「町工場の星」と枕を抱いて泣いた夜
── 2年目、3年目と、改革はさらに進んだのでしょうか?
諏訪さん:父の代の「トップダウン」から、現場の声を聞く「ボトムアップ」にも切り替えました。作業着で工場に入り、一緒に汗を流し、トイレ掃除もする。社員の変化を察して声をかける。「この社長は自分たちを見ている」と感じてもらえるよう、対話を積み重ねました。
また、自社の強みを知るために取引先を回り、求められていた「スピード対応」を強化するためにIT化を他社に先駆けて導入。さらに、バラバラだった作業工程を文書化して効率を極限まで高めました。一つずつ、逃げずにやり切ったんです。
── 業績はV字回復を遂げ、「町工場の星」と呼ばれるまでになりました。その後、社員のみなさんとの関係はどう変わりましたか?
諏訪さん:3年の改革を終えて社員旅行へ行った際、かつて私に反発していた幹部たちが「社長に一生ついていきます」と言ってくれたんです。旅館の部屋に戻った後、ひとりで枕を抱きしめて声を殺して泣きました。「二代目として生まれてよかった」と心から思えた瞬間でした。
当時、まさか自分が社長になるなんて夢にも思っていませんでしたが、今となっては貴重な体験をさせてもらったこと。そして仕事を通じて自分自身が成長できたことが、何よりの財産です。
…
周囲に否定され、孤立無援で始まった再建の道。それでも諏訪さんは現場に立ち続け、自らの手で一つずつ、目の前の景色を変えていきました。
もしあなたが、思いもよらない逆境のなかに放り出されたとしたら。誰かの言葉に惑わされるのではなく、自分自身の行動で、新しい一歩を踏み出すことができますか?
取材・文:小山内麗香 写真:諏訪貴子