向き合いながら、「やってあげたいのにできない」というジレンマに揺れる日々を送っています。

「片腕では無理」立ちはだかった結婚への壁

義手のバイオリニスト・伊藤真波さん
現在は義手のバイオリニストとして演奏活動も行う

── 現在は9歳、6歳、3歳のお子さんの育児に奮闘中の伊藤さん。バイク事故で右腕を切断した直後は「片腕のない自分は、もう恋愛なんてできない」と諦めていたそうですね。当時はどのような未来を描いていましたか?

 

伊藤さん:右腕を失ったとき、「障がいのある自分には、恋愛も結婚も無理だろう」と思いました。鏡で自分の姿を見ることすらつらく、それまで描いていた「いつか結婚して家庭を持つ」という未来をまったく想像できなくなったんです。

 

でも、その後、義手を使って幼いころからの夢だった看護師になることができ、さらに、リハビリで始めた水泳がきっかけで、パラリンピックの日本代表選手にも選ばれました。人生を振り返ると、決して平坦ではない道のりでしたが、「できないかもしれない」をひとつずつ覆すごとに、「片腕の自分」に少しずつ自信が持てるようになっていきました。

 

夫と出会ったのも、ちょうどこのころです。お互いの価値観や生活感覚が近かったことから話が弾み、気づけば恋愛感情を抱いていました。

 

── パートナーは伊藤さんの障がいのことを、どのように受け止めたのでしょうか。

 

伊藤さん:夫は障がいへの偏見がまったくない人でした。出会って最初のころは、私が義手をつけていることにすら気づいていなかったようです。後から聞いたところ、「片手が使いにくそうだな。骨折でもしたのかな」と思っていたんだとか。

 

「事故で片腕を失った」ことを私から伝えたときも、「そうなんだ」とあっさりしていて。「こんな人もいるんだな」と驚かされました。

 

── 結婚を決めたときの周囲の反応はいかがでしたか?

 

伊藤さん:夫の両親からは、強く反対されました。「子どもができたとしても、片腕で世話をするのは無理だろう」「障がいのせいで、子どもがいじめられたらどうする」と言われて。親として息子を思うからこそ出た言葉だと思います。でも、私のことを受け入れてくれた夫だから、両親も同じように受け入れてくれるだろうと考えていたので、正直ショックで。これまで築き上げた自信が、一気に打ち砕かれました。

 

── しかし、旦那さんは根気強くご両親を説得されたそうですね。

 

伊藤さん:はい。夫の両親は身近に障がいのある人がいなかったため、不安や先入観もあったのだと思います。「右腕がないことは私たちの生活にとって大きな支障にはならない」と夫は両親に繰り返し伝えてくれたそうです。おかげで半年ほど経って、ようやく結婚が認められました。本当に嬉しかったです。