「ひとりで何でもやる」よりも大切な自立

── 周りを頼ることで、伊藤さんらしい働き方が見えてきたのですね。

 

伊藤さん:正直、「頼ること」に抵抗があった時期もありました。でも、医療の現場は、もともとチームで動くものですし、「頼ることも仕事の一部だ」と次第に納得できるようになりました。

 

── 仕事で接した患者さんの反応はいかがでしたか?印象に残っていることはありますか?

 

伊藤さん:私の義手を見て不安気な表情を浮かべる患者さんもいました。そういう患者さんの場合、処置はほかの看護師に任せ、私は対話するところから始めました。まずは私を知ってもらい、信頼関係を築く。「私にできること」をそうやって積み重ねていったんです。

 

──「できない自分」を認めることに、葛藤はありませんでしたか?

 

伊藤さん:もちろん、ありました。でも、できないことを無理にやって、万が一のことがあったら、病院全体の責任になってしまいます。私を受け入れてくれた病院と仲間たちに迷惑をかけることに比べたら、「できないことはできない」と認めたほうがいい。無理をして看護師の仕事を続けられなくなるよりも「続けられる形」を選ぶことのほうが大事だと思うようになったんです。

 

── 片腕で働くなかで、「働くこと」についての意識に変化は生まれましたか?

 

伊藤さん:以前は「自立とは、ひとりで何でもできること」だと思っていました。でも今は、「自分にできることをきちんと果たすこと」が自立するうえで大切だと考えるようになりました。

 

全部をひとりで抱え込むのではなく、周りに助けてもらいながらでも、自分の役割を果たしていく。そのほうが、長く働き続けることにもつながるのではないかと思っています。

 

そう気づくまでに、だいぶ時間がかかってしまいました。でも、「自分にできることを果たす」という考え方は、働き方だけでなく、現在の家族との向き合い方にも共通していると感じています。そしてそれは、きっと誰にとっても向き合うことのあるテーマなのかもしれません。

 

取材・文:佐藤有香 写真:伊藤真波