家族にだけは「踏み込めなかった」理由
── すべてを見せる覚悟を決めた一方で、どうしても踏み込めない領域もあったそうですね。
阿久津さん:家族です。これまで患者さんのご家族には踏み込んできたのに、自分の身内という一番デリケートな場所には踏み込めなかった。直接、夫の気持ちを聞けず、同行していた女性カメラマンが夫に話を聞いてくれました。夫は「悔しかったんだと思う」と、私の心中を代弁してくれました。これだけ取材して知識もあるのに、病気を防げなかった無念さを察してくれたんです。
ですが、実の妹や母がどう受け止めているのかについては、怖くてなかなかカメラを向けられず、妹の本音はドキュメンタリーの中では最後まで聞くことはできませんでした。

── 当事者になったことで、伝えることの意味は変わりましたか。
阿久津さん:自分が取材される立場になって初めて、言葉が誤解されることの怖さ、意図とは違う形で受け取られてしまう不安を実感しました。だからこそ、あのとき、踏み込んだ質問に答えてくださった方々が、私にどれほど信頼を寄せ、言葉を託してくれていたかを痛感したんです。そのことに改めて気づき、取材当時以上に、感謝の気持ちが強くなりました。
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「自分の経験が、誰かの力になれば」。そう願って人生をさらけ出すことの重みを、阿久津さんは身をもって知りました。皆さんは、誰かの勇気ある言葉に救われた経験はありますか?
取材・文:西尾英子 写真:阿久津友紀