「指があったら、と思う日は今もある」。そう漏らすほど心は揺れ動く。けれど、日々の工夫をSNSで発信すると、時に「働けるのになぜ」と厳しい声が届くこともあった──。生まれつき右手の指が欠損している、むろいのぞみさん。いっけん、普通に生活を送っているように見える彼女に向けられるのは、わかりにくい障害ゆえの無理解でした。健常と障害の「はざま」でどちらの枠にも収まりきれない葛藤を抱えながら、彼女が辿り着いた「無理に前を向かない」生き方に迫ります。 

「小さなボタン」に手が止まる。普通に見えるからこその苦悩

むろいのぞみ
人のボタンやファスナーを閉めるのは工夫がいると語る

── 生まれつき右手の指がすべてない「先天性四肢障害」の当事者である、むろいのぞみさん。現在は知的障害のある方が暮らすグループホームで生活支援員として働きながら、SNSでの発信や俳優活動にも挑戦しています。

 

生活支援の現場で、右手の指がないことで手が止まる瞬間はどんなときでしょうか。

 

むろいさん:たとえば、利用者さんの洋服のファスナーを閉めたり、小さなボタンを留めたりするときですね。指先でつまんで空中で留めるのが難しいので、自分の体や壁に腕を押し当てて固定しながら止めるしかありません。急いでいるときはもどかしさを感じますが、これが私の日常。自分なりのやり方を探しながら対応しています。

 

── ご両親に「ぐーちゃん」と呼ばれ、「かわいいね」と育てられた右手。しかし恋愛となると、また別の不安があったそうですね。

 

むろいさん:中学や高校のころ、「相手は私の手をどう思っているんだろう」という不安が常にありました。初めて付き合ったのは21歳ごろ。相手の方から「手のことは気にしないよ」と言ってくれて、初めて安心できました。言葉にしてもらわないと「進んでいいんだ」という確信が持てなかったんです。

 

── 毎回、相手の受け止め方をたしかめないと前に進めないというのは、臆病にもなりますね。

 

むろいさん:はい。その境界線を毎回、越えなくてはいけない感覚があって…。それが心の大きな負担になっていました。